俳優・映画人コラム

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2017年01月07日

フィルムセンター特集上映記念!押井守監督インタビュー!

フィルムセンター特集上映記念!押井守監督インタビュー!

■「キネマニア共和国」

東京国立近代美術館フィルムセンターでは、2017年1月10日(火)から22日(日)まで、恒例の特集企画「自選シリーズ 現代日本の映画監督」第5回として、押井守監督作品を12プログラム、20作品を上映することになりました。

押井守監督といえば、アニメーションと実写の垣根を越えた先駆的活動の中、独自の映像哲学を展開し続け、世界中の映画人にも多大な影響を与えてきた存在です……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.189》

というわけで、押井監督ご本人に、今回フィルムセンターでこのような過去最大規模の特集上映が開催されることについての印象などを取材してきました!




(なお、押井監督は話し始めたら止まらなくなってしまうかたなので、今回はもうこちらのコメントなど挟まず、監督の談話のみでご紹介!)

35年で30本、
バラバラなものばかり作り続けてきた


まあ、回顧上映みたいなことなんでしょうけど、僕はまだ生きてるし(笑)。先日、アニー賞も受賞しましたけど、あれも生涯功労賞(ウィンザー・マッケイ賞)みたいなもので、“もう辞めていいよ”と肩を叩かれている気分もありました。でも、僕はまだまだ辞める気はない(笑)。

監督になってちょうど35年なんですけど、劇場公開した作品だけで30本くらい。実写とアニメで半々くらい、よく作ってきたなと。日本の監督で、35年で30本というのは決して少なくはないと思うんです。ただ、まだ達成したとか、もう終わったという気は自分の中に全然ない。おそらくこれからもないだろうという気に改めてなったというか、その意味での節目として、多少前向きに考えようとは思っています。

改めて30本を眺めてみると、こんなにバラバラなものばかり作ってきたんだなと。それ以外にも舞台の演出やったり、万博とかいろいろな仕事もやりましたけど、中身というか形式にしてもみんなバラバラ。

アニメは当然1本1本表現の仕方が違うってことがあるにせよ、僕自身が絵描きではないので毎回スタイルを変えていくっていうのがモチベーションとしても必要でしたが、実写にしても戦争の映画もあれば、ゲームの映画もあれば、立ち食いソバの映画もある(笑)。

ただ、アニメにしても実写にしても、一貫しているのは現実の話って1回もやってないんですよ。常に非現実とか非日常。そういうものしかやってきてない。まあ、しいて言えば『立喰師列伝』(06)は日本の戦後史のつもりでやりましたが、人物自体は虚構だし、史実だけはなぞっているけどいろいろ嘘もついているし、実はまともな歴史ではない。もっとも、ヨーロッパのほうではあれが日本の戦後史だと勘違いされちゃったみたいだけど(笑)。



©2006 押井守・Production I.G / 立喰師列伝製作委員会



でも意識して非日常ばかり描いてきたわけではなくて、結果としてそうなっただけで、結局自分が作りたい映画ってそういう“作り物”の世界なんだろうなというのが改めてわかりました。

日常生活で映画は見ない。
映画監督は映画と距離を置くべき


映画監督って映画に飽きたらおしまいだから、飽きない努力もかなりしてきたつもりですが、それは目先の表現を変えたりとかそういうことではなくて、僕の場合は日常生活でなるべく映画に触れない。実際、見てないしね。まあ、最近になって僕はもう1000円で映画を見られる年齢だってことを知ったので(笑)、2016年は3回くらい見たかな。『シン・ゴジラ』とかそっち系ですけどね。

もう12,13年くらい前から映画館に行ってなかったし、試写会に呼ばれてもなるべくお断りしてました。映画に浸っちゃうと、何か違うかなと。それよりは本を読んだほうがいいとか舞台を見たほうがいい。

理想を言えば、自分が作る映画は自分にとって“最初の1本”であってほしいし、さらにいえば“世界で初めて”の映画であってほしいんです。だからどんな風に作るかということ以前に、映画ってどういうものなんだろうと考えたほうがいいのかなと思って、ずっと仕事してきた部分もあるのかな。

だから映画とは上手く距離を置いていたほうがいい。また現実の生活によって作るものも影響されると思うので、この30年間何回引っ越したかわからないし、犬を飼ってみたり、最近は猫もいっぱいいるけど、そういう風に人間ではなく動物と接するとか、あと2016年はヒマだったせいもあって、べったりとゲームをやってたかな。だからこうして話している今も、本当は早く家に帰ってゲームの続きをやりたい(笑)。

まあ、人から見れば遊んでいるように思われるかもしれないけど、実は映画と違うことに興味を持つことが大事であって、実際ゲームをやりながら映画のことを考えたりするんですよ。特に最近のゲームが部分的に映画と変わらないところもあるし、でもやはり違うものがある。その違うものって何なんだろうと考える……。

自分が映画に踏み留まっている
最後の一線とは?


最近、舞台の仕事を進んでやる監督さんも増えてきているけど、それもよくわかります。映画の現場って、意外に役者さんたちとつきあう機会ってないんですよ。でも舞台の演出だとみっちりつきあえる。役者さんに興味が出てくると、本当に舞台って楽しい。

ただ舞台は後に何も残らない。劇シネみたいなものもあるけど、あれは舞台を記録したドキュメンタリーであって、やはり舞台そのものではないし、映画でもない。しかも自分が撮るわけでもないしね。

だから、それこそ自分が映画に踏み留まっている最後の一線なのかな。形が残るというか、何十年経っても、映画は見られる。もっとも「見なきゃよかった!」っていうものもあるんだけど(笑)。別に未来遺産的な感覚ではないけど、自分が生きている間だけでも「残す」ってことは、それを誰かが見てくれるという意味でもありがたいしね。

陽の当たりにくい作品こそを
今回はチョイスしてみた


今回は自選ということで作品をチョイスしてきましたが、かなりしんどかったですね。ただ、いろいろ考えていった末に自分の中の基準として、フィルムセンターさんがプリントもしくはDCPで作品を保存していただけるということで、そのままほっといておくと消滅してしまいそうな作品を優先して選んでみました。

たとえば『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)とか、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95)や『イノセンス』(04)とか、代表作と言われているものは僕が生きている限り、どこかに残っているだろうと思うんですよ。上手くいけば、年に1回くらいはどこかで上映してくれるかもしれない。



©1984 東宝 ©高橋留美子/小学館





©1995 士郎正宗 / 講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT





©2004 士郎正宗 / 講談社・IG, ITNDDTD



だから逆に「なかったことになりかねない」陽のあたりにくい作品を優先しましたから、世間の評判とは必ずしも一致してないと思いますけど、この監督はこういうものを作ってたんだというのも知っていただけるとありがたい。

ただ『機動警察パトレイバー2 the Movie』(93)だけは外せませんでした。これは自分にとって一番想いの深い作品で、監督として「何か」が見えたという大事な作品なんです。かなり苦労して作ったしね。



©1993 HEADGEAR / BANDAI VISUAL / TOHOKUSHINSHA / Production I.G



逆に『THE NEXT GENERATION―パトレイバー―』シリーズはまだ終わった感じが全然していなくて、特にあのキャラクターたちがまだ収まるところに収まっていない。だから今回は入れない方向でいったんですけど、ただ『EPISODE:5&6 大怪獣現わる』(14)だけは番外編というか、あのシリーズのキャラクターたちと関係ない世界で、特車二課の連中は酒飲んで酔っぱらってるだけなんだよね(笑)。撮影中も筧利夫さんから「この作品、前後篇でスペシャル感満載だけど、うちら関係ないですよね?」って言われたし(笑)。まあ、実はあそこで自分なりの怪獣映画というものをやってみたかったんですけど、やはりまともな怪獣映画にはならなかった(笑)。でもシリーズってそういうこともやれるから楽しいですよね。

『ケータイ捜査官7 圏外の女』(08)みたいなものも入れてみました。これは僕が唯一やったテレビドラマで、シリーズ監督の三池崇史さんに甘えて好き勝手やらせてもらった作品です。



©WiZ・Production I.G・バディ携帯プロジェクトLLP / テレビ東京



中には原版がなかなか見つからなくて探すのに苦労したものや、またDCPを新たに作らなければならないものもあったりして、フィルムセンターさんにはご迷惑もおかけしましたが、こういった上映を実現してくれたことに本当に感謝しています。いろいろ自分のことを見直すいい機会になりました。

でも、繰り返すわけではないけど、まだ辞めるわけではないのでね(笑)。

これからはピンクでも時代劇でも
麻雀ものでも、依頼されれば何でもやる


今後もし文芸映画みたいな話が来たら、おそらくやると思います。やれと言われたら何でもやる。ただ、どこかでおかしくなるというか、普通にやると3日で飽きそうだから(笑)、いじくり始めたら止まらなくなっちゃうでしょうね。

昔、実はピンク映画を撮らないかという話があったんですよ。あるプロデューサーと知り合って一緒に呑んでいるうちに、「あんた撮らない?」と。でも、そのときはまだ自信がなくて断っちゃったんですよ。タイトなスケジュールの問題とかは、当時まだ若かったから2,3日は寝なくても大丈夫だったんですけど、濡れ場を撮る自信がなかった。今だったら絶対やりますよ。ただ、3日も寝ないで撮れるかどうかはわからない(笑)。

やってないということでは、まだ時代劇をやったことがないので、これはやってみたいですね。とにかくいろんなものをやってみたい。

麻雀もののVシネマも実は大好きで、やってみたいんですよ。あのジャンルはどうすれば面白くなるか、相当な数のものを見て研究しましたけど、大体が定番中の定番で、はじめにちょこちょこ人間関係のお話があって、師匠みたいな人が殺されたりして、結局は「卓の上で勝負だ!」みたいな感じで、中盤とクライマックスに麻雀シーンが入る(笑)。僕はもっと面白くする自信がありますよ。

先ごろ『ガルム・ウォーズ』(15)を発表できて、それまで貯め込んでいたものをようやく出せたというか、せいせいしたという想いはありますけど、だからといってそれで一区切りといった感も全然ないし、むしろこれからは残された時間とかを考えると、短くても安くても何でもいいから、いっぱい撮りたい。一発勝負したいという気は、まったくないですね。

もう余計なことは考えない。大体10日くらいの撮影期間でいいから、その日その日の自分の体になじんだものを、毎年2本は撮りたい。

映画監督って自分の意思で何かを作り出すということではなく、世間の都合でオファーされたものを作る。そこで初めて仕事になるわけで、若い頃はそこを勘違いしていたから「扱いにくい」監督なんて思われるようになっちゃったけど、今は本当に「素直」で「穏やか」な監督ですから(笑)。

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(取材・文:増當竜也)

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