映画コラム
トム・ハンクスが島耕作みたいになる映画が公開される件
#Tags
トム・ハンクスが島耕作みたいになる映画が公開される件
(C) 2016 HOLOGRAM FOR THE KING LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
2月10日(金)公開の映画『王様のためのホログラム』は、『フォレスト・ガンプ/一期一会』や『ハドソン川の奇跡』のトム・ハンクス主演最新作です。本作の魅力がどこにあるのか?たっぷりとお伝えします。
1:これはトム・ハンクス版「課長 島耕作」!?
本作のあらすじは、“愛する娘の学費を払うためにIT企業に転職したサラリーマンが、サウジアラビアの砂漠まで3Dホログラムの映像装置を売りに行く”というもの。中年サラリーマンの世知辛さが描かれつつ、異国の地へ出張し、出会った運転手と友人関係になり、取引のために奔走するという内容は、日本のマンガ「課長 島耕作」および、そのシリーズ作品にも似ていました。
「島耕作」シリーズといえば、美女と夜の営業に励む展開も見所の1つですが、『王様のためのホログラム』も負けず劣らず女性といい感じになったりします。その女性を演じるのは、『インフェルノ』でもトム・ハンクスと共演したシセ・バベット・クヌッセン(48歳)と、『セレブの種』や『レディ・イン・ザ・ウォーター』のサリタ・チョウドリー(50歳)。美人熟女ファンも必見と言えるでしょう。
ちなみに、「課長 島耕作」は田原俊彦主演で実写映画化がされているほか、テレビドラマも宅麻伸主演(フジテレビ版)および高橋克典主演(日本テレビ版)でそれぞれ製作されていました。本作ではトム・ハンクスがそれらの色男に匹敵……いや、それ以上の島耕作っぽいモテ男(でも情けなさも併せ持つ)を演じるのですから、彼のファンは是が非でも観てほしいのです。
(C) 2016 HOLOGRAM FOR THE KING LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
2:さすがは『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァ監督!開始30秒の“勢い”は必見!
本作の監督は『パフューム ある人殺しの物語』や『クラウド アトラス』のトム・ティクヴァ。ややクセの強い作品が多いのですが、その奇抜な画作りや語り口に魅了された方はきっと多いでしょう。
本作でも、トム・ティクヴァ監督節が炸裂していました。特に、“開始30秒”がすごすぎるのです。詳しくはネタバレになるので書けないのですが、オープニングで提示される驚きは、監督の出世作『ラン・ローラ・ラン』を彷彿とさせました。
このオープニングはあっという間に終わるので、映画が始まったらすぐに集中し、脳を活性化させておくことをおすすめします。これは決して奇をてらっただけのものではなく、今後の展開にも深く関わってきますよ。
(C) 2016 HOLOGRAM FOR THE KING LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
3:異国の地でもひとりぼっち?コミュニケーションの本質や人生を見つめ直す作品だった!
本作のプロットは前述した通り“うだつのあがらないサラリーマンが砂漠にホログラム装置を売りに行く”というものです。劇中では事件らしい事件があまり起こりません。主人公が交渉のためにいろいろと渡り歩いたりするだけと言っても過言ではなく、有り体に言って地味な内容なのです。そうであるのに(だからでこそ)、人生の酸いも甘いも経験したオトナが共感できることが、本作のミソになっていました。
例えば、主人公が砂漠に簡易的に建てられたテントの中に入った時、“誰もいなさそう”に見えるも、ずんずんと奥のほうに行くと若い社員がいて、やっと話かけることができた、というシーンがあります。何気ない描写ですが、こうしたシーンに孤独な中年サラリーマンの悲哀や、上手くいかないコミュニケーションが暗示されているのです(この後に有名映画のネタを言うも、若者に理解されないのがまた悲しい)。
そのほかにも、運転手の男が車に爆弾がセットされてやしないかと不安になることや、主人公に背中にできてしまう“コブ”、夜の砂漠の狩りで見た“動物”も、人生やコミュニケーションのメタファーになっています。主人公が異国の地の文化に気付かずにしてしまった、とある誤解を生む発言は、そのまま彼のコミュニケーション不全を表しているかのようでした。
こうした直接的なではない“含み”を持たせた描写、ちょっとした言葉や行動からさまざまなメッセージを受け取ることができ、観客それぞれで異なる解釈ができる、というのは映画ならではの醍醐味でしょう。サラリーマンの方はもちろん、今までコミュニケーションにおいて苦い思いをしたことがある人にとって、きっと心に染み入る映画体験ができるはずです。
(C) 2016 HOLOGRAM FOR THE KING LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
まとめ:砂漠で撮影した価値があった!
本作の“砂漠”という舞台は主人公の孤独や焦燥感を表すのに打って付けでした。実はサウジアラビアでの撮影が許可されなかったため、スタッフはモロッコでの製作を敢行したものの、撮影場所では虫が大量発生したり、砂嵐に巻き込まれたり、機材が1日半も行方不明になるなど、毎日のように大惨事に見舞われたのだとか。地味な作風なのですが、その製作過程にはかなりの困難があったのです。
ティクヴァ監督は「本当の砂漠で撮影することで、俳優やスタッフ皆が強烈な力を発揮した。完成した映画に現れているはずだ」と語っています。まさにその通りで、広大な砂漠の景観は否応なく不安を煽りますし、この舞台でなければ表現できないであろう、主人公の“感情”をいくつも観ることができました。
特に感動したのは、砂漠と相対するような、ある美しい景色と、主人公が語ったとある“思い出”です。殺風景な砂漠の画はこのためにあったんだ、このためにずっと主人公は悩んでいたんだ(でも救われたんだ)と気付ける、素晴らしい描写になっています。
繰り返しになりますが、本作は大きな事件があまり起きない、本当に地味な作風です。それでも、この映画をトム・ハンクスやトム・ティグヴァ監督のファンはもちろん、「島耕作」シリーズが好きな方、働くオトナすべてにおすすめしたいのです。観た後に“どうにかなるさ”と前向きになれる、素敵な人生賛歌なのですから。本作は2月10日(金)より公開、公開館数は決して多くはないですが、1人でも、大切な人とでも、ぜひご覧ください。
■このライターの記事をもっと読みたい方は、こちら
(文:ヒナタカ)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。