映画コラム
『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』は美少年がちょいエロトークをする映画?“何も起こらない映画”の魅力も振り返る
『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』は美少年がちょいエロトークをする映画?“何も起こらない映画”の魅力も振り返る
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.
本日2月18日より公開の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』は、『ナイトクローラー』や『サウスポー』のジェイク・ギレンホール主演による最新作。映画ファンにとってはこれだけで見逃せない作品なのですが、本作にはもっともっと多くの人に知ってもらいたい作品であると感じました。その理由を、以下に紹介します。
1:『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』……美少年とちょいエロトーク!?
『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』の物語は、エリート銀行マンだった主人公が、妻が事故死した事実に泣くことができないがために、自己嫌悪に陥ってしまうというものです。
その主人公が自らの人生を再生するために何をするかといえば……“破壊”です。具体的に何を壊してしまうかは秘密にしておきますが、きっと「そんな物まで壊しちゃうの?」という驚き(とほんの少しのドン引き)があることでしょう。原題が「Demolition(破壊、解体)」であることも、自ずと納得できるはずです。
この破壊の描写から浮かび上がってくるのは“何かの再生のためには、何かの破壊(あるいは過去に囚われないこと)が必要なのかもしれない”というメッセージです。作中ではそれ以外にも多重構造になった複雑な要素があるのですが、ひとまずこのポイントを期待して観れば、きっと前向きに生きるためのヒントがもらえるはず。これは、幼稚園児たちのギャング団が街で暴走しまくる破天荒すぎる映画『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』(現在公開中)にも似たテーマでもありました。
そして……超がつくほど美しい少年が、その見た目とギャップのあるお下品な会話を主人公と繰り広げるシーンがたくさんあったりします。少年が何かを喋ればF××Kという言葉がいちいち出るのは当たり前、話している内容自体も思春期の少年にとっては少々刺激的すぎるものです。PG12指定(12歳未満の方は保護者の助言・指導が必要)は納得のレーティングと言えるでしょう。
ところが、この少年のお下品なちょいエロトークが、後に主人公にとって(少年自身にとっても)重要になってくるというのが本作のニクいところ。くだらなそうに思える会話が、しっかり伏線として機能しているのです。映画における“脚本の力”を感じたい方にも、オススメと言えるでしょう。
なお、この少年を演じたジュダ・ルイスは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『スパイダーマン:ホームカミング』などでの新しいスパイダーマン役の候補として、1500人以上のオーディションから最終候補の6人に絞り込まれていた1人だったりします。若干15歳ながらその存在感は圧巻、少女と見間違うほどの美しさも備えているのですから……美少年好きにはもちろん必見ですし、新世代のスターに期待したい方にとっても、彼の魅力に触れてみて欲しいです。
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2:『歩いても 歩いても』……家族が、日常をすごすだけ
ここからは、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』と同じく(あるいはそれ以上に)、“大きな出来事がほとんど起こらない(何も起こらない)名作映画”を紹介しましょう。
こちらの『歩いても 歩いても』の内容は、“家族が久しぶりに集まって、何でもないような日常をすごすだけ”と言っても過言ではありません。しかし、その中で家族に何があって、どういう関係性があるのかがゆっくりと見えてくるのです。
具体的には、“15年前に長男が亡くなっていたこと”が家族の中でどのような影響を及ぼしたのか、その理由が何であるのかが、徐々にわかるようになっています。それが“ミステリー”と言っていいほどにスリリングであることが、映画を観ているうちにだんだんと分かってくることでしょう。
阿部寛、夏川結衣、YOU、樹木希林をはじめとした役者たちの演技は、もはや演技とは呼べないほどに“自然”です。“どこにでもありそうな家族の日常の会話を切り取っているだけなのに、これほどまでに面白いのか”と映画のさらなる魅力に気付ける1本と言ってよいでしょう。
なお、是枝裕和監督は本作の他にも『海よりもまだ深く』などの“大きな出来事がほとんど起こらない映画”を手がけています。中でも『海街diary』は綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという日本を代表する女優たちがかわいらしい四姉妹を演じており、そのイチャイチャにずっと萌えられるのでオススメですよ。
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3:『普通の人々』……息子の自殺未遂が、家族に何を及ぼすか
自殺未遂を試みてしまった少年と、その家族の物語です。“母がなぜその行動をしたのか”や、“父はどうしてああ言ったのか”などを、直接的には示さずに、観客に想像出来る余地を残している作品でした。
実は“何も起こらない”わけではなく、1つだけ大きな事件が起こるのですが……それは秘密にしておきましょう。印象的なラストシーンまで、ぜひ見届けてほしいです。
ちなみに、本作は名優ロバート・レッドフォードの初監督作品であり、アカデミー賞では作品賞を含む4部門に輝きました。派手な展開がない作品でも、こうして世界的な評価が与えられている事実は、映画ファンとしてとてもうれしかったりします。
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4:『ラビット・ホール』……ファンタジーの世界を願うけど、リアルだった
こちらも『歩いても 歩いても』と同じく、物語の前に“長男の死”という事実があったことを示す作品です。
ラビット・ホールとは「不思議の国のアリス」に登場する別世界への扉であり、作中では息子をひき殺してしまった少年が描いたコミックのタイトルになっています。そのコミックにおけるラビット・ホールの先には“違う未来の世界がある”という希望が提示されていました。
しかし、現実はそんなファンタジーのようにはいきません。息子を失った母は、どうしても“息子が生きている世界”に行きたい……でも、それは叶わないのです。本作で描かれているのは、大切な人を亡くした全ての人が抱える普遍的な悲しみと、“持ったところでどうしようもない希望”でした。
この物語が素晴らしいのは、そのような現実の残酷性を示しながらも、“現実で叶えられる希望”を描いていることにあります。祖母が“ポケットの中の石ころ”にたとえて語った言葉、ラストシーンで提示されるメッセージに救われる方はきっと多いはず。ぜひ、多くの方に観てほしいです。
ちなみに、『セッション』で偏狭的な価値観を持つ学生を演じて話題になったマイルズ・テラーが、こちらでは“普通”の少年を演じていたりします。その演技の幅にも驚けますよ。
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5:『永い言い訳』……物語が『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』とそっくり?
これまで紹介した映画に比べれば色々な出来事が起きている作品ではありますが、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』との共通点が多い作品でもあるので、紹介せずにはいられませんでした。何せ、“主人公は、妻が死んだけど泣くことができなかった”という物語の発起点が似ているだけでなく、どちらの作品でも“子どもとの交流”が主人公の人生を再生していくのですから。
『永い言い訳』では、(少なくとも序盤は)小説家の主人公が超イヤ〜な性格であることがむしろ魅力になっています。コイツは浮気をしていただけでなく、編集者を花見の席で侮辱していたりもしますから。そんな高慢きちが、不器用ながらも何とか子どもとコミュニケーションを取ろうとしたり、はたまた“どうしても抑えきれない価値観を噴出させてしまう”様子がドラマチックに描かれているのです。
往年のアイドルであるモッくんこと本木雅弘が、こんな独善的でダメダメな主人公を演じているというのがたまりません。さらに、準主役級の(こちらも別の意味でちょっとダメな)父親を演じた竹原ピストルは本作で日本アカデミー賞の優秀助演男優賞を受賞しました。役者の演技を期待する人にも必見と言えるでしょう。
なお、西川美和監督は前述した『歩いても 歩いても』の是枝裕和監督に師事しているお方であり、その作品群は師匠の“役者の自然な演技”や“大きな事件がなくてもスリリング”という作風を受け継ぎながらも、独自のカラーをしっかりと出しています。悲しい兄弟のドラマ「ゆれる」、笑福亭鶴瓶絵が偽医者を演じた『ディア・ドクター』でも、その“作家性”の濃さを感じられることでしょう。
『永い言い訳』のDVD/Blu-rayの発売日は、4月21日です。
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まとめ
批判対象としてそのタイトルを挙げるわけではありませんが、これらの作品は、現在でも息の長いヒットを続けているアニメ映画『君の名は。』と対極に位置していると言えます。
『君の名は。』はスピーディーな展開、美しい風景描写、エモーショナルなボーカル入りの楽曲、力強い言葉などで“攻める”作品でした。一方で、『歩いても 歩いても』を初めとした映画にはそうした“怒涛の展開”はなく、悪い言い方をすれば“地味”なのです。
しかし、筆者はそうした地味な作品こそに、“映画としての魅力”が詰まっていると考えます。映画には、小説や音楽にはない、役者の演技、シーンに映り込むさまざまなものなどで、“どのように登場人物が思っているか”、“どのような意味があるか”を、観客が考えられるという面白さがあるのですから。特に、人間の複雑な感情を、これほどまでに(言葉以外で)示せている芸術は、映画の他にはないでしょう。
なお、“何も起こらない映画”は、トム・ハンクスが「課長 島耕作」のように海外で営業をする『王様のためのホログラム』(現在公開中)や、妻に先立たれた父親と婚期を迎えている娘との関係を描いた『秋刀魚の味』(1962年の作品)など、この他にも新旧分け隔てなく作られ続けています。ぜひ、こうした“何も起こらない映画”の魅力も、知ってください!
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(文:ヒナタカ)
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