映画コラム

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2017年07月20日

美女じゃなくて、オトコ! “フィリピンのざわちん”が体現するトランスジェンダーの人生『ダイ・ビューティフル』

美女じゃなくて、オトコ! “フィリピンのざわちん”が体現するトランスジェンダーの人生『ダイ・ビューティフル』



(C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films


こんにちは、八雲ふみねです。

今回ご紹介するのは、7月22日から公開の『ダイ・ビューティフル』。
『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』『銀魂』『メアリと魔法の花』など、エンターテインメント超大作が目白押しの2017年夏映画。
昨年の東京国際映画祭で多くの支持を集め、観客賞と最優秀男優賞の二冠に輝いた秀作がいよいよ公開です。

八雲ふみねの What a Fantastics! ~映画にまつわるアレコレ~ vol.114



“ミスコンの女王”として名を馳せたトランスジェンダーのトリシャ・エチェバリアが、突然死した。

彼女の遺言は、埋葬前に幾夜も行われる儀式で、毎回異なるメイクをしてほしいということ。日替わりでセレブそっくりの死化粧を施されたトリシャ。

その姿を目の当たりにした友人たちは、常に自分らしく美しくあり続けた彼女の、少し変わった人生を思い起こしていく。

息子として、母として、友として、恋人として。
そして、女王として生きたトリシャの生き様を…。





(C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films



顔をキャンバスに…。映画を彩る“セレブものまねメイク”に隠された秘密とは。


女性として生きることを選んだトリシャの人生と、彼女の願いを叶えようとする友人たちの姿を、ユーモアを交えて映し出している人間ドラマ『ダイ・ビューティフル』。

フィリピンを代表する映画監督であるジュン・ロブレス・ラナ監督が、実際に自国で起きたトランスジェンダー殺人事件に着想を得て、いつまでも美しくあろうとしたトリシャの波乱に満ちた人生を描きました。

主演を務めるのは、フィリピンでは俳優やテレビの司会者として大人気のパオロ・バレステロス。このお方、男性なのにハリウッドセレブそっくりにメイクした自身の写真をインスタグラムで披露していることで、世界的にもちょっとした有名人。

ビヨンセ、ケイティ・ペリー、アンジェリーナ・ジョリー、ジュリア・ロバーツ、レディ・ガガと現代のディーバから、オードリ・ヘップバーンやマリリン・モンローといった往年の大女優まで、性別だけでなく時代も軽々と超える化けっぷりには圧巻の一言。

日本でも数年前から“フィリピンの男ざわちん”と度々ニュースにピックアップされており、SNS通ならご存知の方も多いのではないでしょうか。

パオロ・バレステロスは本作でトリシャを演じるにあたっても、自らメイクを担当。アートとも呼べる美しく色鮮やかなメイクアップ技術を披露しています。



(C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films



「死んだあと、もしも生まれ変われるなら、もう一度自分になりたい」。死を意識することで生の尊さを描き出す。


主人公の死から始まる物語は、時系列を行ったり来たりしながらその波乱の人生を綴っていきます。

まるで、最期の別れに訪れた人々が「あの時、こんなコトがあったよね」と故人を偲ぶように紡ぐことで、観客もスクリーンの中の人たちと一緒にトリシャの半生を辿っているような錯覚を覚えることでしょう。

トランスジェンダーゆえの苦しみや悩みをシビアにシリアスに映し出しながらも、決して重苦しくはならず。

それどころか、精神的にも肉体的にも悲痛極まりないエピソードを笑いに変えているのが印象的で、その笑いへの転化が作品全体に力強ささえ与えています。そこから浮かび上がってくるのは、明るく凛として生きたトリシャの人生。

「死んだあと、もしも生まれ変われるなら、もう一度自分になりたい」というトリシャの言葉に象徴されるように、迷いながらも自分らしさを貫く美しさこそ、本作のテーマ。
ひとりの人間として幸福を追求する思いは、古今東西、そして性別問わず、ですね。



(C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films



東京国際映画祭は今年で30回目。節目の年、新たな映画体験をしてみて。


本作は昨年の第29回東京国際映画祭のコンペティション部門で、観客賞と最優秀男優賞の二冠に輝きました。

以前はせっかくコンペで受賞しても、なかなか配給が決まらず、日本では劇場公開されない…という残念な時期もありました。そんな中、本作はグランプリ作品ではありませんが、個性と特徴が素晴らしく突出した作品で、たとえ小規模な興行でも劇場公開にこぎ着けたことに感慨を覚えます。

東京国際映画祭では毎年様々な部門で司会を務めさせて頂いており、その度に新たな発見があります。

今年で30回目を迎える本映画祭は、10月25日から開催。
是非機会があれば、未知なる映画体験の場に出かけてみて下さい。



(C)The IdeaFirst Company Octobertrain Films



作品情報


ダイ・ビューティフル
2017年7月22日から新宿シネマカリテほか全国順次公開
監督・プロデューサー・原案:ジュン・ロブレス・ラナ
出演:パオロ・バレステロス、クリスチャン・バブレス、グラディス・レイエス、ジョエル・トーレ
©The IdeaFirst Company Octobertrain Films
公式サイト https://www.cocomaru.net/diebeautiful

(文:八雲ふみね)

八雲ふみね fumine yakumo


八雲ふみね

大阪市出身。映画コメンテーター・エッセイスト。
映画に特化した番組を中心に、レギュラーパーソナリティ経験多数。
機転の利いたテンポあるトークが好評で、映画関連イベントを中心に司会者としてもおなじみ。
「シネマズ by 松竹」では、ティーチイン試写会シリーズのナビゲーターも務めている。

八雲ふみね公式サイト yakumox.com

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