映画コラム
ペドロ・アルモドバル『セクシリア』『マタドール』『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』3枚同時リリース!!
ペドロ・アルモドバル『セクシリア』『マタドール』『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』3枚同時リリース!!
長年観ることができなかった映画を、手元に置けるというのは映画ファンにとって最大の喜びだ。これまで日本国内ではVHS化しかされていなかったペドロ・アルモドバルの『セクシリア』、『マタドール』、そして幻のデビュー作としてソフト化すらされていなかった『ペピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』が3枚同時にリリースされるのだ。しかも、DVDとブルーレイの両方で並ぶのだから、これを事件と呼ばずに何と呼ぶのか。
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© 2013 Video Mercury Films All Rights Reserved
ペドロ・アルモドバルの映画といえば、あたかもスペインを象徴する鮮烈で情熱的な〝赤〟のイメージが強い。近年の『私が、生きる肌』や、昨年公開された『ジュリエッタ』と、彼の映画にはポスターの時点で〝赤〟がつきまとう。しかしこの度リリースされた3作品のパッケージは、何とも風格のある〝黒〟で統一され、その表紙はアヴァンギャルドなポスターデザインが印刷されている。
なるほどこれはアルモドバルの作品の真のイメージにぴったりだ。「ヨーロッパ」から届けられた「作家性」と「エロチシズム」の強い作品というのは、どうしても高いハードルに囲まれてしまうのは仕方がない。ところが蓋を開けて見てみればどの作品も、全貌はどこまでもシュールで、愛嬌たっぷりのカラフルな映像と、そして良い意味で変態チックに溢れているのだ。
99年の『オール・アバウト・マイ・マザー』でカンヌ国際映画祭のパルムドールと、アカデミー外国語映画賞を受賞。続く『トーク・トゥ・ハー』で外国語映画としては36年ぶりとなるアカデミー脚本賞を受賞し、名実ともに世界的な映画監督に名乗りをあげたアルモドバル。それ以降の作品はすっかり真面目な第一印象で、深く掘り下げてようやくその変態さに気が付く程度の表現に留められている(数年前の『アイム・ソー・エキサイテッド!』は例外だが)。
それゆえ、ペドロ・アルモドバルという作家を語る上では、この20世紀末からの作品を知った上で、それ以前の作品を徐々に遡って行き、再び近作を辿るのがもっとも理想的だ。
『ベピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』
© 2013 Video Mercury Films All Rights Reserved
アルモドバルの長編デビュー作である『ベピ、ルシ、ボンとその他大勢の娘たち』はこの3作の中でもとくに必見の一本だ。Little Nellの「Do the Swim」から始まる陽気なオープニングを迎えると、突然主人公の家に警官が訪れ、大麻栽培を見逃す口実に彼女をレイプする。かと思うと、わずか1枚絵の説明書きを隔て、主人公は風貌を変えて警官への復讐を計画しているのだ。この急展開が繰り広げられるまでわずか5分。総尺81分しかない本作は、3人の女性の自由を巡ってハイスピードで駆け抜けていくのだ。
それだけではない。驚くべきことに制作当時30歳にして、アルモドバルの作家性がすでに完成されているのだ。エキセントリックな衣装やメイク、そして登場人物の特徴的な性癖。同性愛者であることを公表しているアルモドバルが、その後の作品でも一貫して守り続ける性への解放的な姿勢が、決して遠まわしでも説教くさくもなく、楽しげに語られ続けるのである。
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『セクシリア』
© ALPHAVILLE,S.A.1982
こういった部分は長編2作目となった1982年の『セクシリア』で、さらにブラッシュアップされる。しかも色合いの鮮やかさにおいてはこちらが一枚上手だろう。色情狂のセクシリアと、人工授精の権威でセックス嫌悪症の父親ペーニャの対照的な父娘を中心に、一国の皇帝の息子でゲイの青年リサや、彼を狙う過激派など、おかしな登場人物が次から次へと騒動を繰り広げるドタバタコメディだ。
壁紙から衣装、画面に映りこむ美術すべてが、愛情を持って選び抜かれているのが容易にわかる。個性的なキャラクターと同等に、画面に映るすべての美術もまた、アルモドバル作品の重要なキャストに昇華したというわけだ。そして本作から、冒頭で言ったような〝アルモドバル=赤〟のイメージが始まったと言ってもいいだろう。それは衣装であり、美術であり、血でもある。
今回ニューマスター版となって画面の色合いがはっきりしたおかげで、以前VHSで観たときよりも格段に印象が良くなっているではないか。中盤でわずかに早回しに見せる人物のカットも実に愉快で、クライマックスの空港での騒ぎではすっかり笑い疲れてしまうほどである。
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『マタドール』
© 2007 Video Mercury Films All Rights Reserved
そんな楽しげな作品の一方で、テーマとなる部分を一貫させながら、ミステリーでも優れた作品を生み出せる点こそ、アルモドバルが評価される最大のポイントだろう。これはコーエン兄弟やウッディ・アレンら、長年に渡って評価を落とさない作家に共通して見られる部分である。そんな彼のミステリー映画の才が発揮されているのが、1986年に制作した『マタドール』だ。
殺人に快楽を感じる闘牛士ディエゴの恋人エヴァを、彼の教え子である青年アンヘルがレイプする。この青年は危険なことに魅了される、ある種のマゾヒズムを抱えており、世の中を騒がせる殺人事件を自分がやったと嘘の自供を始めるのだ。彼の弁護を務める敏腕弁護士のマリアもまた、殺人に快楽を感じる性癖を持ち合わせており、ディエゴと関係を持つようになる。
実に異様で恐ろしい、男女4人のカルテットが展開されるカルトホラー調のストーリーテリングに、日食というアイテムを印象的に使用した衝撃のエンディングが華を添える。さらに、エバ・コーボ演じるエヴァが、車の排気ガスの向こうに消えていく場面の美しさときたら。単にダークな映画にさせないアルモドバルの粋な演出は、映画を観るという楽しさを改めて思い出させてくれるだろう。
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まとめ
しかしこの3作を観ていると、こんな奇特な映画を撮った監督が20年後には世界の映画シーンを賑わす巨匠になっているなど、とてもじゃないが想像できない。まるでジョン・ウォーターズのような愛されるカルト監督の地位に留まるのではないかと、その後の活躍を知っている今でも思ってしまうのである。だからこそ、最近のアルモドバル作品も改めて観たくなる。彼が突然変異をみせた(いや、映画界が変異したのかもしれないが)のはどこからなのか、それを一から確かめる機会に、ようやく巡り合えたのだ。
(文:久保田和馬)
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今回ご紹介した作品と合わせて是非ともご自宅でお楽しみください。
応募概要
*応募資格:日本国内在住の方で本応募要項すべてに同意された方。ただしお1人様1回までのご応募となります。
*応募期間:2017年3月11日~3月19日23:59
*応募方法:以下の応募リンクより、お名前、メールアドレスなど必要事項をご入力後、ご応募ください。
https://goo.gl/forms/jr1UTwcfkj1zoA7r2
*当選発表:厳正なる抽選を行い、2017年3月24日までに、当選者へ当選のお知らせメールをお送りすることをもって発表とかえさせていただきます。(当選メールに、2週間以内にご住所・景品お送り先をご返信いただけなかった場合、当選の権利が別の方に移ることがございます。)
*景品発送時期:2017年3月下旬を予定
プレゼント応募リンク
→ https://goo.gl/forms/jr1UTwcfkj1zoA7r2
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