映画コラム

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2020年11月26日

『佐々木、イン、マイマイン』レビュー:誰の心にもある“自分だけのヒーロー”

『佐々木、イン、マイマイン』レビュー:誰の心にもある“自分だけのヒーロー”



増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

現代インディーズ映画の快走
そのことを象徴する新たな1本

何度も同じ事ばかり書いているような気もしないではないのですが、ここ数年の日本のインディーズ映画はメジャーを駆逐せんばかりの勢いに乗って乗って乗りまくっている感があります。

その始まりは『カメラを止めるな!』の予想外の大ヒットにあったのか、若き作り手たちの創作意欲があの作品に大いに刺激されてオン・スイッチとなったのかもしれません。

いずれにしましても、公開規模こそまだまだ小さいものの、商業ベースの映画館での興行も着実になされるようになってきて、少し時間はかかるものの都市部だけでなく地方でも上映される機会が増えてきているのも嬉しい限り。

2020年11月27日から新宿武蔵野舘ほか全国で公開される『佐々木、イン、マイマイン』もそんな勢いに乗るインディーズ映画の2020年を象徴する1本として大いに讃えたいものがあります。

何とも不可思議なタイトルですが、今ひとつだけはっきり言えるのは、見終わると「佐々木ーー!」と叫びたくなります。

その理由は、ご覧になっていただければわかります!

半端な日々を過ごす男が回想する
高校時代のヒーロー“佐々木”!





『佐々木、イン、マイマイン』は現在と過去、二つの時代を交錯させながら仲間同士の友情や愛、即ち青春群像が綴られていきます。

主人公は27歳の石井悠二(藤原季節)。

俳優になるために上京したもののなかなか目は出ず、恋人のユキ(萩原みのり)とは別れているのになぜか同棲生活は続いているという、さまざまな意味で中途半端な日々を送っています。

そんなある日、彼は高校の同級生だった多田(遊屋慎太郎)と再会し、それを機に高校時代の彼らにとって絶対的に忘れることのできない強烈なキャラクターでもあった佐々木(細川岳)のことを思い起こしていきます。

“佐々木コール”がかかると、いつでもどこでもスッポンポンになって周囲を沸かせるなど、常にみんなを巻き込みながら楽しい気持ちにさせてくれていた、爆発的にヴァイタリティあふれる佐々木。

しかし、佐々木自身を取り巻く環境はいろいろと複雑で、結局はそのことが後々仲間たちの友情そのものにも影響を及ぼしていきます……。



そして現在、悠二は既に売れ始めている後輩(村上虹郎)に誘われて舞台出演することになりますが、その内容が妙に自分の過去と現在とにリンクし始めていき、稽古するごとに戸惑いを隠し切れなくなっていきます。

そんな矢先、数年ぶりに悠二のケータイに佐々木からの着信が入りました……。

10代の多感な時期に出会い
忘れることのできない存在




本作は、誰の心の中にもいる自分だけの“ヒーロー”と過ごした時間の愛おしさと、それを旨に“今”を生きようと懸命にもがき続けている若者たちの姿を真摯に捉えた青春群像劇の秀作です。

監督は23歳で初監督した長編映画『ヴァニタス』(16)がPFFアワード2016観客賞を受賞したことで、一躍その名をインディーズ界に轟かせた新鋭・内山拓也。

そして本作は、『ヴァニタス』に出演していた細川岳が、自分の高校時代の同級生のことをモチーフにした映画の原案を内山監督に持ちかけたことから制作が開始されたものとのこと。

映画が始まってしばらくの間は、主人公の中途半端な生きざまにイライラさせられます。



またこちらも年の功が災いしてか、そういったキャラクターを主人公に据えた作品は嫌というほど見てきているので、「ああ、またかいな」とうんざりした気分にさせられたのも正直なところです。

しかし、舞台が高校時代の回想に入り、佐々木なる爆裂キャラが画面に登場するや映画の空気が一変し、わくわくするような躍動感が始動し、時間を追うごとに加速していきます。

これはまさに主人公のどよんとしていた精神状態が、佐々木のことを思い返していくことでリフレッシュされていく過程とシンクロしていき、いつのまにか観客足るこちらも主人公さながら佐々木の動向から目が離せなくなっていくのです。

10代の多感な時期に出会い、その後なかなか再会することは叶わなくても、決して忘れることのできない“自分だけのヒーロー”的な存在は、おそらく誰しもお持ちではないかと思われます。

本作はそんな自分だけのヒーローを、佐々木というユニーク極まる、そして老若男女どのような人生を歩んできた人でも自然と共感できる「面白うてやがて悲しき」キャラクターに象徴させながら、観客それぞれの人生をもフラッシュバックさせてはまた新たな道への模索を決意させていく、そういった効果までもたらす作品に仕上がっています。

最初の方で“見終わると「佐々木ーー!」と叫びたくなる”と記したのは、鑑賞後はそんな自分だけの愛しい日々の指針にもなっていたヒーローへのあふれんばかりの想いを吐き出したくなる欲求に駆られてしまうからで、その意味では「佐々木」でなくても「石井」でも「山田」でも人それぞれ何でもいいのですが、どことなく「佐々木!佐々木!佐々木!佐々木!~」といった語呂の良さなども合わせて、やはりまずは「佐々木--!」と叫びたくなることでしょう。

大いに叫んでいただきたいと思います。

きっとカタルシスみなぎり、すっきりするはずです。

(文:増當竜也)

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(C)映画「佐々木、イン、マイマイン」

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