SFヴァイオレンス映画『ハードコア』!驚異の全篇一人称形式で体感する!
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映画とはノーマルなものからナニまで、さまざまな趣向や技術、そしてセンスによって組立てられていくものですが、このSFヴァイオレンス映画『ハードコア』もなかなかのセンスの持ち主なのです……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.220》
何と主人公の目線のみで構成されている一人称映画のでした!(つまり主人公の顔が全然見えない!)
主人公と観客がシンクロし、まるで自分がロボコップにでもなったかのような臨場感!
『ハードコア』の主人公は、見覚えのない研究室の中で目を覚まし、自分がサイボーグ化されていることに気づきます。そこにいる美しい女性エステルが自分の妻のようです。
主人公は事故で記憶と声と左側の手足をなくし、機械によってそれらを復元。そして最後のパーツである声帯処置にかかろうとしたとき、突如超能力者エイカン率いる傭兵たちが研究室に現れ、研究者らを斬殺。
主人公はエステルに促されながらポッドで脱出しますが、その降り立った場所=モスクワで彼女はすぐにエイカン一味に拉致。一方、主人公は“ジミー”と名乗る謎の男たちに助けられながらエステルの奪還に向かいますが、やがて驚愕の事実が次々と明らかになっていきます……。
本作の面白さは、まるで観客自身が主人公になったかのようなVR感覚でドラマが進行していくことで、おまけに主人公は記憶を失っているので、事態の根本がよくわからないまま次々と危機に直面していく過程も非常にスリリングなものとして映えていきます。
「映画は“見る”から“同調(シンクロ)”する時代へ」という本作のキャッチコピーにまったく偽りのないまま、要するに自分がロボコップにでもされたような感覚で、この究極のハードコアな映画を“体験”することができるのです。
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一人称目線の映像が発達した現代ならではのセンス
全篇一人称で進む映画がかつてどれだけ作られていたかは、本作のマスコミ向け宣材プレスシートによると、ロバート・モンゴメリー監督・主演で、私立探偵フィリップ・マーローが活躍するレイモンド・チャンドラーの同名小説を映画化したハードボイルド映画『湖中の女』(47)があるものの当時は斬新すぎて受け入られず、それからおよそ70年の歳月を経てようやく本作が登場したとなっています。
これにはビデオ・ゲームやSNSなどの発達による一人目線の映像が普通のものとなってきたこととも無縁ではないでしょう。
実際、本作はゲーム感覚の技術が大いに採り入れられており、これによってますます体感型映画としてのステイタスが強められていきます。
主人公が声を出せないままドラマが進むのも、どこかしらゲーム的な情緒と同じものがあります。
一方、主人公が目の当たりにする光景は、まさに“ハードコア”な流血ヴァイオレンスのつるべうちで、あまり深く事態を追及している暇がないほどの慌ただしさではあります。
本作はロシアとアメリカの合作で、製作・監督・脚本はこれが長編劇映画デビューとなったロシアの映像作家イリア・ナイシュラー。撮影も全篇モスクワで敢行されていますが、やはり主人公の顔を捉えることができない分、その感情などをいかに観客に伝えるかには腐心したようです。
主人公の愛妻エステルには『マグニフィセント・セブン』(16)などのヘイリー・ベネット、ジミーにはメディア関連の実業家であり『チャッピー』(15)などの俳優でもあるシャールト・コプリー、エイカンにはロシアのトップスターで『ヴァンパイア・アカデミー』(14)でハリウッド・デビューも果たしたダニーラ・コズロフスキー、そして名優ティム・ロスが本作の重要な位置を占める役柄でゲスト出演しています。
おそらく本作は映画マニアであればあるほど賛否両論の議論を呼ぶ問題作ではあり、またそのことも見越しながら作られている節も感じられますが、むしろ映画体験の浅い観客にこそストレートに新しい“何か”をもたらしてくれるような気もしています。
今、VR技術を駆使しての全方位型映像ドラマも製作され始めてますが、3Dや4Dといった付加的なアイテムはありつつも基本はあくまでも2Dという映画メディアは、その制限ゆえに意欲的かつ実験的なことはまだまだ無数にあることを教えてくれる作品でもあります。
モノは試しに、ゲームセンター感覚で映画館に赴き、『ハードコア』な体験をしてみませんか?
あ、上映時間は96分。おそらくは、このくらいがちょうどよい塩梅の映画でもあります。
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(文:増當竜也)
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