映画コラム
『ムーンライト』肌の色に込められた意味とは?
『ムーンライト』肌の色に込められた意味とは?
(c)2016 A24 Distribution, LLC
アカデミー作品賞受賞作品『ムーンライト』。主人公の成長ものにして純愛の映画でした。物語も繊細で綺麗な映画なのですが、ビジュアル的にも色使いがとても綺麗な映画です。では同作の色使いについて気がついた点を考察してみたいと思います。
どんな話?
背が低く、気もそんなに強くない少年シャロン。周りから「リトル」と呼ばれいじめられていました。そんな彼が心を開く相手はドラッグの売人フアンとその彼女テレサ、親友のケヴィンだけ。
フアンはシャロンに黒人が月光を浴びながら、砂浜を走る時「ブルーに見える」という話を教える。
そして、シャロンが高校生になったとき、自分の中の性質に気がつき、ある事件が起き……。
ブルーの意味
同作では、「月光を浴びた黒人の肌が青く見える」ということが重要なキーワードであり、劇中ではビジュアル的にも青く見えるようにライトの調整などもされています。
またそれだけではなく、シャロンにとって「ブルー」とはフアンのことでもあると考えられます。1章でそのことを示すシーンとしてフアンがシャロンに月光を浴びた時の肌の色について話したあと、シャロンがフアンに「ブルーっていう名前なの?」と聞きます。このことがずっと後を引きずるのは間違いありません。
また2章が始まる時に、画面が暗転し、青いランプが数回点滅します。これはシャロンが青くなるというメタファーと考えることができます。さらに、2章の最後にシャロンがある事件を起こす時に着ているシャツは青なのです。
その点を踏まえてみると、3章でシャロンが着いている職業が“あれ”なのは、伏線を回収した結果といえるでしょう。
(c)2016 A24 Distribution, LLC
肌の色の見せ方
最初に同作を見たのは、アカデミー賞授賞式の3日前で、なんとか授賞式の前に見られた、と喜んでいて、見終わった後、配給会社の方に「肌の色に気がつきましたか?」と言われ、全然気がついてなかったので、どういうことかと聞くと「黒人たちの肌の色が黒ではなく銅の色に見えるように撮影されている」と話してくださいました。
改めて、劇場で見てみると確かに単純な黒ではなく、磨いた直後の銅のように輝いていました。一番それが見て分かるのが、1章のフアンの肌の色です。他のシーンでもとても綺麗な肌の色でした。
また月光のシーンはケヴィンの首筋は青黒く輝いていて、3章目冒頭のシャロンの肌も青黒く光っています。見事にライトの色や当て方がそのように計算されているのが視覚的にもわかります。
これから見ようという人、改めて見直したい人はぜひ注目してみてください。
(c)2016 A24 Distribution, LLC
3人が演じるシャロンが素晴らしい
同作は3つの時代で構成され、それぞれの世代のシャロンを3人が演じています。
しかし、どの世代のシャロンもうつむき加減の仕草がほぼ同じなのです。また口数が少ないところも共通しています。
主人公を演じる3人は、監督が撮影する間、会わないよにして、演技は自分たちの感覚でやるようにしていたそうです。つまりすり合わせなどすることができないのに、見た感じが「同じ人」と思えるくらい、同じ仕草を自然に演じているのです。
(c)2016 A24 Distribution, LLC
まとめ
同作は色の使い方がとても綺麗で、派手さはないものの、素朴な美しさを見せてくれます。またアカデミー賞では、排他性を強めていく現在でもハリウッドではマイノリティな人々でも多様性を受け入れていくという意味合いも含めて評価されました。
LGBTや黒人貧困層など、一見日本とは無関係そうなテーマですが、LGBTは日本でも少しずつ日が当たるようになってきました。
アカデミー作品賞受賞作品ということも踏まえて、様々な問題を考えるきっかけに、ぜひ映画館へ。
(文:波江智)
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