映画コラム
ハゲメタボなサラリーマンに共感!『ゴールド/金塊の行方』が日本人にも沁みる理由
ハゲメタボなサラリーマンに共感!『ゴールド/金塊の行方』が日本人にも沁みる理由
Photo by Lewis Jacobs
6月1日より映画『ゴールド/金塊の行方』が公開されます。その物語は巨大な金脈を掘り当てた男が一躍スターとなるが、170億ドルの金塊が一晩で消えてしまったのでさあ大変!というものです。
実話がベースであり、ウォール街で一攫千金を狙う男たちがドラマの中心にいるため、近年であれば金と女とドラッグが全編に吹き荒れていた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、リーマンショックまでが起こるまでのドラマが描かれた『マネーショート 華麗なる大逆転』を連想する方も多いのではないでしょうか。
その2作は、人を騙して大金を稼ぐ不届き者(そうじゃない人もいますが)がサクセスするという、勤勉な人が観ればいい意味でイヤ〜な気分になれる内容でしたが、本作は日本人こそが共感できる内容と言えるのではないでしょうか。その理由を以下に記します。
1:マシュー・マコノヒーがハゲメタボだけど大共感!
カッコ悪い役をカッコよく演じているぞ!
まず、本作においては何よりもマシュー・マコノヒーという俳優の魅力について触れなければいけないでしょう。
その溢れんばかりの“渋さ”とモジャモジャの髪の毛がカッコイイ!惚れる!っていうだけでもいいのですが、主演作それぞれで全く異なるキャラクターになる“演技派”でもあるのです。近年の主演作を簡単に振り返ってみましょう。
・『MUD -マッド-』
謎の多い中年男性役。ぶっきらぼうでとっつきにくい印象だけど、繊細さを秘めている。
・『ダラス・バイヤーズクラブ』
ダメ人間だけど実は熱くて優しくてちょっとツンデレ。本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞。
・『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
主人公にとんでもないことを教える上司役。3時間ある映画のうち序盤の数分しか登場しないにも関わらずすさまじい存在感!
・『インターステラー』
子煩悩な頼れるパパ!中盤の“取り返しがつかなくなった”ときの演技は必見!
・『追憶の森』
樹海に自殺のために訪れた中年男性役で、心の傷の深さを見事に表現。渡辺謙との共演も話題になった。
不遜な態度でいる男や、共感を呼ぶ優しい役までを、完璧と言えるまでに演じ分けているのが素晴らしいですね。
そして……本作『ゴールド/金塊の行方』でマシューが演じているのは、会社の株価がゼロに等しくなるくらい経営が悪化し、自宅を失ったので恋人の家に身を寄せ、誰からも投資をしてもらえなくなるという人生のどん底にいるダメダメな中年男性なのです。
Photo by Lewis Jacobs
この時点で彼を「がんばれ!」と応援したくなるのですが、実は「成功者を羨んでぶつくさ文句を言う」という微妙に性格の悪いところもあったりします。マシューの親しみやすい演技もあいまって、何とも人間臭くて愛おしいキャラクターになっていました。
特筆すべきは、マシューの演技そのものだけでなく、その“体型”までもがダメダメ中年になっていること。彼が上着を脱いでその上半身をさらすシーンは彼のファンであればドキドキ!……するかと思いきや、お腹だけが“ぽっこり”と出たメタボな体型!いい意味で幻滅だよ!
マシュー・マコノヒーはこの“ビールや酒を主体とした食事ばかりしていて、体のことを気にしない男”の役作りのため、「4ヶ月間は何でも好きなものを食べていい!がんばれ!」と自分に言い聞かせてこのメタボな肉体を作り上げたのだとか。「それは頑張ったと言えるのか?」とツッコみたくもなりますが(笑)、要するに役に対する入れ込みっぷりがハンパなものではないです。
ちなみに、マシューは30歳ごろに早くもハゲ始めたことを気に病んでいたにも関わらず、本作の役では髪の毛が遠慮なくズルムケになっていました。しかもただハゲカツラをつけたというだけでなく、よりフィットするように頭を剃って、さらに容姿が悪くなるように曲がった人口歯を差し込んだのだとか。時にはカッコ悪い役までも入念な役作りをする、マシューの俳優としてのあり方もまたカッコいいですね。
そして、終盤のとある“告白”をするマシューの演技は圧巻!物語はもちろんのこと、演技そのものにも泣かされるという、アカデミー賞俳優としての力をまざまざと見せつけられました。
Photo by Lewis Jacobs
2:“二転三転する逆転劇”に酔いしれろ!
本作はポスタービジュアルを一見すると「探鉱者が一躍スターになる野心的な物語」という印象があるかもしれませんが、それだけではありません。さらなる魅力になっているのは“二転三転する逆転劇”なのです。巨大権力との対峙、起死回生の大バクチなど、ハラハラできるシーンが満載で、逆転のためのロジックも明確なため、“痛快さ”も存分に味わうことができるでしょう。
しかも、ある1点において「どっちだ?」と観客を疑心暗鬼にさせることがあり、それがまたグイグイと興味を引いてくれます。「物語の何もかもが伏線だ。」という触れ込みは伊達ではありません。すべての登場人物の会話や行動を良く聞いておくと、全ての線が1本につながるようなカタルシスを得られるでしょう。
Photo by Lewis Jacobs
3:切ないバージョンの『ウルフ・オブ・ウォールストリート』?
筆者は、この映画の物語に“切ない”という感情を持ちました。なぜなら、本作の一側面として「友情の物語」があり、主人公が決して悪人ではなく、同情を禁じ得ない人間であるからです。
さらには、経済活動をしているすべての人が共感できるであろう、普遍的なおカネに関する教訓もあります。現代社会ではどうしてもおカネに執着をしがちですが、カネでは変えないものがある……いや、カネがあるからこそ失ってしまうものも多いのでは?カネよりももっと大切なものもあるのでは?今一度、そのことを思い起こしてくれるのではないでしょうか。
特に、終盤の“演説”での言葉に、ハッとする方は多いでしょう。
「金を稼いで稼いで稼ぎまくれ!」な印象だった『ウルフ・オブ・ウォールストリート』とはある意味では対極で、ある意味では表裏一体とも言える内容かもしれませんね。
Photo by Lewis Jacobs
4:日本人に沁みる“負け犬が
自分を不当に扱う大物に噛み付く”物語だった
本作『ゴールド 金塊の行方』は短絡的にひとつの言葉では言い表せない、多数のテーマや面白さが凝縮している映画と言えます。例えば、本作のプロデューサーであるテディ・シュオーツマンは以下のように語っています。
「冒険物語であり、ドラマであり、ミステリーでもある。思いもよらぬ展開もある。結局は、この時代にアメリカンドリームを実現させるために必要なことを描く、とても個人的な物語だ」
マシュー・マコノヒーも、次のように付け加えていました。
「この作品は、尊敬の念、友情、忠実さ、夢を守るために人は何をするか、プライド、忠誠、負け犬の勝利、負け犬が自分を不当に扱う大物に噛み付く姿を描いている。アメリカが建国された道を思わせる、偉大なアメリカの物語だよ。ミステリーあり、ドラマあり、笑いも感動もたくさんある。それに、おそらく今まで聞いたことのない話だよ」
Photo by Lewis Jacobs
筆者は、マシューの“負け犬が自分を不当に扱う大物に噛み付く姿を描いている”という文言に大きな共感を覚えました。本作を観れば、会社という組織に属し、大なり小なりの社会的な問題や理不尽を感じている日本人も、きっと前向きになれるメッセージを受け取れるのではないでしょうか。
『ゴールド 金塊の行方』は小難しさが全くないですし、専門用語が飛び交ったりもしないので、極めて万人が楽しめる作品なのは間違いありません。史上最も共感できるメタボハゲなマシュー・マコノヒーを観るという目的だけでも、ぜひ劇場に足を運んでください!
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(文:ヒナタカ)
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