真田広之の魅力凝縮!アクション時代劇『必殺!4』に刮目せよ!
2017年7月8日。真田広之が出演するハリウッド製SF映画『ライフ』が、日本でも公開される。
『柳生一族の陰謀』『新里見八犬伝』『魔界転生』などの時代劇映画で、彼の端正な美貌、幅広い演技力、千葉真一主宰のJAC仕込みによるアクションに魅了されてきた私も、今のインターナショナルなご活躍はうれしい限りだ。
それら真田広之が持つ魅力のほとんど全部を、たった10分間に凝縮された時代劇アクション映画がある。
映画の名は『必殺4 恨みはらします』。
(C)1987 松竹/朝日放送
公開は日本がバブル時代まっただなかの1989年。この映画で、のちに世界をうならせる真田広之のすごさについてお伝えしたい。
必殺の世界に咲いた悪の華・真田広之
『必殺4 恨みはらします』は、松竹の看板時代劇『必殺シリーズ』の映画版4作目である。そして同シリーズのテレビ放映開始15周年作品でもある。
監督は『仁義なき戦い』『蒲田行進曲』など、日本映画史に残る数々の傑作を叩き出してきた深作欣二である。
メモリアル的な作品ということもあるのか、この映画、当時の日本の資本力と、松竹時代劇の職人たちの本気を凝り固めて、さらに真空パックで圧縮したような、すさまじくクオリティの高いアクション映画なのである。
映画の内容は単純明快だ。『必殺シリーズ』の主流テンプレートである「仕事人(殺し屋)の顔を持つ同心・中村主水が、仲間とともに金によって法で裁けぬ悪を始末する」というものだ。
本作の上映時間は120分近くと、ほかの『必殺シリーズ』映画版と比べても長丁場だ。が、『必殺シリーズ』のシンプルな筋書きが、深作監督と松竹の本気と千葉真一・真田広之らJAC軍団によって、今でも通用しそうな超ド級アクション映画に化けている。
やはりというかさすがというか、深作欣二の殺陣がすごいのだ。
深作欣二を崇拝するという、ジョン・ウーやタランティーノが『必殺!4』を観たかどうかは知らないが、そりゃ惚れてまうやろという納得感がある。
そんな本作での真田広之は悪役である。彼が演じる新しく南町奉行所に就任した奉行・奥田右京亮というキャラクターは、女と見まがう美男子という設定だ。
が、初めて登場したときの彼を見て、これを奉行だと思う人はまずいまい。
真田広之の顔は深作時代劇映画のセオリー通り、悪役なので歌舞伎調の白塗りだ。髪型は杉村ジュサブローの人形にありそうな、耽美風の若衆髷?である。
衣装に至っては金襴生地のキンキラキンだ(法事の時の座布団や仏壇・仏具を見たときによく見かける、あの金色の生地といえば伝わるだろうか)。
それらのオプションをフル装備した真田広之が、同じようにド派手な格好の小姓たちを
従えて、すまし顔で馬に乗り、しずしずと道を歩いてくるのだ。この毒々しい風体で何もやらかさないで終わるわけがない。
しかもその異装が、真田広之の彫りの深い容貌にまた劇的に似合っている。
もともと真田広之は、女装や女っぽい格好がめちゃくちゃ似合う俳優である。
先日、家が契約しているケーブルテレビで大河ドラマ『太平記』の総集編を観ていたときのことだ。市女笠(女性用の笠)をかぶった美人が出てきたので、綺麗な女優さんだなあと思ってよく見たら、女装した真田広之だったというくらいだ。
そんな超絶の美男子が、憎々しい演技を見せまくり、禍々しいまでに悪のオーラをふりまき倒す映画が本作だ。
かっこよくないわけがなかろう。
強烈な美しさには、強烈な悪こそがよく似合うのだ。
本作の真田広之も、見た目の美しさに惹かれてうかつに触ったら最後、指先がただれる毒花だ。『必殺!4』の真田広之は悪の華なのだ。
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10分でこの映画の全てをかっさらう男
前項で私は、本作の上映時間は120分近くあると書いた。
だが、真田広之が演じる奥田右京亮が、悪役として活躍するのは、本当にラスト直前の10分前後である。
そのわずかな見せ場で、奥田右京亮は、本性である狂気の野獣の牙をむき、この映画のおいしいところを全部かっさらう(何がどうしてそうなるのかは、本編を見てほしいから、ここではあえて語らない)。
ちなみに本作には、藤田まことや千葉真一の他に、昭和邦画界の至宝的悪役・成田三樹夫や名バイブレーター・蟹江敬三や石橋蓮児らも出演している。三田村邦彦や村上弘明など、単独で時代劇の主役を張れる俳優も出ている。
そんな彼らが全員、この10分間の真田広之によって、彼の前座と化す。
それほどこの10分間における真田広之の印象は強烈である。
現代風に言うなら「忙しい人にも10分で分かる真田広之のすべて」な感じである。
彼が演じる奥田右京亮は憎々しく、不敵で、傲岸で、獰猛で、美しい。
その愉しそうな悪の演技は、短い時間で本性を一気に見せても、ああこれは中村主水(藤田まこと)ら仕事人に殺されてもしょうがないわ、と観客に否応なく納得させてくれる。
私がこの映画で一番好きなシーンが、奥田右京亮と中村主水が対決する直前のシーンだ。
奥田右京亮と小姓たちの背後で、音もなくゆらめく赤い灯り。
燭台を持って現れる中村主水の姿が、襖を透かして浮かび上がる。不敵な鼻笑いをもらして振り返る奥田右京亮。
開く襖。踏み込んできた主水に歩み寄っていく奥田右京亮。
片手の煙管を肩にあてたやくざな仕草で、奥田右京亮は、
「ずいぶん…、遅かったじゃねえか」
不敵に、傲然と、逢引きに来た恋人に対するような、ゆるい色気を含めて言う。
この緊迫した場面にあえてゆるい真田広之がいい。これで映画を観ている者は、奥田右京亮が頭がいいだけの悪役ではないとわかる。
彼の本性は人に襲い掛かり喰い殺すことに飢え、命ぎりぎりの戦いに狂う獣なのだ。
そんな狂気の男に対し、画面大写しになった中村主水は主役の面目をかけて、
「てめえら、歩いたあとにいくつ死体を転がしていきゃあ、気が済むんでぇ!」
と渋い声音で啖呵を切る。ここですかさず『必殺』シリーズの代表的テーマ曲『荒野の果てに』のとインストゥルメンタルが派手に決まる。
そこに奥田右京亮は憎々しげな高笑いを発し、
「上等だ! きっちりとってみろよ、この首を!」
と目をギラつかせて叩きつけるように挑発する。彼の周囲から、腹心の小姓たちが毒蛾のようにきらびやかな衣装をひるがえし、下卑た嘲笑とともに主水に襲い掛かる。
この死闘の始まりのシーンは(私の稚拙な文章ではとうてい説明できていないと思うが)何度観てもめちゃくちゃかっこいい。
真田広之の奥田右京亮は、美青年の裏に潜む狡猾な策士の顔に加え、隠れ武闘派という圧倒的な悪を見せてくれる。才色兼備で圧倒的な強さを持つ悪役ぶりはまるで魔王のようだ。
この役が真田広之は初めての悪役だったという。主役や善人役もこなす真田広之だが、むしろ悪役でこそ彼の持ち味は輝くのではないかとさえ思わされるほどだ。
彼は後年、野村萬斎主演の映画『陰陽師』の道尊役でもインパクト絶大の怪演で悪を気持ちよさそうに演じているが、そのルーツはこの『必殺!4』といっていい。
(C)1987 松竹/朝日放送
殺陣の殺陣による殺陣のための時代劇映画
ここまでは本作の真田広之の演技に的を絞って書いたが、主役の中村主水を演じる藤田まことも負けてはいない。
真田広之の演じる奥田右京亮の小姓たちを、刀を振るってバンバン切り倒す。裾を散らしながらロングカットで長大な廊下を走り、襖を破り、燭台を蹴り倒す。
他にも村上弘明や三田村邦彦らも交じって、大勢の敵と丁々発止をするし、かとうかずこは火薬を投げて爆発もさせる。敵味方が入り乱れながら、広大な寺のセットの中を所狭しと暴れまわるのだ。
本作の殺陣は、テレビシリーズを含めた『必殺シリーズ』のものにしては、珍しいスタイルだと私は思う。
『必殺』シリーズの殺陣は、主人公側が殺し屋という設定から(私が知る限り)「一撃でターゲットの急所を狙って素早く葬る」スタイルが基本である。だから斬り合いの必要が本来は発生しない。
だが『必殺!4』はそういう派手な殺陣をあえて見せる、いや魅せる映画だ。
オープニングでは月岡芳年の無惨絵がバンバン出てくるし(芳年と本編は全然関係ない)、バックに流れるテーマ曲のタイトルも『大殺陣』とそのまんま、冒頭はモブを多用した奉行所内での暴動シーンから始まる。これで殺陣が売りではない映画だったら、逆に戸惑うレベルのわかりやすさだ。
(ちなみに、本作ではアクション俳優として全盛期の千葉真一の殺陣もふんだんに観られるのも、おすすめポイントである。スローモーションを多用した動きや、蟹江敬三が演じる敵方の刺客との死闘は芸術的な美しさがある)
殺陣の殺陣による殺陣のための映画である本作だからこそ、敵役の真田広之はすべてをかっさらうほどに大暴れし、憎たらしいほどに強い。
本作で彼は「だっつーの!」とか当時の若者言葉を叫びながら、重たげな薙刀をびゅんびゅん振り回して、舞うがごとき華麗さで敵を斬り倒していく。
キンキラキンの上下衣装と派手な髪形のカツラなど、邪魔にもならないかのように、軽やかな足さばきとスピードで動く。その薙刀と一体になったキレッキレの動きは、アクション俳優・真田広之の面目躍如というべきものがある。
元来、強さと悪は同じ意味を持つ。
映画の悪役は、同情の余地もないほど悪いやつでないといけないし、そう簡単に倒れてしまう程度の実力しかない者でもいけない。主人公側を圧倒し、追い詰め、観客にハラハラさせるだけの力を持っているものだ。
その意味でも、短い見せ場で強烈なインパクトを残した本作の奥田右京亮は、最強にして最凶の悪役といえる。それを演じきった真田広之の俳優としての力量も素晴らしい。
ハリウッド映画の壮大な世界で、宇宙生命体と戦う真田広之もいい。
が、本作のように色気と強さですべてを圧倒する時代劇の悪役を演じる彼も、もう一度観てみたい。可能なら日本のアクション時代劇にも、また出演してくれないかなあと思う。
(文:烏丸 桂(カラスマ ケイ))
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