アートもまたエンタメの1ジャンル!そんな優れて楽しいアニメ映画を見よう!

■「キネマニア共和国」

この夏はカリブの海賊をはじめトランスフォーマーやスパイダーマン、ワンダーウーマンといったヒーローものが大いに話題を集めており(その陰で『パワーレンジャー』の不振が悔やまれる! まだ上映されている地域の人は、ぜひとも見ておいた方がいい大穴作品ですよ!)、邦画では『銀魂』『心が叫びたがってるんだ。』『東京喰種』『ジョジョの奇妙な冒険』といった漫画&アニメ原作映画が絶好調。アニメ映画はポケモンがここ数年の低空飛行から脱却して大ヒットし、また『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』『劇場版生徒会役員共』などマニアック路線も軒並クリーンヒットを飛ばしています。海外アニメーションではミニオンズがディズニーを凌駕する勢いになっているのも興味深い事象ですね。




しかし、こういった華やかなノリの片隅で、ひっそりと健気に咲く花のように美しい、珠玉の映画が多数存在するのも事実であります……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街》

そこで今回はアーティスティックなアニメ映画をご紹介!

アイルランドの才人トム・ムーア監督の
『ブレンダンとケルズの秘密』




日本では娯楽の最高峰に位置していると言っても過言ではないアニメーションですが、海外の多くの国では家族向け作品か、もしくはアニメを用いた芸術的作品のどちらかに二分されがちなのは昔も今も同じでしょう。ただし、スタジオジブリ作品など日本のアニメが海外でも広く受け入れられるようになったことから、娯楽だ芸術だと単に二分するのがふさわしくない、そんな“映画”そのものが増えてきているようにも最近は感じられます。

アイルランド映画『ソング・オブ・ザ・シー うみのうた』が日本でも好評だったトム・ムーア監督の『ブレンダンとケルズの秘密』は、その筆頭といってもいいでしょう。これはムーア監督が2009年に放った記念すべき長編デビュー作でもあり、第82回アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートされた傑作です。

舞台は9世紀のアイルランド。悪しきバイキングの襲来に備えてケルズ修道院を囲む塀を創る大規模な工事が続く中、スコットランドから高名な僧侶が「ケルズの書」を携えて逃れてきました……。

「ケルズの書」、それはマタイ伝やマルコ伝などが記され、“世界で最も美しい本”とも称される福音書で、今ではアイルランドの国宝にもなっているものですが、本作はこの聖なる書を完成させるための、少年修行僧のブレンダンと妖精の少女アシュリンの冒険を描いたものです。

本作の特徴は、何といってもアイルランド伝統のケルト文様を活かした作画にあり、特に「ケルズの書」に描かれたケルト文様が活き活きと動き出すさまは圧巻。

音楽も『ソング・オブ・ザ・シー』同様ブリュノ・クレとアイルランドを代表する音楽グループ“kila”が担当し、母国の魂が世界にしみいる楽曲の数々と作画が見事にマッチし、感動をもたらしてくれています。

日本が生んだ才人・山村浩二の短編集
『山村浩二 右目と左目でみる夢』




日本から紹介したいアーテイスティックな作品が、2002年の『頭山』で第75回アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされ、昨年から映画芸術アカデミー会員にもなった世界的アニメーション作家・山村浩二の短編作品9本を一挙に披露する『山村浩二 右目と左目でみる夢』です。

架空のヨーロッパの怪物学者による、架空の公文書に記された怪物たちの生態を描写していく『怪物学抄』(16/劇場初公開)。

“東京”をテーマに先鋭クリエイターたちが自由な発想で競作したアニメ・プロジェクト『TOKYO LOOP』の中での山村監督パート『Fig(無花果)』(06)。

俵屋到達の『鶴下絵和歌巻』にアニメーション的解釈を施しながら17世紀のムービングイメージを喚起させていく『鶴下絵和歌巻』(06/劇場初公開)。

日本最古の歴所であり神話でもある『古事記』の中から日向を舞台にした4つのエピソードをアニメーション化した『古事記 日向編』(13/劇場初公開)。

トロントリールアジアン映画祭20周年を記念して、干支が60年で1周することから20年を“1/3周”とみなして制作した『干支1/3』(16/劇場初公開)

カナダ国立映画制作庁が開発したiPADアプリ“McLAREN’s WORKSHOP”のデモンストレーションとして即興的に作られた”『five fire fish』(13/劇場初公開)。

“McLAREN’s WORKSHOP”の基幹ともいえるカナダのアニメ作家ノーマン・マクラレンの『色彩幻想』を、抽象画家Sanaeとともに縦長画面で再現を試みた『鐘声色彩幻想』(14/劇場初公開)

アメリカ現代作曲家ジョージ・クラムのオマージュとして、海中での生命誕生から鯨までの進化を音楽と映像で表現した『水の夢(1原生代)』(17/劇場初公開)

フランスの作曲家エリック・サティが作曲したバレエ音楽《パラード》を超現実的バレエ映像としてアニメーションで再現した『サティの「パラード」』(16/劇場初公開)。

9作品すべて合わせて54分と、実に見やすくも至福な時間で心を充足させてくれる作品集。アニメ制作をめざす若者たちもぜひ見ておくべきものでしょう。個人的には『古事記 日向編』に魅せられ、次は長編で『古事記』映画も見たくなってしまいました(というか、山村監督には、一度ぜひ商業ベースのアニメーション映画に参画していただきたい!)

ドキュメンタリー&アニメーション作家
水本博之監督の意欲的2作品


手作りカヌーでインドネシアから沖縄まで足掛け4年の航海を敢行した冒険を記録し、2015年に発表して今なお全国各地で公開され続けている探検ドキュメンタリー映画『縄文号とパクール号の航海』(現在下北沢トリウッドにて上映中)の水本博之監督。

実は水本監督、アニメーション作家でもあり、現在東京・下北沢トリウッドで彼が手掛けた短編2作品が上映されています。



『いぬごやのぼうけん』


『いぬごやのぼうけん』(11/22分)は、いがみあう少年と犬が大海原で他者の大切さを学び成長していく姿を、ガラスの上に平たい人形を置いて撮影したストップモーション・アニメーションとして活写していく作品。スヌーピーは犬小屋を戦闘機にしてバトルしますが、こちらの犬と少年は、犬小屋を逆さにして舟代わりに旅する姿が
、どこか微笑ましいものがあります。



『きおく きろく いま』


『きおく きろく いま』(15/18分)は、95歳のシスター橋口ハセさんによる長崎の原爆の証言を取材し、そのとき撮影した4000枚以上の連続写真を、何と長崎県大村市の老若男女1000人以上の方々にトレスして絵を描いてもらい(つまり市民がアニメーターとなって!)そのインタビュー風景をみんなでアニメーションにするというプロジェクトで成し得た奇跡のように美しく気高い作品です(映画はその製作風景ドキュメントとアニメの両方が見られます)。

この実験的意欲に満ちた2作品、8月11日(金)までの公開でしたが、上映延長が決定。以降の日程は、8月12日(土)、18日(金)、19日(土)、26日(土)、9月1日(金)ですので、ぜひともお早めにご鑑賞を!

少女の夢をはぐくませてくれる3DCG映画
『フェリシーと夢のトゥシューズ』


https://www.youtube.com/watch?time_continue=3&v=aKtSmSj802o

最後に、おまけといってはアレですが、フランス&カナダの合作で作られたファミリー・アニメ映画『フェリシーと夢のトゥシューズ』もご紹介。

こちらは19世紀末のパリを舞台に、施設で育った少女がオペラ座でエトワールとして踊るという夢を実現させるために施設を脱走し、紆余曲折の果てにバレエ学校に入り込み、猛特訓を開始するという、日本でもかつての少女漫画などでよく見かけた世界観が3DCGで華麗に楽しく披露されていきます。

小さな女の子が見たらさぞ喜びつつ、将来の夢をはぐくんでくれるであろう作品なので、パパやママはぜひ連れて行ってあげてください。

このように世界各国さまざまな形態でのアニメーション作品が存在しますが、こういったアーティスティックなテイストのものも実はエンタテインメントの一要素として内包されるものであり、その意味ではアートも、萌えも、家族向けのものも、大人向けも、簡明なものも、難解なものも、等しく“楽しむ”心さえ持って臨めばすべては娯楽と化すことができることでしょう。

すべてのアニメーション映画に、観客の心の門戸が開かれますように!

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(文:増當竜也)

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