『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』誤解しがちなタイトルの意味とは?

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ ポスタービジュアル


(C) 2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED


あの「マクドナルド」を成功させた男の自伝として話題の映画、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。

今回はこの作品を、公開二日目の初回上映で鑑賞して来た。2つあるスクリーンのうち、小さい方での上映とは言え場内は満員状態。誰もが利用したことのある、あのマクドナルドがどうやってここまで成長したのか知りたい!そんな観客の興味と関心の高さが伺える様だ。個人的にも興味津々だった本作だが、はたしてその内容はどうだったのか?

予告編

ストーリー


1954年のアメリカ。52歳のレイ・クロック(マイケル・キートン)は、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回っていた。ある日、ドライブインレストランから8台ものオーダーが入る。どんな店なのか興味を抱き向かうと、そこにはディック&マック兄弟が経営するハンバーガー店<マクドナルド>があった。合理的な流れ作業の“スピード・サービス・システム”や、コスト削減・高品質という革新的なコンセプトに勝機を見出したレイは、壮大なフランチャイズビジネスを思いつき、兄弟を説得し、契約を交わす。次々にフランチャイズ化を成功させていくが、利益を追求するレイと、兄弟との関係は急速に悪化。やがてレイは、自分だけのハンバーガー帝国を創るために、兄弟との全面対決へと突き進んでいくーー。(公式サイトより)

実はあなたも、「ファウンダー」の意味を間違えているかも?


ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ サブ1


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普段口にしているあのマクドナルドのハンバーガーに、まさかこんな歴史と苦労があったとは!次々に登場する魅力的な登場人物と、マクドナルドの店舗が全米中へ拡大して行くサクセスストーリーは、実に面白く全く飽きなかった。

もちろんストーリーだけで無く、本作のキャストも素晴らしい演技を見せていて、主演のマイケル・キートンは単なる悪役や嫌われ者には終わらない、主人公の複雑な内面を見事に演じていて見事!久々にその姿をスクリーンで見たローラ・ダーンも、やはりこういった「いい人だけど、退屈でつまらない女」を演じさせたら絶品としか言い様が無いほど。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ サブ3


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エンドロールで登場する、実在の登場人物の写真とキャストのソックリ振りも要チェックなのだが、本編に登場する創業当時のマクドナルドの備品や店内装飾も、今や歴史的価値として楽しむことが出来るので、お見逃し無く。

一番興味深かったのは、本作ではマクドナルドが、単なるレストランやアメリカの文化としてだけでは無く、完全に「宗教」として描かれていることだ。フランチャイズの出資者への説明会でのレイクロックの姿は、もはや宣教師そのもの!フランチャイズ店舗を増やすため各地を回るのも、彼にとってはマクドナルドの素晴らしさを民に伝える「布教活動」だったのでは無いだろうか。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ


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実は、本作のタイトルにも使われた「ファウンダー」と言う言葉。これは映画の終盤に出て来るレイ・クロックの名刺にも書かれていた単語だが、字幕に出ている通りの「創業者」という意味の他に、実は真逆の意味を持つということはご存知だろうか?

名詞としての「founder」は、確かに「創設者」、「設立者」という意味なのだが、これが動詞として使われると、その意味は「舟が浸水・沈没する」、「計画が失敗する」、「建物が崩れる・倒れる」と、非常にネガティブな意味になってしまうのだ。

このことを知ってから映画を見返すと、マクドナルドの将来と成長のためには、文字通り綺麗ごとだけでは無い卑怯な手も使う。そんなレイ・クロックの内面と複雑さを表現した、素晴らしいタイトルであることが、より判って頂ける筈だ。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ サブ2


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最後に


本作の終盤、「マクドナルドの店内を見学し、真似して開業した多くの店は、どれも成功はしなかった」とのセリフが出て来るが、実は我々が現在街中で眼にするファストフードチェーン店の多くは、何らかの影響をマクドナルドから受けている!そう言ったら皆さん驚かれるだろうか?

例えば、バーガーキングやタコベル、ウェンディーズの創業者は、開業当時のマクドナルドの噂を聞きつけ、実際にその店舗に足を運んで衝撃を受け、すぐに真似ることにしたと後に語っている。

ダンキンドーナッツやドミノ・ピザ、それにケンタッキーフライドチキンなども、マクドナルドの成功を見てのフランチャイズ化が取られたわけで、正にマクドナルドこそが全てのファストフードのルーツにして神だということが、お分かり頂けるだろう。

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ サブ4


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単なる金の亡者でも無く、かといって善人や人格者とも断言できない、このレイ・クロックという複雑な男。

この主人公が観客に魅力的に見えるのは、彼がマクドナルドを心底愛しているのが描かれるから。店に一日中常駐し、店頭の掃除を閉店までちゃんと続けるその姿!これが描かれているからこそ、出資だけしていい加減に店を放置している金持ち達への怒りが、観客に共感を持って伝わって来る。

ラストのレイ・クロックの後姿に何を見るか?そこにこそ、前述した「ファウンダー」の持つ二重の意味が込められているに違いない。

最後に、本作鑑賞後により詳しくレイ・クロックとマクドナルドの因縁や、アメリカにおけるファストフードの歴史と暗黒面を知りたい方に、オススメの本を紹介しておこう。
その本のタイトルは「ファストフードが世界を食いいつくす」。
文庫 ファストフードが世界を食いつくす (草思社文庫)



実はこの本自体も映画化されており、『ファストフード・ネイション』のタイトルでDVDも出ている。
ファーストフード・ネイション デラックス版 [DVD]



普段我々が気軽に口にしているハンバーガーが、どの様な経路を辿って我々の手に辿り着くのか?そして、低価格を維持するためにどれほどの犠牲が伴っているかなど、現代のファストフード業界が抱える闇の部分を勉強するには最適なこの本と映画。

レイ・クロックのビジネス哲学を裏付けるかの様な、綺麗事だけでは済まされないファストフード業界と、マクドナルドの裏事情が詳しく書かれていて、その上自然とアメリカの文化史も勉強できるので、夏休みの読書に是非!

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(文:滝口アキラ)

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