『三度目の殺人』と『HER MOTHER』、殺人と裁判と死刑をめぐる2本の映画

■「キネマニア共和国」


ひとつの殺人事件をめぐって裁判が行われ、死刑になるか否かといった映画は昔も今も後を絶ちませんが、この9月、偶然にもそういったモチーフの作品を続けて見てしまったもので、比較するには内容は全然異なるのですが、合わせて紹介したい気持ちにさせられてしまいました……

三度目の殺人


(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ



《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.256》

是枝裕和監督の『三度目の殺人』と、佐藤慶紀監督の『HER MOTHER ハー・マザー 娘を殺した死刑囚との対話』、どちらも必見の力作です!

二転三転する被告人の供述から
事件の真実が錯綜する『三度目の殺人』


まず、是枝裕和監督の『三度目の殺人』から。

三度目の殺人 ポスター


(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ



これまで、どちらかといえば淡々としたドキュメンタリー・タッチのヒューマン・ドラマを得意とし、またそれゆえに『そして父になる』でカンヌ国際映画祭審査員賞受賞などの栄誉にあずかってきた是枝監督ですが、今回は心理サスペンスというドラマティックなジャンルに初挑戦。

しかし、やはりここでも基幹となるのは人間ドラマなのです。



殺人の前歴のある三隅(役所広司)が、解雇された工場の社長を殺した罪で起訴されました。

死刑は確実であろうとされるこの事件に対し、弁護を担当する重盛(福山雅治)は、何とか無期懲役に持ち込もうと調査を始めます。

しかし、面会するたびに殺人の動機をはじめとする発言の数々が微妙に食い違う三隅に対する違和感や、実は被害者の妻・美津江(斉藤由貴)が三隅に殺人を依頼したのだというスキャンダルの発覚、さらに被害者の娘・咲江(広瀬すず)が日頃三隅と親しくしていたという事実など、どうにも真相を二転三転させかねない出来事が重盛の判断をにぶらせていきます。



(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ



弁護士とは、真実よりも依頼人である被告人を少しでも有利に持っていくことこそが仕事である。

真実など、自分には必要ない。

そう割り切っていた重盛でしたが、この不可解な事件を目の当たりにして……。

本作のユニークなところは、裁判が真実の追及を目的とするのではなく、弁護側と検察側、あくまでもビジネスとしてお互い駆け引きを続けながら、なにがしかの宣告を被告に言い渡すという、従来の法廷劇とは一線を画したリアルな現実を直視しながら、では真相を探ろうとしていくと、一体何がもたらされていくのかという、これまた不可思議な世界へ観客を誘ってくれるところにあります。

正直、ドラマとしてのカタルシスよりも、どこかもやっとした社会の魑魅魍魎とした現実になすすべもなく立ちつくしてしまうのみといった気持ちにさせられてしまうところはありますが、福山雅治、役所広司、広瀬すずといった日本映画界を代表する俳優陣が醸し出すメジャーなオーラによって、難解さよりも映画としての華やかさをもたらすものになっています。



(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ



現在ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に出品され、現地でもスタンディングオベーションで迎えられると同時に、ラストの意味を問う記者団からの質問も殺到したという三度目の殺人』、あなたも映画祭の審査員になった気持ちでご覧になってみるのも一興でしょう。

必見の問題作
『HER MOTHER ハー・マザー 娘を殺した死刑囚との対話』


さて、もう1本の『HER MOTHER ハー・マザー娘を殺した死刑囚との対話』は、文字通り自分の娘を殺された母親が、犯人を赦すことができるのかというテーマに挑戦した意欲作です。




2年前に嫁いだ愛娘みちよ(岩井七世)が、母・晴美(西山諒)のいる実家に戻っていたとき、突然現れた婿の孝司(荒川泰次郎)に殺害されました。

事件のショックも含めたさまざまな理由から、晴美と夫(西山由希宏)との心が急激に離れていく中、孝司に死刑判決が下されます。

晴美は孝司の死刑を当然のことと思っていました。しかし、あることからみちよの秘密を知ってしまった晴美は、孝司の死刑を止めようと行動を起こし始めていきます……。



ここで描かれているのは、単に被害者家族と加害者との間で和解は成立するのか? といったことだけでなく、赦そうとする側のエゴであったり、また加害者側にも被害者側にも及ぶ一般の人々の差別や偏見、罪と罰に対する意識などなど、人間すべてが陥りがちな心の闇を淡々としたタッチの中から鋭く描出していきます。

監督は1975年生まれで、南カリフォルニア大学映画制作科を卒業し、フリーのTVディレクターとして働きながら自主映画活動を続けている佐藤慶紀。

本作は彼にとって『BAD CHILD』に続く長編劇映画第2作ですが、既に2016年に第23回ヴズール国際アジア映画祭インターナショナルコンペティション部門スペシャルメンション賞を受賞、また第21回釜山国際映画祭や第4回桃園映画祭に出品され、多大な評価を得ています。

やはり“罪と罰”といったテーマは、全世界共通のものであり、その奥に潜む人間のどす黒い心模様を偽ることなく誠実に描出し得ていることが、評価の秘訣かと思われます。

正直、こちらは『三度目の殺人』に比べると華やかさに欠けるインディペンデント映画ではありますが、逆にそれゆえの訴えたいことがストレートに描出されているところなど、決してメジャー作品に負けない映画的勢いを保持した作品として、強く推したいところです。

9月9日より、映画『三度目の殺人』は全国一斉に、『HER MOTHER』は東京K’s cinemaを皮切りに(23日より名古屋シネマスコーレでも)、公開されます。

この秋、見比べてみてください。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら


(文:増當竜也)




無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!