幕末の彰義隊を通して、青春の悲劇を活写した『合葬』
(C)2015 杉浦日向子・MS.HS / 「合葬」製作委員会
今年は時代劇映画がちょっとしたブームになっていて、『無限の住人』や『たたら侍』『花戦さ』『忍びの国』、そして現在『関ケ原』が大ヒット中です。
個人的には、こうしたブームの基を築いたのは松竹の『超高速!参勤交代』2部作(14&16)や『殿、利息でござる!』(16)などコメディ時代劇のクリーン・ヒットではないかと密かに思っている次第ですが、同時期に松竹(正式には松竹メディア事業部)では、規模こそ小さいまでも、珠玉の時代劇映画を配給していました。
今回はその映画、2015年度作品『合葬』をご紹介したいと思います。
上野戦争をクライマックスに
新政府軍に徹底抗戦を誓う若者たち
(C)2015 杉浦日向子・MS.HS / 「合葬」製作委員会
『合葬』は、江戸風俗研究家兼漫画家でもあった杉浦日向子が雑誌『ガロ』に発表し、1984年に第13回日本漫画家協会賞・優秀賞を受賞した同名漫画を原作にしたもの。
舞台は江戸時代末期、いわゆる幕末の時代に幕府側について、薩摩や長州の新政府軍を迎え討つことになった彰義隊の若者たちの悲劇を描いたものです。
もともと彰義隊は将軍・徳川慶喜の身辺警護や江戸の秩序守護を目的に組織されたものでしたが、大政奉還によってその存在意義がなくなり、しかし隊員らはそれを認めようとはせず、薩摩や長州を中心とする新政府軍への徹底抗戦を誓うのでした。
その隊員のひとり秋津極(柳楽優弥)は、友人・福原悌二郎(岡山天音)の妹で婚約者でもある砂世(門脇麦)に別離を言い渡します。
それは砂世の身を気遣ってのことでしたが、悌二郎には納得できません。
しかし極は己の信念を変えようとはせず、さらには養子縁組をした家から追い出された吉森柾之助(瀬戸康史)を彰義隊に引きずり込みます。
そんな彼の気概を、隊の穏健派で上役の森篤之進(オダギリジョー)が認め、やがては悌二郎も彰義隊に入隊することに。
まもなくして江戸城の無血開城が決定となり、彰義隊は江戸警護の任を解かれますが、血の気の多い強硬派の若者たちはその命に従おうとせず、新政府軍との衝突は時間の問題に……。
閉塞感漂う現代ともリンクする
戦いに身を投じる若者たちの姿
(C)2015 杉浦日向子・MS.HS / 「合葬」製作委員会
慶応4年(1868年)3月に西郷隆盛と勝海舟の間で盟約が結ばれて江戸城無血開城がなされた後も、幕府軍と新政府軍とのさまざまな激戦が繰り広げられていった事実は、歴史好きのかたなら先刻ご承知かと思われますが、本作では同年5月に勃発した上野戦争をクライマックスに、戦いに身を投じていく若者たちの悲劇を青春群像劇として活写していきます。
脚本に『ジョゼと虎と魚たち』(03)や『天然コケッコー』(07)など青春映画の旗手・渡辺あやを迎えているのも、この作品が幕末バトル映画ではなく、あくまでも青春映画にしたいという製作サイドの意向が汲み取れます。
その渡辺あやと『カントリーガール』(10)でタッグを組んだ自主映画作家・小林達夫監督が本作で商業映画デビューを飾りましたが、激動の時代に翻弄されていく3人の若者たちをドライに見据えたキャメラアイは、どこかしら現代のきな臭くも閉塞感漂う現代とも巧みにリンクしているかのようです。
本作はモントリオール国際映画祭やミンスク国際映画祭にも出品され、単に日本のサムライ情緒だけではなく、その奥にある世界中どこでも普遍的な青春の慟哭といった要素が大いに評価されました。
ASA-CHANG&巡礼の無調の中から哀しい情感を漂わせる音楽や、カヒミカリィのナレーションも、ここでは大いに功を奏しています。
そして、やはり特筆すべきは、群像劇としてそれぞれの運命を健気に体現していく若手俳優たちの熱演でしょう。
華やかな体裁のものとは趣が異なる作品なので、見る前は地味な印象をもたらすかもしれませんが、いざ見始めると芳醇かつ悲愴極まる青春の慟哭に引き込まれること必至。
これはぜひ一見をお勧めしたい作品です。
そして小林監督の次回作が早く実現しますように!
[この映画を見れる動画配信サイトはこちら!](2017年9月1日現在配信中)
(文:増當竜也)
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