侵略SF映画『散歩する侵略者』がメチャクチャ面白い!
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
先日、実に面白い日本のSFサスペンス映画を見ました。
いや、もうこれはメチャクチャ面白い!
特にSF映画ファンは必見!
ただ、現在行われているマスコミ試写会の反響も上々のようなのですが、どうもアーティスティックに構えすぎたレビューや評論も多く見受けられて、正直あまりそっちのほうだけで語られてほしくないなあというのも偽らざる本音でして……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.255》
というわけで、私は黒沢清監督作品『散歩する侵略者』(あゝ、もうこのタイトルだけでゾクゾクッとなってしまう!)を楽しく語りたいと思います!
別人のようになって帰ってきた夫
そして徐々に町を覆う不穏な影
まずは映画『散歩する侵略者』とは何か? から語っていきましょう。
数日間行方不明になっていた不仲の夫・真治(松田龍平)が、まるで別人のようになって妻・鳴海(長澤まさみ)のもとへ帰ってきました。
まもなくして真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけるようになります。
同じ頃、町では一家惨殺事件が起き、不穏な出来事が多発していましたが、そんな折にジャーナリストの桜井(長谷川博己)は、ひょんなことから天野(高杉真宙)という謎の青年とともに、惨殺事件のカギを握る少女あきら(恒松祐里)の行方を追うことになりました。
町が次第に不穏な空気に包まれていく中、真治は淡々とした口調で、鳴海にこう告げました。
「地球を侵略しに来た……」
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
原作は劇作家・前川知大が主宰する劇団イキウメの同名人気舞台劇。
ストーリーからお察しするまでもなく、これは堂々たる侵略SFであり、大の映画マニアである黒沢清監督は往年の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(56)などの侵略SFものに果敢に挑戦していることが容易に見て取れます。
ユニークなのは、侵略者たちが人間から一体何を奪っていくのか? というところで、彼らは何と人間の“概念”を奪っていくのです。
つまり、人間誰しも持ち得ている“家族”や“仕事”“友情”“愛”などなど、そういった想いを奪われてしまったら、その後一体どうなるのか?
文章にするとちょっと難解に感じてしまう向きもあるかもしれませんが、画で見るとそのあたりの描出が実にうまくなされています。
また、実のところ彼らは本当に侵略者なのかどうか? もしかしたら集団催眠的な症状に侵されている者たちなのではないか? 見る側にふと、そんな疑問も脳裏をよぎらせつつ(黒沢監督には、マインドコントロールで次々と人々に殺人を実行させる青年と刑事の恐るべき闘いを描いた『CURE』という傑作ホラー映画もあります)、彼らは着々と侵略のための準備を進めていくのです。
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
アイデア勝負で貫かれた
見事なダークSFファンタジー
いわゆるハリウッド映画的大掛かりな特撮はほとんどありませんが(ただし皆無ではありません)、いわゆるお金のかかる特撮描写を極力避け、アイデア勝負で貫かれたSFファンタジー作品は、実は日本映画が得意とするところでもあり、本作もその流れに見事に沿ったダークでサスペンスフルなSFファンタジーの秀作に仕上がっているのです。
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
キャストも、いつのまにか大人の女性としての魅力を自然に発散しながら新境地を開拓している長澤まさみをはじめ、終始無表情で侵略者(?)の夫を淡々と演じ切る松田龍平、シン・ゴジラから一転して今度は宇宙人相手に右往左往の長谷川博己、『仮面ライダー鎧武』ファンお待ちかねの高杉真宙、そして残虐非道で大胆なアクションも披露するあきら役の恒松祐里には今回もっとも驚嘆させられました。
その他、前田敦子や満島真之介、光石研、笹野高史などなど、黒沢清監督作品は毎回主演から助演に至るまでの俳優陣の魅力を過不足なく抽出しているのが常ですが、今回もその例から漏れることのない個性をそれぞれが発揮しています。
「コジマだよ!」でおなじみアンジャッシュの児嶋一哉も、お笑い芸人ならではの勘の良さで侵略者に翻弄される刑事を巧みに演じていますので、ぜひともご注目のほどを。
(C)2017『散歩する侵略者』製作委員会
さて、黒沢清監督作品はシンプルな装いの中に映画的記憶であったり技法であったり、実に芳醇で奥深い要素を備え持っていることから、シネフィルなどディープな映画マニアから圧倒的支持を受け続けており、それはそれで当然の才能なのですが、その分マニアックに語られすぎるきらいがあるのも正直なところ。
もちろん彼の作品の中に秘められたさまざまなキーワードを読み解くのも映画ファンとしては楽しい作業ではあるのですが、その前にまず、彼の映画が純粋に面白いのだよということを、これから映画ファンになるであろう若い世代も含めて、もっともっと広く流布していくべきではないかとも思います。
まずはシンプルに楽しみ、次第にその虜になって作品の奥深いテーマなどを探求していく。黒沢映画はそうやって鑑賞したほうが入り込みやすい。
そもそも映画というものは考えながら見るものではなく、画と音の連なりを体感していくものではないかと、私個人は考えています。
その意味においては、まさに本作は“感じる”映画です。
「考えるな、感じろ」
そう、『燃えよドラゴン』のブルース・リーの名セリフが実にフィットするのが黒沢映画なのです。
日本映画ならではの、そして黒沢清監督ならではの侵略SFサスペンス映画『散歩する侵略者』を、ぜひ“感じて”みてください。きっと見終わったとき、“これが映画だ”としか言いようのない不可思議な感動がもたらされるはずです。
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(文:増當竜也)
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