映画顔負け! ドラマ「陸王」から溢れ出す俳優陣の魅力
前回の記事で綾瀬はるか主演のドラマ「奥様は、取り扱い注意」を紹介したが、10月期のドラマでもう1本お勧めしたいドラマがあるのでここで紹介したいと思う。役所広司が主演する「陸王」だ。
「陸王」は池井戸潤が2013年から連載を始め2016年7月に書籍化された同名タイトルの小説が原作となっている。1冊の本にまとまり、それから僅か1年弱でドラマ化されるというスピーディーな展開だが、それだけ作り手側の「映像にして伝えたい」という熱意があったと推測される。そんなドラマに、役所をはじめ山﨑賢人、竹内涼真、上白石萌音、寺尾聰らベテランから若手まで主演級の顔が揃い、さらに風間俊介や佐野岳、阿川佐和子、小藪千豊、志賀廣太郎、光石研、ピエール瀧といった名バイプレイヤーが脇を固めるという強力な布陣となっている。
熱き男たちの不屈の魂
本作は、埼玉県行田市にある足袋製造会社「こはぜ屋」を舞台にした“企業再生ストーリー”。需要の先細りで経営難に陥っている会社を、役所演じる4代目社長・宮沢紘一を中心にして立て直そうと奔走する姿が描かれる。そのストーリーを成立させるにあたって、本作では大まかに分けて2つのドラマが並走する形になっており、その1つの見どころが、自社製品の技術を活かした新しいマラソンシューズ開発に懸ける宮沢の姿だ。
第1話で早々に、機械の故障によって受注を取りこぼしてしまったこはぜ屋。大きな損失を出し、埼玉中央銀行の融資担当・坂本(風間)と面談する中で、宮沢は坂本から新規事業に進むよう提案を受ける。そして娘の茜(上白石)とのやり取りをきっかけにして宮沢が考え出したのが、足袋のノウハウを取り入れた裸足感覚のランニングシューズだった。ここから宮沢の挑戦が始まるのだが、その前途はまさに多難。
ランニングシューズ自体の知識を持たず試作品を作っても見向きもされず、資金繰りにも窮する。さらに、こはぜ屋支援のために動いていた坂本が上司からの圧力で“島流し”的な異動を命じられてしまう。
ここで第1話で見せ場の1つとなったのが、アドバイスだけでなく涙を目に溜めながら宮沢にエールを送った、坂本という良き理解者の存在だ。
ドラマ終盤で、坂本は融資担当の上司である大橋(馬場徹)とともにこはぜ屋に向かい、宮沢を前にして大橋から激しい叱責を受ける。そもそも大橋は坂本が提案した新規事業展開に懐疑的な立場で、こはぜ屋の未来よりも自身の成績しか考えないような人間だ。
宮沢はそんな大橋の本性を見抜き、感情を剥き出しにしながら坂本のことを「同志」だと叫んで擁護。改めてランニングシューズの製造宣言をし、ようすを見守っていた従業員たちもその姿に涙を流す。宮沢という1人の熱き人間になりきった役所の演技は圧巻の一言で、正直この“男泣き”とも言える演技だけでも映画1本を見たに等しい感動がある。その姿に共鳴する周囲の俳優たちの演技も、見事と言うほかない。
熱き男たちのライバル関係
もう1つの軸として注目したいのが、竹内演じる茂木裕人と佐野演じる毛塚直之という2人のライバル関係だ。実業団ランナーとして登場する2人だが、学生時代から箱根駅伝でデッドヒートを繰り広げてきた関係にあり、第1話ではともに豊橋国際マラソンに出場することに。“宿命のライバル対決”として世間からの注目を集める2人だったがそうそう話は単純なものではなく、そこにスポーツ用品メーカー「アトランティス」の営業戦略が絡んでくる。
選手の活躍を“商品アピールの機会”としか捉えない小原賢治(ピエール瀧)や佐山淳司(小藪)の存在が、実に厭らしいほどに2人のライバル関係に乗し掛かる。流行りを取り入れたアトランティス社製のシューズを履いて大会に出場した2人だったが、レース終盤で茂木が足の痛みに襲われ無念の途中棄権。新シューズ開発参考のために大会のようすを現場で見守っていた宮沢は、ランニングインストラクターの資格を持つ有村融(光石)からかかとの厚いランニングシューズで足を故障する選手が増えていることを聞いており、改めて足袋シューズの重要性に突き動かされる。
無念すぎるリタイアを喫した竹内の悲壮な演技は、観る者の胸を突き刺すものだった。倒れながらも必死にもがき、立ち上がり、その横を過ぎていくライバルの背中を見据え、失格となった瞬間の絶叫は前クールに出演した「過保護のカホコ」とは驚くほどに対照的な慟哭の演技だ。
レース後からしばらくして、紆余曲折を経て宮沢が持参した試作品を手にすることになった茂木。おそらく今後はこの2つの主軸が合流しつつ“シューズの開発”と“ライバル関係”が互いに進展していくはずだ。これは余談だが、竹内と佐野といえばともに「元・仮面ライダー俳優」という肩書きがある。中には2人のライバル関係をそれぞれが演じた“仮面ライダードライブvs仮面ライダー鎧武”と置き換えて楽しむ向きもあるようで、それもまた本作の楽しみ方の1つなのかもしれない。
まとめ
第2話ではランニングシューズ素材の特許を巡り、寺尾聰演じる飯山晴之が登場。役所との演技合戦が見せ場として加わることになる。ちなみに、本作のタイトルである「陸王」の意味だが、これこそ宮沢が開発を進めるランニングシューズの名前。第1話で、溜めて溜めてこの「陸王」という名前が明らかになるというのもなかなか心憎い演出である。池井戸作品らしい濃厚な人間ドラマに呼応する、映像化のために注ぎ込まれた熱意を様々な角度から堪能してほしい。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。