映画コラム

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2017年11月25日

『全員死刑』はどこまで実話?間宮祥太朗がぶっ飛びすぎ!炎上上等なこの映画を見逃すな!

『全員死刑』はどこまで実話?間宮祥太朗がぶっ飛びすぎ!炎上上等なこの映画を見逃すな!




(C)2017「全員死刑」製作委員会



現在公開中の『全員死刑』はひどい映画です! だって人が死ぬシーンで笑わせようとしているんですよ! しかも性的なシーンも多すぎ! 青少年の健全育成に極めて悪いです! 子どもには絶対に観せたくないですね! しかも間宮祥太朗のイケメンが台無しのいわゆる“DQN”になっているんですよ! 倫理的に最悪です! つまりは超オススメです!

……そんなアナーキーでぶっ飛んだ映画『全員死刑』が最高に楽しかったです(笑顔)。その魅力を、ネタバレのない範囲で以下に紹介します。

1:人が殺されるシーンで笑いを取る! 不謹慎なエンタメだ!



本作が原作としているのは。鈴木智彦著の『我が一家全員死刑』(文庫化の際に『全員死刑:大牟田4人殺害事件「死刑囚」獄中手記』に改題)。一家族が4人の人間を次々に殺害したという、凄惨な事件を題材としているのです。

しかしながら、映画を観てみると凄惨だとかヒドいとかの前に、ある感情が沸き起こります。それは“滑稽”だということ。具体的にはネタバレになるので書きませんが、殺人に至るまでの経緯は「えっ?」と声が出てしまいそうなほどにあっけなかったり、「おかしいだろ!」とツッコみたくなったりで、とにかく殺人一家の行動や言動がテキトーすぎ、バカバカしすぎて笑ってしまうという領域に達しているのです。

筆者は映画の後に原作を読んで観たのですが、驚くことにその殺害方法や経緯はほぼそのまんま! 映画ではその殺害シーンでさらにアホらしい+αのネタをぶっ込んでいるので、よけいに笑えてきます。時には銃を出す時の「チャッ」というサウンドエフェクトでも笑いを取りに来るのだからズルい! 小林勇貴監督は間違いなく性格の悪い方でしょう(※褒めています)

ちなみに、原作では事件のことを「どこをとってもマンガチックである」「気味が悪いほど『少年マガジン』的なのだ!」と記したため、獄中の加害者から「少年マガジンなんて読んだことはない!」と怒られたという記述もあったりしました。確かに、その殺害動機や過程があまりに現実離れしているので、マンガのような印象を持ってしまうのも致し方ないような気もします。

ぜひ、『全員死刑』は映画館でこそ観て欲しいです。スタッフの一部が共通している『冷たい熱帯魚』(18禁)と同じく、「殺人シーンで観客から笑い声が漏れる」という、狂った空間に身を置くことができるのですから。みんなどうかしているよ!(※筆者含む)

2:1人目の被害者はユーチューバー! 監督は「炎上させてくれ!」と願っていた!






(C)2017「全員死刑」製作委員会



映画において最初に殺されるのが、底辺っぽいユーチューバーであるということも最低(最高)でした。以下の予告編の冒頭でも観ることができます。


そのユーチューバーの名前は「おわりたいちょー」……ヤバいヤバい、どうあってもあの大人気ユーチューバーを彷彿とさせるではないですか! 大丈夫なのかこんなことして!(※褒めています)このユーチューバー役の藤原季節の演技がめっちゃ上手くてウザくて本当にムカつく! 藤原さんは『ライチ☆光クラブ』の時といい、ヒドい役を引き受けすぎです!(※褒めています)

ちなみに、初めにぶっ殺されるのがユーチューバーであるということは映画オリジナル。原作では語学研修にも参加するマジメな少年であったと記されていました。

おそらく、小林監督はユーチューバーが大嫌いなのでしょう。映画は多数のプロフェッショナルが尋常ではない努力と研鑽を重ねて世に送り出す芸術ですが、人気がなければすぐに打ち切られる、赤字にもなるという厳しい業界です。だからでこそ、「俺たちはこんなに苦労しているのに、ユーチューバーは気軽に撮った動画1本で簡単にカネを稼いでいやがる!」という誠実な逆恨みがこのシーンから感じられるのです。(※筆者の勝手な想像です)

小林監督は本作において「炎上上等!」な目論見もあるようです。公式サイトにもその文言がありますし、Twitterでは燃え具合が足りないことにガッカリし、果てはフランスの映画祭でズボンを脱いで「国辱って言ってくれ!オレを炎上させてくれ!」と繰り返しアピールしたのに、それでもちっとも炎上しなかったと嘆いていました。

https://twitter.com/supertandem/status/909876682395328512

ここまで監督が「炎上させてくれ!」って言っているんですから、筆者は乗っかります。『全員死刑』は◯じめしゃ◯ょーをバカにしています! わざわざ原作と設定を変えてまでユーチューバーをぶっ殺すシーンは本当に悪趣味です! 最低です!(※褒めていますけど)

余談ですが、劇中にユーチューバーを登場させたのは、単なる逆恨みというだけでなく、もう1つの意図も存分に感じられます。それは、“やっていることがバカ極まりない”ということ。彼が動画の撮影前に口走ったあるセリフは、映画全体のテーマとも言えるのかもしれませんね。



3:間宮祥太朗の演技が超ヤバい! 実は役をオファーされた時は迷っていた!



本作のもう1つの大きな見どころは『帝一の國』や『トリガール』などの間宮祥太朗主演作であるということ。初っ端の“クルマのバックで人を轢く”シーンの、間宮祥太朗の心の底から嬉しそうな表情と、ランランとした目を観ると、「あっ、これガチの人だ」と勘違いをしてしまうほどでした(※ご自身はとても誠実な俳優さんです)

ちなみに間宮祥太朗は、『全員死刑』の内容が内容なので、オファーを受けた時は役を受けるかどうかを真剣に悩んだそうです。しかし、小林監督とご飯を食べながら話し合ってみたところ「すごく純粋」「映画を撮るのが楽しくて仕方がなさそうだった」「この人となら映画を作れる!」という印象を持ったため、引き受けることを決意したのだとか。

実際の映画でも間宮祥太朗は本当に楽しそうにバカでダメなヤンキー(人殺し)を演じられていて、監督と上手く連携が取れていたんだな、とメイキングを見ていなくても存分に感じられます。間宮祥太朗はファンにとっても必見作なのは言うまでもありません。

『東京喰種 トーキョーグール』の白石隼也、『彼女がその名を知らない鳥たち』の松坂桃李などもそうですが、イケメン俳優がどうしようもない感じのクズを生き生きと演じられていると、一気にファンになりますね。女性ファンは減るかもしれないけれど、たぶん男性ファンは増やしましたよ!(筆者含む)

その他も、殺人一家をそれぞれ演じた、六平直政、入絵加奈子、毎熊克哉もまたガチな人にしか見えません。それぞれが自身の持ち味を活かした滑稽さで笑わせにかかってくるので、ご期待ください。

余談ですが、鳥居みゆきが演じている役が“パトラ”というあだ名で呼ばれているのは、(原作によると)「クレオパトラのような派手な化粧をしていたから」というのが理由だったのだとか。鳥居みゆきのビジュアルにフィットしすぎの神配役だと思います(笑顔)。



4:殺人を犯すヤバい人たちの“日常”が描かれていた!






(C)2017「全員死刑」製作委員会



予告編などでは「とにかくぶっ殺しまくり!ジェットコースタームービー!」な印象もありますが、本編では意外にも“日常的”な雰囲気もありました。

というのも、一家がご飯を食べたり、コンビニに行ったり、知り合いに(金庫を開けるための)道具を借りに行ったり、彼女とイチャイチャしたりと、殺人者であるはずの彼らが“普通に過ごしている”シーンも多いのです。

しかしながら、これこそが本作の怖いところ。殺人という最も重い罪が課せられることを、一家が“日常の延長線上”で、あたかも“生活のための当然の行い”のように行っていくのですから。

普通の人の倫理観や価値観では到底あり得ないことを、この一家はやってしまっている……。前述した通り、笑ってしまうシーンも多いのですが、時折ゾッとさせてくれるのは、この“日常”の描写のためでもあるのです。



5:実は教訓を与えてくれる? 主人公が「意外と良いヤツ」と思わせる要素もあった!



主人公は殺人を繰り返すクズ……と思いきや、その全てが理解できないというわけではなく、作中ではむしろ優しい面や、まともな価値観を持ち合わせていていることが示されている、ということも重要です。随所に「あれ?こいつけっこう良いヤツじゃね?」と、観客に“揺さぶり”をかけてくるのです。

原作においても、(彼が殺人の時におぞましい快楽を感じていたり、世間の認識とはやはりズレているんだな、と思わせる記述もありますが)思考回路は意外とまとも……いや、それどころか「家族を大切に思っている」という誠実さまでもを感じさせました。それは、映画でも同様なのです。

つまるところ、本作の主人公がどういった人間であるかは、原作にあった以下の記述に集約されると言ってよいでしょう。

「彼に欠けているのは、家族が生きるためなら、他人の生命さえ奪ってもかまわないという社会性のなさであり、我々と変わらぬ人間らしい感情はふんだんに持っているのだ」

そう、主人公が間違っているのは、“家族が最優先になっている”という価値観。そのためなら殺人だって喜々として行ってしまうという、ある種の実直さこそが、彼を殺人者にしまった元凶なのです。

主演の間宮祥太朗も、以下のように語っています。

「タカノリ(主人公)のように罪は犯さなくても、家族のために自分が望まないことを求められている人は、いると思います。だからこそ、家族と過ごす時間や、普通の家族みたいな会話を大事にして、日常を感じさせる映画にしたかったんです」

『葛城事件』でも描かれたことですが、本来なら愛され愛するべき家族によって、最悪の不幸が訪れてしまうというのも、世の中では十分に有り得ることです。

『全員死刑』は不謹慎な内容に思えて、反面教師的に家族との関係を見つめ直すことができたり、自分にとって正しいことを選択しようと意気込むことができる……実は、そんな教訓を与えてくれる映画なのかもしれません。



まとめ:冒頭だけでケッサクだとわかるぞ!






(C)2017「全員死刑」製作委員会



小林勇貴監督は現在なんと若干27歳(撮影時は26歳)。その若さでここまでのパワーを持つ商業作品を作りあげたことは賞賛するしかありません。

劇中のヤバい人たちの日常は超リアルで、なぜ監督がここまで真に迫った描写ができるのかは、筆者はさっぱりわかりませんね(震え声で)。その他にも、98分というコンパクトな上映時間でまとめ上げたことも素晴らしいですし、何より映画冒頭の“ファーストカット”が色んな意味で責めすぎている!

このファーストカットで、小林監督から「俺はこんな感じで愉快な映画を撮っていくんで!」というパッションと、映画監督としての作家性をダイレクトにぶつけられたようで、ほっこりと笑顔になりました。この初っ端から絶大なインパクトを届けてくれるというサービス精神、それだけで本作のことが大好きになってしまうのです。

作品の方向性としてもエンタメに振り切っていますし、何より映画を観ながら「こんなにヒドいシーンなのに笑ってしまう!」という自身の倫理観が揺らいでしまうかのような“コメディ”具合こそが絶品。R15+指定も大納得の内容ですが、意外と万人が「面白い!」と思える作品に仕上がっていると言えるのではないでしょうか。

また、実際に4人が無残に殺害されてしまった事件を題材としているので、「遺族のことを思うことを笑えないよ!」と思う方もいるでしょう。それは、まったくもって正常な反応です。

しかし、映画の冒頭では「事実を元にしたフィクション」という文言もありますし、いったん現実と切り離して観てみるのも良いでしょう。何より、前述したように、反面教師的に「自身の幸せのために何ができるか?」を考えられるという意義もあるのですから……。ぜひ、“ヒドいのに笑ってしまうけど、教訓も与えてくれるエンタメ作品”を期待して、本作を観ることをおすすめします。

余談ですが、劇中にはとてもわかりやすい『ブレードランナー』のオマージュや、『いつかギラギラする日』への言及があったりもします。映画ファンであれば、よりニヤニヤできますよ。



おまけ:合わせて観て欲しい映画はこれだ!



最後に、『全員死刑』が好きな人におすすめしたい、またはこの映画が好きなら『全員死刑』がきっと好きになれる!と思えた3つの映画を紹介します。


1.マーダー・ライド・ショー2 デビルズ・リジェクト







変態すぎる殺人一家が、彼らを追う保安官から逃避行しながらも迎え撃つという愉快な内容で、『全員死刑』の小林監督が「脚本書く時にエンドレスで再生していた」と明言していた作品です。『マーダー・ライド・ショー』の続編なのですが、そちらを観ていなくても存分に楽しめるでしょう。

この映画で、観た人が口々に語るのはラストシーンの素晴らしさ。こんなにも悪趣味で不謹慎な内容なのに、ここまで感動させられるとは! ホラー映画ファンから「名作!」「前作を超えた!」と絶賛されるのも納得です。

ちなみに、2018年1月24日にブルーレイ&DVDが発売される『ベイビー・ドライバー』が好きな人にも本作をおすすめします。その理由は言えませんが、きっと、観ればわかるはず!


2.ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金





実際に起きた誘拐事件を題材とした映画なのですが、その内容は滑稽の一言。バカな登場人物がマヌケ過ぎる手口で犯罪行為を繰り返し、際限なく悪い方向へ転がっていく様は、不謹慎ながら笑ってしまうでしょう。『全員死刑』は「日本版ペイン&ゲイン」と呼んでも過言ではありません。

監督は『トランスフォーマー』シリーズのマイケル・ベイ。ベイやんならではの「展開をどんどん足していって、メチャクチャなことになっていく」という作家性が、このどうしようもねえ誘拐計画を描いた内容とベストマッチでした。ロック様(ドウェイン・ジョンソン)の圧倒的筋肉がこれほどまでに役に立たない映画は、後にも先にも存在しないでしょう。


3.ゼア・ウィル・ビー・ブラッド





これまで書いてきた通り、『全員死刑』は「本来はとても恐ろしいシーンのはずなのに、笑えて仕方がない」という不謹慎さが詰め込まれているような作品です。そんな“黒い笑い”が好きだという方におすすめしたいのが、この『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』。パッと見では重圧な歴史もののような雰囲気ですが、実はブラックコメディと言っても良さそうな、これまた滑稽な内容でもあるのです。

映画史上に残るであろう、「ゾッとしながら爆笑できる」クライマックスは、映画好きなら間違いなく必見です。ダニエル・デイ=ルイスがアカデミー主演男優賞を取ったことも大納得、吹替版の壤晴彦の演技も味わい深いと……そんな役者の本気を知ることができる、“ゾッ笑い”を、ぜひ体感してください!

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(文:ヒナタカ)

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