「嘘愛」高橋一生演じる桔平は嘘か誠か
(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会
2018年1月13日に公開された長澤まさみさん主演映画『嘘を愛する女』。
相手役は、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)以来14年ぶりの共演となった高橋一生さんが演じています。
2月13日公開予定、斎藤工さん初長編監督作品『blank13』の主演や、6月15日公開予定の『空飛ぶタイヤ』にも出演しており、今年も活躍の1年になること間違いなしですが、今回演じた桔平は、序盤にくも膜下出血で倒れ意識を失うため、決して出演シーンが多かったわけではありません。
しかし、ストーリー上意識がない間も、小説を読みあげるという形で声で登場しています。
実写として登場する高橋一生さんと、声の部分と、この2つがあるからこそラブミステリーとしての面白さが倍増していました。
今回は、この2つに注目して高橋一生さんが演じた桔平に迫ります。
実写と声、それぞれが意味するのは
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高橋一生さん演じる小出桔平は研究医で、恋人である由加利(長澤まさみ)と同棲5年を迎えたところです。
掃除や料理といった家事が得意で家庭的な一面を覗かせながら、仕事に出かける前には由加利とのキスを欠かさない、充実した生活を送っていました。
そんななか由加利が、自分の母親に紹介したいからと3人で会う約束をしたところ約束の時間を過ぎても姿を現さず、家に帰ってきたかと思ったら、訪れていたのは警察でした。
桔平は、くも膜下出血で倒れて病院に運ばれ、意識不明だというのです。
そこで明らかになった、偽造された運転免許証や医師免許証。すべてが”嘘”であるとわかりました。
“ほんとうのきっちゃん(桔平)”を知りたいと、探偵(吉田鋼太郎)を雇い、わずかな情報を手がかりに由加利は桔平のルーツを辿ります。
そこで、作品を通して高橋一生さん演じる桔平は、実写と声、2つに分けることができます。
ひとつは、実写としてスクリーンに写っているときで、これが”嘘”の部分にあたります。
もうひとつは、桔平が書いた、莫大な文章量の小説の中で明かされる”誠”の部分。これは、一生さんが小説を読む、声での登場でした。
「登場シーンが少ない!」と嘆いている人もいらっしゃるかもしれませんが、この嘘と誠の演じ分けと区別が作品において重要な仕掛けになっていると感じました。
嘘の桔平
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まずは実写パート、嘘の部分です。
桔平は序盤で倒れて意識不明になってしまうので、作品のほとんどは、由加利がほんとうの桔平を探す部分にあてられています。
実写部分の多くは、由加利が恋人同士の記憶を思い出す形で登場しています。つまり、由加利の視点で描かれており、この時桔平はほんとうの自分を隠した状態なので、”嘘”の部分になるということです。
とはいえ、恋人同士の甘い時間が描かれているのもこちらの部分。
ふたりで一緒にいる時間や触れ合っている場面に、穏やかな表情を見せている桔平もいます。
長澤まさみさんと高橋一生さんは、撮影に入る前にエチュード(即興でやるお芝居)を行ったらしく、冒頭のキスする場面も、口にするのがふたりの間柄を表すからとおでこのキスから変更したそうです。
ふたりが恋人でいる場面に”嘘”がひそんでいるのが観ていて信じられないくらい、充実した様子と、お互いに許しあっている関係性が滲み出ていました。
しかし桔平が、駅のホームに登っていくところや、買い物袋を手に歩いているところ、総じて一人で行動している場面では、やはり過去に何かありそうな影を落とした表情をしています。
小出(桔平)という名前が、たまたま目に入った建物の名前だったり、研修医として働いた形跡がなかったりと、少し調べればわかるような詰めが甘い部分も、嘘を貫ききれなかった桔平の人間性の表れかもしれません。
誠の桔平
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一方、”誠”の部分は、由加利が小説を読むと同時に、桔平がモノローグ的に声で語っています。
この小説は、桔平が由加利に内緒で書き溜めていたもので、700ページもある莫大な量でした。桔平に関する情報がほとんどつかめていない状態だったため、由加利と、依頼を受けた探偵(吉田鋼太郎)はこれを読み込み、少しずつ手がかりを見つけていきます。
とはいえ、これが”誠”、つまり真の桔平によって書かれた小説であると気づくのは終盤です。
それまではひたすらに淡々と、由加利が目で追って読むのに合わせて桔平の声で読まれていくだけなので、観客としては、桔平は極悪人だったのか、はたまた結婚詐欺師か!? というような疑念を持ったまま観進めることになります。
高橋一生さんといえば、放送中のアメリカドラマ『THIS IS US 36歳、これから』(NHK)で吹き替えを担当していますが、今回は”声のお芝居”というほど情感の込められたものではありません。だからこそ、桔平の真の姿が明かされていくにつれ、それがいかに誠実な読み方であったか気づかされるのですが。
これまで体の動きや表情といった、お芝居全体を通しての高橋一生さんに注目してきた人こそ、ここでの桔平には驚かされるはずです。
ただ読まれるだけなので情報として受け流してしまいがちですが、その読み方やスピード、間などにも注目してみるとより楽しめます。
また、2018年2月24日公開の『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』では、日本語吹き替えで参加されているので、こちらも気になりますね。
繰り返される嘘と誠
※結末ネタバレあり
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ここまで、嘘と誠の部分をそれぞれに分けてみましたが、最終的には、この2つが絶妙に絡み合っているのが作品の巧みさ、面白さにつながっています。
作品の構成として、嘘と誠の部分は、ほんとうの桔平を探す過程で断片的に、また交互に繰り返されます。
これによって、ラストのクライマックスまで桔平の素性がわからないように工夫されている一方で、繰り返されるたびに、由加利の桔平に対する思いや愛情が募っていく様子が示されています。
ずっと小説(声)でしか自分のほんとうの部分を語ってこなかった桔平が、最後の最後で目を覚まし、その瞬間に由加利が自分の過去を辿ったことを把握し、そのうえでじんわりと涙するところは嘘が誠になった場面でした。
長いあいだ恋人に嘘をついていたことから始まる物語なので、観客にとって、愛する人や信頼する人への嘘はありか、なしか、と考える作品になっていますが、嘘と誠を効果的に繰り返すことで、その2択への答え以上の感動を与えてくれる結末になっていました。
語りすぎないのが良い
(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会
そうはいっても、高橋一生さん演じる桔平は、全体を通して言葉数の多いほうではありません。それは、由加利の気が強くて前のめりな性格に隠れていたというのもありますが、明かされた桔平の過去からもわかるように、もともと言葉を尽くすタイプではないのでしょう。
だからこそ鑑賞するときは、その語られなかった部分、言語化されなかった部分を映像から汲み取って、想像するのが楽しい作品です。
とくにラストは、大画面で観ると、その表情に感動が倍増する気がします。
嘘と誠の積み重ねでじんわりと感動しながら、エンドロールに最高潮の余韻をぜひ楽しんで!
(文:kamito努)
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