映画コラム
『あなたの旅立ち、綴ります』で描かれる明るく楽しい理想的な終活とは?
『あなたの旅立ち、綴ります』で描かれる明るく楽しい理想的な終活とは?
(C)2016 The Last Word, LLC.All Rights Reserved.
ちょうどこの原稿を書こうとしているとき、大杉漣さんの訃報がTVのニュース速報で流れてきました。
(まだ映画業界の中で駆け出しだった四半世紀以上前に取材させていただいたことがあり、その7年後くらいに再びお会いした時、こちらのことを覚えていてくださって、うれしく思ったものでした。誰からも好かれる人柄で、善玉から悪玉、ヤクザから総理大臣まで何でもこなす名優に、心からお悔やみ申しあげます)
人はいつ死んでしまうのか、それは誰にもわかりませんが、それはいずれ、誰にも確実に訪れます。
とくに最近は突然死や孤独死の問題なども見越しながら、遺書やら生前葬やら終活の意識も高まってきているようです。
そういった現代事情の中、本作『あなたの旅立ち、綴ります』もまた終活の一種を描いたものですが……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.293》
これがまあ、なんとも実に明るく楽しく笑える、ある意味人生の理想的とも思える終活映画なのでした!
自己チューでひねくれたばーさんが、
生きてるうちに訃報記事を依頼したら?
『あなたの旅立ち、綴ります』の主人公は80代の老婦人ハリエット・ローラー(シャーリー・マクレーン)。
ビジネスで成功し、何不自由のない生活ではありますが、夫とも別れ、孤独と死に対する不安の中、彼女は自分の訃報記事の執筆を地元の若き新聞記者アン・シャーマン(アマンダ・セイフライト)に依頼します。
さっそく取材を始めるアンですが、実はこのハリエットばあさん、見事なまでの自己チュー人間で、彼女のことをよく言う人がいません。
またそれはアン自身、彼女と接するごとに痛感することで、とにかく口は悪いはひねくれてるはで、いわゆる美談的な訃報記事など書けるはずもありません。
そこでアンはハリエットに、最高の訃報記事に欠かせない4つの条件を提示し、彼女にそれを実践させることにするのでした……。
普通、訃報記事なんてものは、それなりに名なり財なり成し遂げた人ならではの特権みたいな感もあり、私ら一般人とは無縁のようにも思えますが、まあ葬式での弔辞などでいかによく読まれてほしいか、みたいなところで連想していくとシンパシーも湧いてくるというもの。
そういえばマコトかウソかではありますが、新聞社などマスコミでは、ある程度年齢がいってたり、病気の噂のある有名人の訃報記事を事前に準備しておき、いつ何時でもすぐに発表できるようにしてあると聞いたこともあります。
が、そんなことはさておき、本作の面白さは年齢もキャリアも違う二人の女性の微笑ましくもギスギスした(?)火花散るハートウォーミングなやりとりにあるといっても過言ではないでしょう。
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ハリウッド大女優シャーリー・マクレーン
その飄々とした素晴らしき貫禄!
やはり何といってもシャーリー・マクレーンです。
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『アパートの鍵貸します』や『愛と喝采の日々』『愛と追憶の日々』などで知られるハリウッド大女優の彼女ではありますが、本作はその人生のキャリアの集大成! といったこちらの大仰な物言いすらシニカルに返しかねない飄々としたイジワルばーさんぶりが実に楽しく、またそれゆえの貫禄に改めてひれふしてくなるほどです。
とくにハリエットが憧れのDJを始めていくくだりなど、コメディエンヌとしてのセンスも抜群な彼女の資質が見事に生かされています。
(実際、本作の脚本はシャーリー・マクレーンがハリエットを演じることを想定して書かれているとのことです)
対するアマンダ・セイフライドですが、『ミーン・ガール』や『マンマ・ミーア』など若手実力派女優の筆頭でもある彼女にとって、稀代の名優シャーリー・マクレーンとの共演は今後のキャリアの大きな糧になったことでしょう。
何もかも辛辣なハリエットと、もう一歩前に踏み切れないまま日々をすごしがちなアンとの対比は、老いのたくましさと若さゆえの臆病まで描出しているようにも思え、またふたりの女優のコンビネーションによって、人生のハートフルな温かさまでもが醸し出されているようです。
監督は『隣人は静かに笑う』『プロフェシー』などのマーク・ペリントン。
シニカルな人間観察に長けた作品を連打する彼ですが、一方では『U2 3D』を手掛けるなど音楽に対する才覚にも秀でており、そのセンスの良さが本作でもフルに発揮され、結果として彼の最高傑作に仕上がったようにも思えます。
いずれにしましても、これは久々に新旧含めた映画ファンのニーズに応えた、映画ならではの粋な気持ちよさで見る者を包み込みながら、自分自身の人生をふと振り返りたくなるような快作です。
誰だってみんな死んだ後、けなされるよりは褒められたいものです!
(文:増當竜也)
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