映画ビジネスコラム
アカデミー賞特集 作品賞・監督賞編:『シェイプ・オブ・ウォーター』が最有力か。
アカデミー賞特集 作品賞・監督賞編:『シェイプ・オブ・ウォーター』が最有力か。
Photo credit: lincolnblues on Visualhunt / CC BY-NC-ND
いよいよ現地時間3月4日に発表される第90回アカデミー賞。主要部門解説コラムのトリを飾るのは、メインでもある作品賞と監督賞。このふたつの関連性に触れながら、両部門の行方を考察してみたい。
<作品賞ノミネート>
『君の名前で僕を呼んで』
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』
『ダンケルク』
『ゲット・アウト』
『レディ・バード』
『ファントム・スレッド』
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』
『シェイプ・オブ・ウォーター』
『スリー・ビルボード』
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— The Academy (@TheAcademy) 2018年1月23日
<監督賞ノミネート>
ポール・トーマス・アンダーソン『ファントム・スレッド』
ギレルモ・デル・トロ『シェイプ・オブ・ウォーター』
グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』
クリストファー・ノーラン『ダンケルク』
ジョーダン・ピール『ゲット・アウト』
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— The Academy (@TheAcademy) 2018年1月23日
作品賞
まずは作品賞候補の9作品から簡単にチェックしていこう。最多ノミネートを獲得したのは、演技部門と技術部門でも大健闘をみせた『シェイプ・オブ・ウォーター』の13部門。
(C)2017 Twentieth Century Fox
『シェイプ・オブ・ウォーター』より
対象的に『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』は作品賞と主演女優賞の2部門だけ。
©Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』より
最近では一昨年の『グローリー/明日への行進』が作品賞と歌曲賞のみに留まっているのだ。時代を反映した作品の意義や、熱狂的なファンを有する作品に見受けられる傾向で、本作の場合は前者といったところだろうか。
前哨戦や下馬評では有力視されていた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』や『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』、また他の部門で健闘を見せている『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』は作品賞から漏れ、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』と『ファントム・スレッド』の候補入りがサプライズといったところか。
© 2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』より
© 2017 Phantom Thread, LLC All Rights Reserved
『ファントム・スレッド』より
奇しくも2作品ともフォーカス・フィーチャーズ配給の作品。過去には『ロスト・イン・トランスレーション』や『ブロークバック・マウンテン』などの有力作を送り出す、インディペンデント映画の中堅会社が今年は2作品を輩出する大健闘となった。
一方で、2003年以降作品賞に必ず作品を送り込んでいたワーナー・ブラザースは昨年こそ作品賞入りを逃したが、今年は『ダンケルク』で復権。
(C)2017 Warner Bros. All Rights Reserved.
『ダンケルク』より
また、昨年の『ムーンライト』を輩出したA24が『レディ・バード』を送りこむことに成功。
© 2017 InterActiveCorp Films, LLC./画像クレジット:Merie Wallace, courtesy of A24
『レディ・バード』より
前述の『ペンタゴン・ペーパーズ』を除き、ほとんどの作品が4部門以上の候補を獲得。とりわけ技術系が目立つ『ダンケルク』や、美術系が強い『ファントム・スレッド』と『ウィンストン・チャーチル』、満遍なく候補入りを果たした『シェイプ・オブ・ウォーター』と、近年のオスカーは、以前あったような部門差が解消されている傾向が伺える。
以前は技術系には大作が集中しながらも、あまり作品賞などのメインの部門では活躍を見せず、また美術系はヨーロッパ色の強い作品が目立っていた。作品の間口が広がったことや、作品賞の枠が増えたこと、そしてアカデミー会員も近年の技術革新を認めざるを得なくなっているということではないだろうか。(脚色部門に『LOGAN/ローガン』が入ったことを考えると、アメコミ映画の作品賞入りもそう遠くはないか…)
監督賞
一方で監督賞。まず注目すべきは、ゴールデン・グローブ賞の監督賞候補に挙がらずひと騒動が巻き起こったグレタ・ガーウィグがここで名前が挙がったことだ。リナ・ウェルトミューラー、ジェーン・カンピオン、ソフィア・コッポラ、そしてキャスリン・ビグローにつづく5人目の女性監督の監督賞入り。一気に票が彼女へなだれ込む可能性も充分高く、ギレルモ・デル・トロの受賞に唯一の視覚があるとすればそこだけだろう。
同じく『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールもまた、黒人監督としては史上5人目の候補。こちらは作品パワーと世相を反映したシュールさが、どこまでアカデミー賞に影響をもたらすのか、その一点にかかっており、3番手ないしは4番手といったところだろうか。
そしてこれまで幾度と候補入りを噂されておきながら、涙を飲み続けたクリストファー・ノーランが悲願のノミネート入り。このまま受賞も…!と期待するファンの声も高まりそうだが、まだ将来性が高く、一度候補に挙がってしまえば何度も候補入りを果たすタイプの監督。今年ではなさそうだ。
また、有力視されていた『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーを差し置いてノミネート入りを果たしたポール・トーマス・アンダーソンは、ダニエル・デイ=ルイスの引退というフックに助けられた感が否めない。もとより確かな演出力を持った監督で、『ザ・マスター』で候補入りを果たせなかったように、かなり賛否が分かれるタイプの監督でもある。ここはノミネーションサプライズの要員といったところだろうか。
Introducing the newest class of #Oscars nominees! pic.twitter.com/eTn4HpoaIl
— The Academy (@TheAcademy) 2018年2月5日
さて、作品賞の候補枠が5枠以上に変更された第82回以降、以前と変わらず5枠のままの監督賞候補作で作品賞候補に挙がらなかったのは『フォックス・キャッチャー』のベネット・ミラーただ1人。
そしてもちろん監督賞の候補に挙がらずに作品賞を受賞した作品は、89回の歴史の中で4度だけ。第1回の『つばさ』を皮切りに『グランド・ホテル』、『ドライビングMissデイジー』、そして『アルゴ』だ。
ともなれば、今年の作品賞は監督賞候補に挙がった5作品から選ばれる、ということになる。そして同時に、編集賞の候補に挙がらずに作品賞を受賞した作品も、83回の(第7回から始まった部門のため)歴史でわずか10本。3年前に『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が、『普通の人々』以来34年ぶりに受賞したということを考えると、いかに重要視されているかがわかるだろう。
ちなみに今年の作品賞候補作で、編集賞にノミネートされているのは『ダンケルク』『シェイプ・オブ・ウォーター』、そして監督賞にノミネートできなかった『スリー・ビルボード』の3本。
さらに、脚本賞(もしくは脚色賞)にノミネートされなかった作品賞受賞作というのも、過去に4本だけ。『ダンケルク』が落ちて、消去法では『シェイプ・オブ・ウォーター』の独壇場となる法則ができあがっているわけだ。
前哨戦でも、製作者組合賞に輝き、また監督組合賞も獲得。『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞と監督賞のW受賞を果たし、ギレルモ・デル・トロはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥやアルフォンソ・キュアロンと同じステージに立つという可能性が非常に高くなっているわけだ。
ここ2年は作品賞と監督賞が合致しない年が続いたが、基本的にはこの二つの賞は直結する。史上数本しかない13ノミネートを獲得した『シェイプ・オブ・ウォーター』が、この最重要部門を両方とも落とすということは、まず考えられないだろう。
(文:久保田和馬)
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