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【サプライズと納得】第93回アカデミー賞詳報:インクルージョン&ダイバーシティ 



昨年2月の『パラサイト-半地下の家族-』の歴史的な受賞劇の記憶が新しい中…、と言いたいところですが、それからここまでの間に世界各地での新型コロナウィルスの感染拡大が起きてしまい、『パラサイト』の記憶は随分と遠いものになってしまいましたね。

今年の第93回アカデミー賞は、そのメイン会場を従来の3000人以上を収容できるドルビーシアターからロサンゼルスのユニオンステーションの特別会場に移し、それにドルビーシアター、パリ、ロンドン、さらに韓国を繋いだ、多元中継式の授賞式となりました。

開催式の出席者も従来の1割以下に納め、歌曲賞を中心としたパフォーマンスは全て事前番組に回すというスリム化、コンパクト化された授賞式となり、授賞式の華レッドカーペットも超限定的なものになりました。

また、出席者はカメラが回っていない時はマスク必着、複数回の検査、ワクチン接種、ソーシャルディスタンスを保って出席、その他スタッフ・関係者はマスク着用という厳戒態勢でした。

 第93回アカデミー賞 受賞結果

そんな中での第93回アカデミー賞全23部門の受賞結果はこのようになりました。

作品賞 『ノマドランド』

監督賞
クロエ・ジャオ『ノマドランド』

主演男優賞
アンソニー・ホプキンス『ファーザー』

主演女優賞
フランシス・マクドーマンド『ノマドランド』

助演男優賞
ダニエル・カルーヤ『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』

助演女優賞
ユン・ヨジョン『ミナリ』

国際映画賞
『アナザーラウンド』

脚本賞 エメラルド・フェネル『プロミシング・ヤング・ウーマン』

脚色賞
クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール『ファーザー』

衣装デザイン賞
アン・ロス『マ・レイニーのブラックボトム』※NETFLIX

メイクアップ&ヘアスタイリング賞
『マ・レイニーのブラックボトム』※NETFLIX

視覚効果賞 
: 『TENET テネット』

撮影賞
エリック・メッサーシュミット『Mank マンク』※NETFLIX

編集賞
ミッケル・E・G・ニルソン『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』※Amazonプライム

美術賞
ドナルド・グレアム・バート『Mank マンク』※NETFLIX

作曲賞
ジョン・バティステ、トレント・レズナー、アティカス・ロス『ソウルフル・ワールド』※Disney+

歌曲賞
“Fight For You”『 ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』

音響賞
『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』※Amazonプライム

長編アニメ映画賞
『ソウルフル・ワールド』※Disney+

短編アニメ映画賞
『愛してるって言っておくね』※NETFLIX

長編ドキュメンタリー映画賞
『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』※NETFLIX

短編ドキュメンタリー映画賞
『Colette(原題)』

短編実写映画賞
『隔たる世界の2人』※NETFLIX
 
最多受賞は『ノマドランド』の3部門、続いて2部門を受賞した作品が5作品も並ぶという大混戦、大きく割れたアカデミー賞受賞結果となりました。

配信系の圧倒的な存在感

新型コロナウィルスの感染拡大が拡がり続けるアメリカでは、昨年からほぼ1年間、重要な都市部を中心に映画館の機能が停止してしまいました。

このことを受けてアカデミー協会は(劇場で)商業的に上映された映画という項目を一時的に破棄しました。

その結果配信系作品の存在感がさらに増したアカデミー賞となりました。昨年、全映画会社の中で最多の24部門ノミネートを果たしたNETFLIX。今年はさらにその数字を伸ばして35部門ノミネートとなりました。さらにAmazonプライムやDisney+作品もノミネートされ配信系作品の存在感が増しました。

受賞したものだけででも全23部門の内、NETFLIX作品が7部門、Amazonプライム作品が2部門、Disney+作品が2部門受賞と約半数が配信系作品となりました。

受賞はありませんでしたが『この茫漠たる荒野で』『シカゴ7裁判』はNETFLIX作品、『続ボラット栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢物計画』はAmazonプライム作品ですね。

劇場上映の条件については来年以降どうなっていくのかは不透明な部分もありますが、コロナ禍による映画(館)の機能停止によるハリウッドの経済的なダメージは大きく、その一方で配信系は業績を伸ばしているという事実もあり、パワーバランスが一転した感もあり、この流れは変わらないのではないかなという想いもあります。

※配信作品については受賞結果の末尾に記してあります。

インクルージョン&ダイバーシティ 多様性の尊重のアカデミー賞

白すぎると批判されたアカデミー賞から5年。会員を大きく増やすと同時に多様な人種、ジェンダーを考慮した構成へとアカデミー協会が、変革しつつある中での第93回アカデミー賞では20人の演技部門ノミネート者のうち9人の非白人俳優がノミネートされました。

 そして『ミナリ』で助演女優賞にノミネートされたユン・ヨジョンが、アジア系女性としては1957年『サヨナラ』のナンシー梅木以来の63年ぶりの受賞。助演男優賞も『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』の黒人俳優ダニエル・カルーヤが受賞しました。

 監督賞でも5人ノミネートの中に2人の女性監督が、そして2人のアジア系監督が含まれ、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督が女性として2人目、アジア系女性としては初めてで、アジア系監督としては昨年のポン・ジュノ監督に続く受賞となりました。ちなみに、プレゼンターは韓国からの中継という形でポン・ジュノ監督でした。

 またメイクアップ&ヘアスタイリング部門を受賞した『マ・レイニーのブラックボトム』のチームは全員がアフリカ系アメリカ人で構成されています。

各賞や恒例の“追悼”のプレゼンターなどにも黒人俳優、そして女性が多くキャスティングされたことも記憶に残ります。

過去のアカデミー賞の歴史を見るとリベラルな結果になった翌年は揺り戻しで、保守的な結果に戻りがちだったのですが、今となっては1年や2年の“見え透いたアリバイ作り”はかえって批判を生むことしかしないので、この流れが続くことが期待されます。

現在を映し出した受賞結果

受賞はならなかったものの『シカゴ7裁判』も含めて多くのノミネート作品では、現在のアメリカと世界で起きている諸問題を想起させる作品が並びました。

現在アメリカで吹きあふれる黒人、アジア系へのヘイトクライムとそれに対するBLM運動や反対運動、さらに今も続く#METOO運動、そしてコロナ禍などによる国家と世界の分断について、過去の出来事を現代アメリカと世界の映し鏡として問題提起をした作品が並びました。

『ノマドランド』はリーマンショック後の経済が悪化したアメリカで生きる人々の姿を描いている作品ですが、これはコロナ禍の影響下にある今のアメリカと大きく重なります。

今回、ジーン・ハーショルト友愛賞を受賞したタイラー・ペリーとモーションピクチャー&テレビジョン基金は経済的な困窮に対しての救済、慈善事業に対しての評価でした。

『マ・レイニーのブラックボトム』、『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』は黒人・黒人文化を描いていますが、現在のBLM運動のことは自然と頭に浮かんできます。短編実写映画『隔たる世界の2人』も同じテーマの作品です。『ソウルフル・ワールド』のジャズへの敬愛の念も忘れられません。『シカゴ7裁判』も反戦・反権力を語る一方で人種差別への批判も込められていますね。BLM運動の発端となったミエアポリスの事件に言及する人も少なくありませんでした。

オリジナル脚本賞をエメラルド・フェネルが初監督・初脚本で獲得した『プロミシング・ヤング・ウーマン』はホラー、コメディ、サスペンス、ラブストーリーといったジャンルを横断したデートレイプをテーマした映画でこれはストレートにジェンダーについての問題的になっています。

映画への偏愛を描いた『Mank マンク』もフェイクニュース的な要素を見て取れますし、『続ボラット栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢物計画』なんかは思い切りフェイクの話ですね。

一方で人生のあり方を描いた普遍的な作品も並びました。『ミナリ』は韓国系移民を主人公したことで現代的な物語に蘇ったアメリカンドリームの映画であります。

銃乱射事件の遺族の生き方を扱った短編アニメーション『愛してるって言っておくね』や2部門受賞の異色の音楽映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』は多くのもの抱えながら生きる人々姿を描いています。

そして大逆転でアンソニー・ホプキンスが史上最高齢で主演男優賞を受賞した『ファーザー』は“人生の終い方”を描いています。国際映画賞のデンマークの『アナザーランド』も悲劇から立ち直った監督による物語です。

最後は映画を支え続けてきたリビングレジェンドに

異例尽くしの第93回アカデミー賞ですが、その中でも最たるものがその構成でしょう。

最高の栄誉である作品賞が最後から3番目という異例の早い順番で発表され、その後、主演女優賞、主演男優賞と続きました。

各賞への投票用紙と受賞結果は、授賞式当日・開封されるまでアカデミー協会が契約している会計事務所しか、触れていないものです。しかし、事前の前哨戦と呼ばれる映画賞の結果や、世論的なものによってある程度、情勢が読める部分もあります。

そして、今年は主演男優賞に昨年43歳の若さで亡くなった『マ・レイニーのブラックボトム』のチャドウィック・ボーズマンに賞がいくのだろうというのが大方の予想でした。

主演男優賞の発表を受賞式の最後に回したのは、この早逝した才能への追悼で授賞式全体を締めくくろうという構成だったのだと思います。

それを大逆転で受賞したのは史上最高齢で2度目の受賞(しかも欠席)のアンソニー・ホプキンスでした。1991年の『羊たちの沈黙』のレクター博士以来の受賞です。プレゼンターのホアキン・フェニックスのそっけなさに加えて、アンソニー・ホプキンスが欠席でスピーチなしということで第93回アカデミー賞授賞式はものすごい幕切れでした。

そしてその一つ前に発表された主演女優賞は『ノマドランド』のフランシス・マクドーマントが3度目の受賞です。

ハリウッドメジャー作品が影を潜め、インディペンデント作品、配信に作品発表の可能性を見出した作品が中心となった第93回アカデミー賞ですが、最後を締めくくったのはハリウッドを代表し、何度もアカデミー賞を賑わしてきた2人のリビングレジェンドに賞が渡りました。

まとめ

コロナ禍の中で大きく様変わりした部分を受け入れつつも、最後はハリウッドの至宝というべき2人を(しかも、誰しもが納得の形)選んで締めくくった第93回アカデミー賞は今までにない忘れ難い印象を残した授賞式となりました。

早くも第94回アカデミー賞の日程はすでに2022年2月28日と発表されています。こちらもコロナ禍の影響で日程は流動的ではありますが、次回はどのような授賞式になるのでしょうか?今から期待が高まります。

ちなみに受賞予想結果は23部門中的中14部門でした。配信などで事前に多くの作品を見れていながら思いのほか外してしまいました。

(文:村松健太郎)

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