映画コラム

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2018年03月19日

『去年の冬、きみと別れ』は『HiGH&LOW』ファン、更に『仮面ライダービルド』ファンも必見!

『去年の冬、きみと別れ』は『HiGH&LOW』ファン、更に『仮面ライダービルド』ファンも必見!



(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会



その発表以来、映像化は不可能と言われていた中村文則のベストセラー小説『去年の冬、きみと別れ』が、『脳男』『グラスホッパー』などで知られる瀧本智行監督により、ついに映画化が実現!そこで今回は、3月10日より全国公開が始まったこの話題作を、公開2日目の日曜日の最終回で鑑賞して来た。若い女性や男女のカップルが多めの観客層は、やはり主演男優二人のファンが多いのだろうか?そんな印象で鑑賞に臨んだ本作。タイトルやポスターデザイン、それにキャスティングなどからはラブストーリー的内容を連想させる本作だが、果たしてその内容はどんな物だったのか?

ストーリー


最愛の女性との結婚を控える記者=耶雲(岩田剛典)が狙う大物は、一年前の猟奇殺人事件の容疑者=天才カメラマンの木原坂(斉藤工)。事件の真相に近付く耶雲だったが、木原坂の危険な罠は婚約者の百合子(山本美月)にまで及んでしまう。愛する人をこの手に取り戻すため、木原坂の罠にハマっていく耶雲の運命はー?


注:今回ネタバレを避けるため、あえてストーリーは簡略化させて頂きました。

予告編


見事に成功した原作からの改変!より分かりやすい映画版の魅力とは?


公開前から映画ファンの間でも非常に評判が高く、実際ネットでの感想やレビューも軒並み好評・高評価だった本作。

今回はネタバレを避けるために、敢えて原作未読で鑑賞に臨んだのだが、いや、確かにこれは評判通りの面白さだった!

ミステリーやサスペンスよりもラブストーリー要素を強く感じさせるそのタイトルや、ポスターのビジュアルと主要キャストの顔ぶれからは予想も出来ないこの展開には、恥ずかしながら自分も完全に騙されてしまった。

さっそく鑑賞後に原作小説を読んでみたのだが、実は映画版よりも原作の方が更にもう一段階どんでん返しが用いられていたり、人間関係や人物の入れ替わりのトリックが更に複雑だったりするなど、確かに映像化は不可能との評判も納得出来る、非常に凝った造りになっていた。

実際、一度映画を鑑賞してから読んだにも関わらず、あの登場人物が実は!という展開の複雑さに、何度かストーリーを見失いそうになることが多かった、この原作小説。とにかく全編が登場人物の回想や証言・手紙などで構成されており、その積み重ねの中から次第に事件の真相が明らかになり驚愕のラストに到達する展開は、昨年公開された映画「愚行録」の内容に非常に近いのではないだろうか。

もちろん上映時間の長さや、小説と映像表現の違いなどの理由から、原作の内容や設定は映画向けに大幅にアレンジされているのだが、脚本の完成まで実に10稿以上のリライトを重ねた苦労が実を結び、その変更が確実に映画の質を高めているのは見事としか言いようが無い。

今回の映画版と原作小説との一番大きな変更点は、やはり主人公の設定を編集者から記者に置き換えたことだろう。

この大きな変更により、本来原作では堀内正美演じる弁護士の役割だった部分が、北村一輝演じる編集長へとスライドされてしまったため、残念ながらこの弁護士が単なる脇役扱いにされてしまった点は、原作ファンにはやはり気になる部分かも知れない。だが、小説だからこそ成立するトリックや意外な展開を、大胆だが見事な脚色・改変により映画ならではの物として実現させた点は、きっと原作ファンにも納得して頂けるはずだ。

特に映画版での、時間の経過の錯覚を上手く利用した展開は必見!この部分のトリックには、きっと2015年公開の映画『イニシエーション・ラブ』や、昨年公開された『ジグソウ:ソウ・レガシー』の展開を思い出した方が多かったのではないだろうか。

果たしてその驚愕の展開と意外な真相とは何なのか?その答えは、是非劇場で!



(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会





主演男優陣はもちろん、それ以上に女優陣が素晴らしい!


本作の大きな魅力となっているのは、観た人が絶対に騙されるストーリーの意外性に加えて、何と言ってもその出演キャストの顔ぶれだろう。

特に今までのハードなイメージを覆し、今回初のメガネ男子姿を披露した岩田剛典と、猟奇殺人事件の容疑者を実に楽しそうに演じている斎藤工の共演は、『HiGH&LOW』シリーズのファンでなくても期待してしまう、正に絶妙の組み合わせだと言える。



(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会




『HiGH&LOW』シリーズの様な拳と拳の殴りあいではなく、二人の巧妙な駆け引きにより展開する頭脳戦は、果たしてどういう結末を迎えるのか最後まで全く予想がつかないほどの名勝負!

もちろんこの対決の行方も気になるのだが、実はそれ以上に観客の印象に残るのが、本作で見事な演技を披露する女性キャスト陣の存在なのだ!

耶雲の婚約者の百合子を、2016年公開の映画『少女』で見せた様な、どこか陰のある女性として本作でも見事に演じている山本美月はもちろんだが、それ以上に素晴らしいのが、木原坂の姉である朱里を演じる浅見れいなと、一年前の猟奇殺人の被害者である亜希子を演じる土村芳の演技だ。実はこの二人のキャラクターの出来により、ある人物の動機や行動に観客が感情移入出来るかが決まる重要な役だけに、今回の二人の起用は正に大正解だったと言えるだろう。

まず、映画の後半で重要な存在となる朱里を、そのキレた演技で原作のキャラクターよりも遥かに危険な女として表現した浅見れいな。その不幸な生い立ちのためとはいえ、彼女の狂気が周囲の人間を巻き込んで狂わせていく様子は、実に圧巻だと言える。

更に派手では無いが上手い!と思わせるのが、亜希子を演じた土村芳の盲目の演技。

本作の中でも特に印象に残るのが、盲目である亜希子がある本を読み終えた時の表情の素晴らしさだ!この笑顔を見て思わず話かけてしまったある人物の気持ちが、観客にも納得できるほどの魅力的なその笑顔。実はこの部分がちゃんと表現出来ているからこそ、後の重要な展開=彼女への愛の深さによる行動に観客が感情移入出来るのだ。

今回、この難しい役柄を見事に演じきってみせた二人の女優の存在こそ、これからの日本映画界にとっての貴重な発見だと言える。きっと二人は今後も多くの作品で、より重要な役柄を演じてくれることだろう。

更にこれら主要キャスト以外にも、脇役としてライムスターのMummy-Dなど、様々な個性の俳優が随所に出演しているので、誰がどこに出ているかも是非お見逃しなく!



(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会



実は『HiGH&LOW』ファンだけでなく、『仮面ライダー』ファンも必見!


前述した様に、それまで徐々に変貌を遂げていた耶雲の外見や服装が、映画の終盤ではついに木原坂と同化して行くことになるのだが、メガネを取ったその黒ずくめの服装は、正に『HiGH&LOW』ファンへの最高のプレゼントだと言える!

映画のラスト、本来の目的を果たした耶雲が黒い車で町を後にするシーンがあるのだが、「いやいや、そこはやっぱり車じゃなくてバイクだろ!」、そんな『HiGH & LOW』ファンの声が聞こえてきそうな程、前半のナイーブなメガネ男子から大きく変貌をとげる主人公の姿は、ファンの期待を裏切らないサービスっぷりだと言える。実際、本作のラストに流れるあの繊細で静かな曲を、頭の中で『HiGH&LOW』の主題歌に脳内変換しても違和感が無いどころか、むしろ逆にそっちの方がテンションが上がるほどだ。(注:これはあくまでも個人的な見解です、念のため)

実は『HiGH&LOW』だけで無く、個人的に『仮面ライダービルド』ファンにもオススメしたい本作。その理由は『仮面ライダービルド』で東都の首相、氷室泰山を見事な存在感で演じている山田明郷が、引退した元刑事役で出演しているからだ!そのメガネ無しの姿には一瞬気が付かないかもしれないが、あの重厚なセリフ回しを聞けば一目瞭然なので、ライダーファンの方はここも是非お見逃しなく!



(C)2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会




最後に


一年前の猟奇殺人事件を巡るミステリーで幕を開け、ラブストーリーとサスペンスを巧みに織り込みながら、犯人に次第に追いつめられて行く主人公の姿を描くと思わせて・・・、実はそこから全く予測不可能な展開を見せる本作!

今回の成功の要因、それは原作小説からの大胆な変更と、やはり『HiGH&LOW』のコブラとは全く違うメガネ男子を演じて、その新たな魅力を観客に見せつけた岩田剛典の存在による所が大きい。ナイーブで恋人を思い続ける誠実な男と、その深い愛情故に事件を執拗に追い続け、非情な行動に出る男。この両方のキャラクターを違和感なく見事に演じ分け、観客に納得させるその力量こそが、今回彼を主演に迎えた最大の理由であり、単に話題作りや集客のためでは無いことが、映画の中盤辺りから我々観客にも次第に分かってくる。

果たして、一年前の事件を執拗に追い続ける耶雲の真の目的とは何か?そして、当時容疑者とされた木原坂は本当にこの事件の犯人なのか?

多くの謎が散りばめられた本作の中で観客が最も疑問に思うのが、猟奇殺人を巡るミステリーとは関係無さそうな、この「去年の冬、きみと別れ」というタイトル。実は本作を観て唸らされたのが、このタイトルの意味が判明するシーンだった。なにしろ、本作の舞台となる季節は夏なのだ!では、一体どうやって最終的にこのタイトルへと繋がるのか?観客の想像力をかき立てる、この名タイトルに込められた真の意味が判明するラストは、正に主人公の恋人に対する想いが観客の胸を打つ名シーンとなっている。

ポスターデザインやタイトル、出演者のイメージから鑑賞を躊躇されている方も多いと思うが、騙される快感が存分に味わえる本作にその心配は一切無用!どうか鑑賞までは出来るだけ事前情報を遮断して頂いて、白紙の状態で劇場に足を運んで頂くことをオススメします!

(文:滝口アキラ)

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