映画コラム
おっぱい求めてふたり旅!?『サイモン&タダタカシ』は予測不可能でハチャメチャな青春映画版『幻の湖』!?
おっぱい求めてふたり旅!?『サイモン&タダタカシ』は予測不可能でハチャメチャな青春映画版『幻の湖』!?
(C)「サイモン&タダタカシ」製作委員会
映画には見始めて割かしすぐに展開が予想できるものもあれば、最後の最後まで何がどうなるかわからないものもあります。
今回ご紹介する『サイモン&タダタカシ』は後者に属する作品なのですが、これがもう何というか……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.296》
先行く展開の予測が不能どころか、もう頭がウニになるくらいにハチャメチャな、まさに若気の至り的な強引さで見る者を圧倒する快(怪?)作なのです!
高校3年の夏休み、
おっぱい求めて少年ふたり旅!?
『サイモン&タダタカシ』というタイトルは、本作の主人公となるサイモン(阪本一樹)とタダタカシ(須賀健太)、工業高校3年生の通称から採られています。
サイモンは友人のタダタカシに恋をしていますが、それを告白できずにいます。
つまりはこの映画、ボーイズ・ラブを題材にしたものと誰しも思うことでしょう。
それは決して間違ってはいません……が、一方のタダタカシは「女性のおっぱいを見ないまま、高校生を終わらせたくない!」と思っている、いわゆる性春を悶々とさせ続けている男の子なのです。
そして夏休み、タダタカシは旅に出ます。
それは、公衆トイレの壁などによく書かれてある“H相手募集”などのケータイ番号の落書きを見たタカシが、その番号の主マイコ(間宮夕貴)を「運命の女性」と信じ込んで、彼女に会いに行こうと決心したからなのでした!
その旅に同行することになったサイモン。
果たして旅のさなか、サイモンはタダタカシに自分の想いを告げることができるのか? それともタダタカシはマイコと会うことが叶い、結ばれてしまうのか?
……と、ここまで書くと何となく切ない青春ロード・ムービーとしての展開を予想する方が大半でしょう。
しかし、ここから何かがおかしくなってくるのです。
ここから先のお話はネタバレになるので書けませんが、ヒントだけ与えますと……。
ヤンキーが出てきます。
フィギュアが出てきます。
アニメーション(しかも鉛筆描きでロトスコープしたもの)が演出技法として時々登場します。
そして何と、VFXまで用いられています。
それらを駆使して、一体何が繰り広げられていくのか?
はっきり言って、これはもう誰も予測できないでしょう。
ひとつだけはっきり言えることは、もうハチャメチャです!
でも、そのハチャメチャさの中から、やがて思春期特有の純粋な想いが(それこそサイモン&ガーファンクルの歌曲のように!)、切々と醸し出されていくのです。
(C)「サイモン&タダタカシ」製作委員会
何かが確実にズレていく可笑しさを
微笑ましく描出した快(怪?)作
本作の監督・小田学は「映画の新しい才能と発見」をテーマに1977年より開催され続けているPFF(ぴあフィルムフェスティバル)2014年度のアワードに『ネオ桃太郎』を出品し、ジェムストーン賞を受賞したインディーズ界の雄で、舞台演出家としても活動中の才人です。
本作は初の長編劇映画ですが、単なる青春映画としてではなく、何かが確実にズレていく可笑しさをあふれんばかりの才能で紡ぎあげ、ときに空回りすら微笑ましい魅力になるほどエネルギッシュに(でも演出タッチそのものは割とほのぼの脱力系!?)開花させていくことで、次代の日本映画界を担う逸材として大いに注目させるものがあります。
主演の阪本一樹のナイーヴな魅力の発露と、それに対する須賀健太(23歳にして俳優キャリア20年のベテラン!)の思春期エロ・モード丸出しっぷりが実に潔く、彼が「おっぱいの歌」みたいなものまで披露しちゃうあたりはもうあっぱれとしか言いようがありません。
ヒロイン間宮夕貴もこれまで『甘い鞭』(13)や『風に濡れた女』(16)『ビジランテ』(17)などハードな作品の熱演が目立ちましたが、今回のようなテイストだとそのお色気も従来とは異なる不可思議な魅力として際立つことになっているように思えました。
その他のキャストもどこかしら何かがズレていてユニークな個性を発揮しており、さらにスタッフ・ワークではベテラン宮本まさ江が担当した衣装の数々にも注目していただきたいところです。
本作はインディーズ作品で決して予算など潤沢ではなかったでしょうけど、アイデアとセンスでいかようにも映画は面白くできることの、これは一つの証左でしょう。
あたかも日本映画史上に残る名匠・橋本忍監督の風俗&スポーツ&愛犬&スパイ&時代劇&SFロマン映画『幻の湖』(82)のテンションに挑んだかのような愛と青(性?)春の一大スペクタクル映画『サイモン&タダタカシ』、どうかごゆるりとお愉しみのほどを!
(文:増當竜也)
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