映画コラム

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2018年03月27日

アクションだけじゃない!『トゥームレイダー ファースト・ミッション』の魅力!

アクションだけじゃない!『トゥームレイダー ファースト・ミッション』の魅力!



©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.


3月21日より、アリシア・ヴィキャンデル主演『トゥームレイダー ファースト・ミッション』の公開が始まった。そのタイトルが示す通り、トレジャー・ハンターのララ・クロフトを主人公にした人気アクションゲーム「トゥームレイダー」の再映画化で、アンジェリーナ・ジョリー主演のシリーズから装いも新たにした“新章”となっている。

監督は『THE WAVE / ザ・ウェイブ』で山岳部の大災害を描いたロアー・ウートッグが務め、『リリーのすべて』でアカデミー賞主演女優賞を獲得したヴィキャンデルを新たなララ・クロフト役に迎えた本作。今回の「映画音楽の世界」では、旧シリーズとの違いを比較しながら『トゥームレイダー ファースト・ミッション』を紹介していきたい。

はじまりを描く、“エピソード0”


ララ・クロフトは言わば女性版インディアナ・ジョーンズであり、「トゥームレイダー」シリーズは女性版『インディ・ジョーンズ』だ。これはゲームの開発段階から『インディ・ジョーンズ』シリーズと意図的に差別化されていた点で、それはゲーム・映画を通して変わりはない。ゲームが大ヒットしたことでララ・クロフトは一躍“強い女性”の代名詞となったが、映画化にあたってアンジェリーナ・ジョリーが見事にそれを体現。自身にとっても代表作の1つになるという結果を残した。

映画化第1作目の公開は2001年で、サイモン・ウェストが監督を務めた同作では父親が遺していた手掛かりを頼りに“時間”をめぐる冒険を展開。さらに2003年には監督をヤン・デ・ボンにスイッチした『トゥームレイダー2』が公開され、こちらは“パンドラの箱”をめぐる冒険が描かれていた。いずれもララ・クロフトは既に“天才トレジャーハンター”として登場しており、映画冒頭から華麗にして豪快なアクションもキメてみせていた。

そこで『トゥームレイダー ファースト・ミッション』だが、ファースト・ミッションという副題からも分かるように(ちなみにこの副題は邦題のみで、原題は『TOMB RAIDER』)本作で描かれているのは冒険家として目覚めるララ・クロフトの姿だ。

父親が行方不明でありその遺言が物語を動かすことには変わりないが、本作のクロフトを突き動かしているのは財宝などではなく“父親との再会願望”という側面が前シリーズ以上に強い。もちろん序盤でクロフトのアクティブな姿が描かれているが、実はそのどれもがクロフトが“敗者”として描かれていることからも、彼女がスーパーウーマンではなく等身大の若者だということが伝わってくる。そうすることで、観客は言わば彼女の成長をともに見ていくことになる。その姿をビキャンデルは自然体で演じることで観客が感情移入しやすいようにクロフトを見せているし、同時にトレーニングを重ねに重ねた肉体改造で冒険をスタートさせるに相応しい肉体美も披露しているのだから、やはりオスカー女優の役作りには半端ない意気込みがにじみ出ている。



©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.


そんなクロフトが最初の冒険に選ぶことになったのが、なんと我らが(?)日本の歴史上の人物・卑弥呼なのだから驚きである。まさかハリウッドメジャー作品で、しかも有名タイトルで卑弥呼が鍵を握ることになろうとは誰が予想できただろうか。ストーリー上で卑弥呼は触れるだけで相手を死に追いやることができる“魔術”の使い手として描かれており、その結果“YMATAI”と呼ばれる無人島へと島流しに遭う。

卑弥呼の体は今も人類を滅ぼすパワーを秘めているとされ、クロフトの父親は命の危険を顧みず卑弥呼の墓を探す旅へ就き、同時にその力を悪用しようとする存在をクロフトに伝える──という流れがあって、クロフトは父親と“再会”すべく冒険へと旅立つことになる。父親の死を受け入れられない姿はジョリー版クロフトより強く打ち出されており、そんなドラマチックなキャラクター性は後半でより強く活かされることになるので、本作は冒険の始まりを告げるとともにクロフト父娘のドラマにも力が注がれていると言える。

舞台は卑弥呼が眠るとされるYAMATAIに移動するが、ここで重要になってくるのが冒険のパートナーの存在。ジョリー版では1作目でダニエル・クレイグ、2作目でジェラルド・バトラーがその役目を果たしているのだが、今思うとこのパートナー1人だけでも十分に解決まで行ってしまうんじゃないかと思える布陣だ。

どちらもさまざまな思惑を胸にクロフトと冒険をともにしていたが、本作のパートナー的存在であるダニエル・ウー演じるルー・レンもまたクロフトの父親とともに肉親が姿を消したという事情を抱えている。言わば運命共同体であるレンの存在は前2作よりもクロフトとよりパーソナルな連携を生み出すことになり、この点に関しても冒険家・クロフトの誕生を引き立てているように思える。さらに途中からはもう1人重要人物がクロフトとパートナーを組むことになるのだが、それは本作の見どころでもあり前シリーズにはない大きなポイントなので実際に鑑賞して確認してほしい。

トゥームレイダー サブ1


©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.


今回の製作陣がどれほど前シリーズを意識していたかは想像に任せるしかないのだが、意図的に「前シリーズと同じことはしない」という意気込みは全体を通して見てもはっきりしているところだろう。

観客に冒険を楽しんでもらうという点はもちろん共通項としてあって見映えのするアクションもてんこ盛りなのだが、親子の絆と女性トレジャーハンター誕生を描くという意味では前シリーズではメインで描ききれなかった部分であり、ララ・クロフトの人間的な成長を楽しめるという点においても本作の大きな見どころになっている。“成長”と“冒険”、1粒で2度美味しい新たなシリーズの誕生である。

鳴り響くジャンキー節!


本作の音楽を担当したのは、今や映画音楽界にもその名前を轟かせているジャンキーXLことトム・ホルケンボルフ。

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ミュージック・プロデューサーとして活躍し、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で一躍人気コンポーザーに躍り出たジャンキーXLは、以降『X-ミッション』や『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(ハンス・ジマーとの共作)、『デッドプール』『ダークタワー』といった大ヒット作・話題作を手掛けている。ジャンキーXLの持ち味としてはエッジの効いたエレクトロニカと極太のオーケストレーションを巧みに取り混ぜた楽曲にあり、やはりその到達点は「怒りのデス・ロード」だったと言える。

しかしジャンキーXLは以降の作品で、意識してのものなのか大袈裟に鳴り響かせるようなことはせず、より繊細に(ややもするとナイーブなまでに)映像の裏に回ろうとするような曲調のスコアに転換したように思える。「怒りのデス・ロード」が映像と一体化、或いは半歩ほど先を行くかのような目立ち方をしていたためか、最近では“大人しくなった”と表現しても差し支えないかもしれない。

トゥームレイダー サブ2


©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.


そういった流れのあったジャンキーXLだが、こと本作に関してはアクションアドベンチャーという性質上、久しぶりに打撃系の力強いスコアリングを披露している。特にアクションシーンではララ・クロフトの強靭さがそのまま音になってスクリーン上に現れており、なおかつクロフトの行く手を拒もうとする、舞台となるYAMATAIの荒々しい環境も重なることで緊迫感もしっかりと漂わせることになった。

ジャンキーXLはリミックス音楽を手掛けていた頃からパーカッションやリズムサウンドに長けた人物でもあるので、ある意味本作への登板も納得のいく人選なのかもしれない。ジャンキーXLは自身の作曲スタイルを動画で配信しており、もちろん本作のスコアリングも丁寧に解説がなされているので興味のある音楽ファンはチェックしてみてはどうだろう。ちなみに、ジャンキーXLの今後の予定にはジェームズ・キャメロン製作、ロバート・ロドリゲス監督『アリタ:バトル・エンジェル』が決まっているので、そちらも公開を楽しみに待ちたい。

トゥームレイダー


©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.



まとめ


ララ・クロフトといえばアンジェリーナ・ジョリーが演じた前シリーズのイメージがどうしても比較対象になってしまうかもしれない。それでも本作はトレジャーハンター・ララ・クロフトの誕生という立ち位置、エピソード0として重要な役割を持つ。既に今後の展開に繋がるヒントも示されているので、まずは「トゥームレイダー」という世界観がいかに構成されているかを知る上で、しっかりと押さえておきたい1本でもある。新生ララ・クロフトの活躍と、日本人には馴染みのある人物・卑弥呼に隠された“秘密”をぜひその目で確かめてほしい。

(文:葦見川和哉)

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