創造神の言葉を法と心得よ!『バーフバリ』S.S.ラージャマウリ監督インタビュー!!




2017年12月に公開された映画『バーフバリ 王の凱旋』が日本全国を席巻中! 絶叫上映やマサラ上映などのイベントが繰り返し開催され、今や多くのメディアにその様子が大々的に取り上げられるようになりました。6月1日(金)には日本など諸外国で公開されたインターナショナル版に、カットされたシーンを復活させた『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』の公開を迎えるなど、本来なら映画公開後は下降するはずの人気が右肩上がりで伸び続けている状況です。



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そんな中、「バーフバリ」シリーズの創造神であるS.S.ラージャマウリ監督とプロデューサーのショーブ・ヤーララガッダさんが来日。映画公開から約4カ月経ての来日は、紛れもなく日本で巻き起こっている“バーフバリブーム”が後押ししたと言っても間違いありません。今回、多忙なスケジュールの合間を縫ってラージャマウリ監督からお話を伺うことができ、「バーフバリ」シリーズに登場するキャラクターについてなどじっくりと語っていただきました。

S.S.ラージャマウリ監督インタビュー





──まずは、本当に面白い作品をありがとうございました!

ラージャマウリ監督(以下:監督):こちらこそありがとうございます。光栄です。

──日本で『バーフバリ 王の凱旋』が一大ムーブメントを起こしていることについて、ぜひ感想を聞かせてください。

監督:単に映画が上手くいったということだけではなく異なる文化圏・言語圏でここまで受け入れられて、こんなにも愛してくださる方がいるということは、本当に「信じられない」という思いに尽きますね。映画の作り手として、語り部としてここまで冥利に尽きることはありません。

昨夜(注・4月26日に新宿ピカデリーで行われた絶叫上映舞台挨拶)は本作の衣装デザイナーである妻をはじめ私の家族、一緒に来日したプロデューサー・ヤーララガッダとその家族みんなで揃って居たわけですけれど、あの劇場で観客の皆さんが、ただ映画を観るだけでなく“楽しむ努力”も惜しまない姿を見て、本当に涙が溢れてきました。

──その舞台挨拶で、映画製作をスタートする上でお父様の存在が大きかったと話されていましたね。作中ではどれくらいのアイデアが反映されているのでしょう?

監督:全ての原案が父からもたらされていますよ。例えるなら、大きな木というのも元々は小さな種ですよね。その種の役割が私の父だとすれば、大きく成長した木を見てその種がどれだけ貢献しているのかが見えてくるはずです。そんな発想を映画にそのまま当てはめていただけたら良いと思います。



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──映画でも主に2世代のバーフバリが活躍を見せていますが、親子そろって雪崩や洪水をかわし切る場面が面白かったです。ほかにも「親子の共通点」を思わせるところがあれば教えてください。

監督:実は敢えて「親子だ」と示す要素は排除しているんです。もちろん親子であれば似てくる部分というのはあるのですが、それはやはり一緒に居るからこそ似てくる部分もあるのではないでしょうか。アマレンドラとシヴドゥ親子の特徴的な点というのは、“一緒に過ごしていない”“境遇が違う”というということ。アマレンドラは、シヴァガミという非常に教養力の高い母親の手によって育てられました。そして彼も母と同じように、非常に思慮深くいろいろなことに熟慮してから行動に起こすタイプに育ったわけです。一方シヴドゥは村の中で村人たちと一緒に育ったところがあり、性格としては思いついたらすぐに行動に移るなどあまり深く後先考えないで動くタイプ。その差を明らかな形として描いているので、逆に言えば2人の大きな違いということになります。

ただ、シヴドゥがどのようにバーフバリになっていくかというのはカッタッパが後半で言うことに反映されていると思います。それは“無駄に動いて無駄に死ぬな。父親のように考えろ”というメッセージであり、つまり「考えて行動しろ」ということ。単に何もやらずにしているだけでは“ただのバカ”になってしまうので、「父親であるバーフバリのように考えなさい」と諭し、そしてシヴドゥも段々と進化していくわけです。



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──日本では悪役であるバラーラデーヴァにも歓声が贈られていました。本来なら憎まれるはずの彼までファンに愛された理由について、監督のお考えを教えてください。

監督:たとえ悪役であっても、「強いキャラクター性や一貫性を持っているかどうか」ということだと思いますね。そういった個性を持っていれば、たとえコメディであろうとどういう設定であろうと、それらが機能すれば多くの観客の共感を集められるのではないかと私は思います。いま頭の中をよぎったのですが、私が非常に大きな影響を受けている『マハーバーラタ』の中にドゥルヨーダナという悪役が登場ます。ドゥルヨーダナはいろいろな苦労の末に悪役となってしまったことがしっかり描かれているので、実は彼は天国に行ったあとにヒーローとして崇められているんです。それに近いのではないかな、と感じました。

──『バーフバリ 伝説誕生』で、女戦士アヴァンティカがシヴドゥの手によって美しく変身していく姿が印象的でした。あのシーンにはどういった思いが込められているのでしょうか?

監督:目を留めていただいたアヴァンティカのシーンは、非常に示唆的な、いろいろな要素が隠されている場面になっています。彼女は「愛されたい」「美しくなりたい」という気持ちは持っているのですが、ゲリラのような種族として活動している中で「女王を救う」という非常に大きな目的を持っています。女王を救うためにすべてを犠牲にして、まずは自分たちの目的を達成することに行動の意味を置いているわけです。アヴァンティカたちはマスクをつけていますが、マスクの下にそういった自分の内なるすべての希望や欲望といったものを隠しているんですね。

そこでシヴドゥが何をしたかと言えば、アヴァンティカの内なる欲望を目覚めさせたのです。ローブの帯をグルグルと解くシーンがありましたよね? あの場面には「身を固めているその鎧を剥がして自分を表現しなさい」「マスクを取って自分を表現して良いんだよ」という意味が込められていて、彼女は抵抗するもののシヴドゥによってその内なるものに気づかされます。そうして2人は結ばれますが、アヴァンティカがシヴドゥを眠らせて任務に戻っていくという一連の流れまで含めて、彼女の人物性・キャラクターを現しているわけです。



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──デーヴァセーナについて教えてください。普通ならヒロインとして描けそうなキャラクターを、敢えて“自ら戦う女性”として描かれていましたね。

監督:デーヴァセーナは肉体的・身体的・メンタルのすべてが非常に強い女性でしたよね。けれど彼女の身体的な強さというのは、私に言わせれば単なる飾りというか、それが本当に彼女の内面を強くしているわけではありません。

デーヴァセーナの特徴的な強さというのは、バーフバリが彼女を捕虜としてマヒシュマティに連れて帰らなければならなくなったときに表れています。いくら愛している人、愛し合っている人であっても、──日本語字幕では少しニュアンスが違うかもしれませんが、「あなたのためなら死ぬことも厭わないけれど、あなたのために生きるということは私はしない」というセリフがあります。これは非常に個人主義的な主張であり、やはりデーヴァセーナの強さというのはそういった内面から来ていることが分かります。だからこそヒーローであるバーフバリがこのセリフを聞いて、彼女にひれ伏すわけです。彼女のヒロイズムやその強さというのは、デーヴァセーナという人間としての強さであり、それが彼女の大きな魅力でもありますね。



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──「王の凱旋」は、森の中の戦いなどカッタッパとアマレンドラの掛け合いが大好きです。声を出して笑った場面もあって、2人のロードムービーを観たいと思えるほどでした。

監督:カッタッパとアマレンドラのロードムービーですか? それは使えるアイデアかもしれませんね。ご指摘ありがとうございます(笑)。

──ありがとうございます(笑)。けれど、それくらいカッタッパとアマレンドラはベストパートナーだったからこそ、なぜカッタッパはアマレンドラを殺したのかどうしても疑問でした。

監督:そうですね。カッタッパはシヴァガミからアマレンドラ殺害の命令を下されて、「私にはできない。私を殺してください」と懇願しますよね? しかしそうするとシヴァガミが「では私が殺すかお前が殺すかのどちらかだ」と返答します。そんな選択を迫られてしまい、カッタッパはもちろんアマレンドラを殺したくはないけれど、母親に殺されるよりも自分に殺される方がアマレンドラにとって多少は気持ちの葛藤と言うか、彼に対する救いになるのではないかと考えたのです。ですから実際に、カッタッパはシヴァガミから暗殺命令を受けたことをアマレンドラに対して隠し続けますよね。それがカッタッパの答えなのではないでしょうか。

──最後に、「伝説誕生」も「王の凱旋」も戦闘シーンに限らず1カット1カットが本当に絵画のように美しかったです。そういった、監督のアイデアやビジョンの源はどこにあるのでしょうか。

監督:私はビジュアル的なものを上手く具現化するのが実は得意ではないんですよ(笑)。ですが私には素晴らしいチームがいます。まず長年一緒に働いている撮影監督が私のイメージを具現化してくれるだけでなく、ビジュアルに関して言えば本国の中で本当に優秀なコンセプトアーティストを何人か起用して私の思っていることを絵にしてもらうわけですね。そういった過程を経て作品が生まれているので、もし映画について素晴らしいと思っていただけたのならそれは私のチームが素晴らしいということなのだと思います。

──本日はお忙しい中、ありがとうございました!

インタビューこぼれ話



キャラクターをじっくり掘り下げていくように言葉を選びながら、こちらの質問に丁寧に答えてくださったラージャマウリ監督。実はインタビューの前に、“バーフバリブーム”が起きているのは東京だけではないということを伝えようと、ツイッターのハッシュタグを使って大阪などほかのイベント上映のようすも監督に見ていただきました。監督はタイムラインをさっと流し見するのではなく、ツイートに添付された画像を1枚1枚拡大しながら「素晴らしいですね!」と笑顔。各キャラクターのコスプレやサリーといった衣装に見入ったり、床が見えなくなるほど敷き詰められた紙吹雪も毎回毎回ファンが準備しているものと知って驚きを隠せない様子でした。




監督はファンによるお手製グッズにも注目。中でも「伝説誕生」の冒頭でシヴドゥの力の証明ともなった石碑「リンガ」のレプリカをツイートの中に見つけて「これは凄いですね」と驚いていた監督は、インタビューの前にリンガが持つ意味について話をしてくれました。




「以前はいわゆる“偶像崇拝”というものがなかったので、神教と近いのですがインドでは自然を崇拝していました。今ではシヴァといった神様もいますが、かつて古代ではこの“リンガ”のように、そういった人の形をしていない神を祀るスタイルだったのです。今でも至るところにありますよ」

イベント上映の様子を見つめる監督の嬉しそうな表情からも、口をついて出る数々の喜びの声が社交辞令でないということがはっきりと伝わってきました。また、インタビュー開始時間になっても「もっと見てみたいですね」と希望されただけでなく、インタビュー終了後に改めて話題になった結果「#バーフバリ絶叫」のタグを監督のスマートフォンにコピペしていつでも見られるようにするとのことに。これまでの参加イベントやこれからのイベント上映について、タグを利用すれば監督の目に留まりやすくなるかも?

まとめ





いよいよ「完全版」の公開が6月1日(金)に迫り、改めてバーフバリ旋風が日本中に巻き起こるのは確実と言ってしまって過言ではないでしょう。過去には『ムトゥ 踊るマハラジャ』や『きっと、うまくいく』といったインドらしい大作や娯楽作品が話題になってきましたが、バーフバリシリーズも間違いなくその系譜に新たに名前を刻み込みました。壮大にして勇壮、豪華にして絢爛な歴史絵巻を、再び全身全霊で受け止めるチャンス到来。果たしてどこまでこの熱狂ぶりが加速することになるのか、ぜひともその勢いの一部となって“バーフバリブーム”を体感してほしい!

(文:葦見川和哉)

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