『きらきら眼鏡』千葉の単館上映から全国拡大公開へ! 観客がハマるその魅力とは?
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
市民参加型映画として千葉県船橋市の協力を得て製作され、船橋在住の人気作家・森沢明夫の同名小説を映画化した『きらきら眼鏡』。船橋市の映画館での先行上映後、9月15日からの都内での公開を経て現在全国拡大ロードショー中の本作を、今回は連休最終の月曜日に、新宿の上映館で鑑賞してきた。
実際ネットでの評価も非常に高く、10月に入っても着々と全国へ公開規模を広げつつある本作。果たしてその内容は評判通りのものだったのか?
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
ストーリー
「時間って命と同じだから、もたもたしてたら時間切れになっちゃうよ」。
恋人の死を乗り越えられずにいた明海(金井浩人)は、一冊の古本がきっかけで出会ったあかね(池脇千鶴)から、そう教えられる。いつも前向きで笑顔のあかねは、見たものぜんぶを輝かせる“きらきら眼鏡”をかけているという。だが、彼女もまた余命宣告された恋人の裕二(安藤政信)と向き合うつらい現実を抱えていた。過去から立ち直れず、もがきながら生きてきた明海にとって、毎日を輝かせようとするあかねに、次第に惹かれていく――。(公式サイトより)
予告編
様々な人々との出逢いが、主人公の止まった時間を動かしていく!
過去の悲しい出来事を忘れられないまま、自分の周囲から目を逸らすかの様に読書に没頭する主人公の明海。
過去に事故で恋人を亡くした明海の時間は、事件当日に彼女から送られて返信出来なかったラインの画面と同様、その時の状態で止まったままになっている。そんな中、いつも行く古本屋のワゴンコーナーで見かけた一冊の本。その本にしおり代わりに挟まっていた一枚の名刺がきっかけで、主人公・明海の人生は再び明るさを取り戻していく。
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
本の持ち主だったあかねの名刺がきっかけで始まった、様々な人々とのふれあいを通して、ついに彼が自分の言葉で人生の真理を得るまでの物語は、確かに我々観客の琴線に触れるものとなっていた。
本に書かれた他人の言葉に救いを見出すのではなく、自身の体験を元に苦しみながら辿り着いた明海の答えが、今度はあかねの救いにもなるという展開は、人は新たな出逢いによってこそ成長するという本作のテーマを見事に伝えてくれるもの!
果たして明海の出した結論とは何だったのか? この結論部分を観るだけでも劇場に駆けつける価値は十分にあるので、全力でオススメします!
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
印象的なタイトルに込められた想いとは?
悲しい過去を忘れるための方法を求めて苦しんでいた明海と、これからやって来る悲しみと喪失に対しての対処方法を探していた、あかね。本作で運命的な出逢いを果たすのは、ある本の中の共通の言葉で繋がった二人の男女だ。
常に笑顔で人生に対して前向きな姿勢で生きているあかねの姿が、次第に明海の人生にも影響を及ぼしていく様子が描かれる本作。彼女が明海に伝えたその生き方の秘訣とは、周りのもの全てが輝いて見える“きらきら眼鏡”を心にかけることで、人生のネガティブな部分を明るく楽しく変えるというものだった。
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
実は、これと真逆の秘訣として登場するのが、明海の勤務する駅の女性駅員が口にする、「心にシャッターを下ろすことに慣れた」という言葉だ。電車の運休で駅の改札に押し寄せる乗客たちに、延々その状況を説明する中で彼女の口から出たこの言葉もまた、今の状況が自分とは一切関係ない、そう思って遮断することで自分の心をネガティブな感情から守る、一種の自己防衛本能と言える。
一見、正反対に思えるこの二つの考え。だが、自身の精神状態を守るという点では全く同じであり、実は、あかねの“きらきら眼鏡”も、心にこの眼鏡をかけなければ心が折れてしまいそうな程、現在の状況が厳しいものだということが、次第に観客にも分かってくる。
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
これに対して明海が出した答えは、“きらきら眼鏡”や“シャッター”の様に、心にフィルターをかけて無理にポジティブを装ったり、逆に心や感情を遮断して現実から目を反らすことではなく、むしろ自然で無理のない生き方が大事だと、我々に教えてくれるはずだ。
加えて、本作が本格的な映画出演となる、明海役の金井浩人が見せる自然な演技の素晴らしさも、本作がこれほど高い評価を得て公開規模を拡大していることの要因と言えるだろう。
安定した名演を見せてくれる池脇千鶴や安藤政信に、一歩も引けを取らないその存在感と演技力は、必見です!
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
最後に
船橋市の単館先行上映から始まったこの『きらきら眼鏡』が、その高い評価と観客満足度によって着実に上映館数を伸ばしながら、次第に全国へその公開規模を拡大しているという事実。
これには規模や話題性はかなり違うが、近年の成功例として必ず引き合いに出される『カメラを止めるな!』の大成功を、連想せずにはいられなかった。実際、今回の鑑賞は都内での公開開始から3週間が経過した昼12時の回だったのだが、100人程度の小さいスクリーンでの上映とはいえ、場内がほぼ満席の盛況ぶりだったのには正直驚かされた。
©森沢明夫/双葉社 ©2018「きらきら眼鏡」製作委員会
いや、映画を観た今では、その人気も当然! と思えるのだが、年間これだけ多くの本数が公開される中から良い映画・面白い映画に敏感に反応する観客層に、本作の内容の良さがちゃんと伝わっているという事実。時代は変わっても、やはり昔ながらの“観客による口コミ”ほど確実で強力な映画宣伝は無いと、今回の鑑賞で改めて教えられたと言っておこう。
鑑賞後、きっと目の前を明るく変えてくれる本作。是非一度劇場でご鑑賞頂ければと思う。
(文:滝口アキラ)
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