感動作『パッドマン』、『バーフバリ』に続くインド映画新たな傑作が登場!




実に5億人に及ぶインド人女性の健康と幸せのため、不屈の根性で社会のタブーに挑戦し続けた一人の男がいた!

インド初の国産生理用ナプキン製造を実現させた男の人生を描く映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が12月7日から全国公開された。日本でも女性を中心に公開前から話題を呼んでいる作品なのだが、国を問わず非常にデリケートな問題を扱った作品だけに、ともすれば興味本位で扱われたり、劇場に足を運ぶのが恥ずかしいと思われかねない本作。果たしてその内容とは、一体どんなものだったのか?

ストーリー


インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリー(ソーナム・カプール)との出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。

予告編

この誠実過ぎる主人公を、誰もが好きにならずにいられない!


実は映画を観る前は、主人公が住む村の中だけで物語が展開し、妻の理解と協力を得た彼が最終的に村の人々を巻き込んで、意識改革とビジネスの成功を実現させる! そんな内容だと考えていた本作。

だが後述する通り本作は、一人の男の行動がやがて世界規模の活動に広がるまでの、苦悩と闘いを描く作品となっていた。

この部分の盛り上がりは是非本編を観て頂きたいのだが、全編歌ありダンスあり涙ありの大エンタメ作品でありながら、同時に実話ベースの人間ドラマとしても非常に深い余韻を残す作品となっているのは、さすがインド映画ならでは!




ただ、冒頭でも触れた通り、本作で描かれる内容は非常にデリケートな部分を含んでいるため、主役を演じる俳優の起用を一歩間違えると、観客が気恥ずかしさを感じたり拒否反応を起こす危険性があるのも事実。

その点、本作の主人公ラクシュミ役のアクシャイ・クマールは、家族や奥さんへの深い愛情に加えて、子供のような純真さと底抜けの善良さを持った主人公を、実に見事に演じてくれているのだ。

彼の誠実な人柄が引き寄せる、数々の偶然の出会い。その積み重ねが最終的に世界規模の活動へと広がっていく展開は、正に人間関係が希薄な現代だからこそ、是非観て頂きたいもの!

特に、ラクシュミの国連でのスピーチは、全ての観客の涙と感動を呼ぶ名シーンとなっているので、その素晴らしさは是非劇場で!

理想の実現には、自分が輝ける場所を探すことが大切!


愛する妻が健康で幸福に暮らせるアイディアを実現しようと、孤軍奮闘する主人公ラクシュミ。

だが、本作では彼の成功や栄光といった陽の当たる部分だけではなく、周囲に全く理解されない環境の中では、いかに革新的で人々の利益になる発想でも、迫害・抹殺されてしまうという残酷な現実も同時に描かれているのだ。




元々上映時間が長いインド映画だけに、本作でもラクシュミが村から旅立つところで“休憩”の表示が出るが、そこからの後半は舞台を都会に移して、ついに彼が成功への階段を登って行く様子が描かれることになる。

どんなに優れた考えや高潔な行いも、それが周囲に理解され世に知られなければ、全くの無駄になってしまうという事実と、普段の生活環境が実は成功の妨げになっているかも知れないことが描かれる、この後半部分。

特に、村には無かったインターネットからの情報や、進歩的な考えを持つ人々との出会いが、次第に彼に自信を与えて成功へと導いていく展開は、正に感動の一言!

それだけに、時には思い切って環境を変えてみることが、自分の夢を実現させる上でいかに大切か? その点を改めて考えさせられた気がしたと言っておこう。

当時のインドの社会状況や物価の違いに驚いた!


本作の舞台となっているのは、決して遠い昔では無い2001年のインドの社会。

当時、輸入品のナプキンの価格が55ルピーだったのに対し、ラクシュミが作った国産ナプキンが一つ2ルピーという、インドの物価事情以上に驚かされたのが、工房の共同経営者という地位に就き結婚もしているラクシュミが、ナプキン代金の55ルピーを払えず、友人に借りなければ買えないという描写だった。

確かに当時のインドの貨幣価値で換算すると、55ルピーは日本円で1100円程度になり、これは二人でドリンク付きの軽食が食べられる額なのだそうだ。

こうした物価的背景や国内の経済状況もあって、当時わずか12%しか無かったインドでの生理用ナプキン使用率。

この点を踏まえて映画を観れば、ガヤトリの「そんな物を買ったら牛乳が買えない」というセリフや、せっかく買ってきてくれたナプキンなのに高価な品物だから使おうとしないという描写も、更によく理解出来るはずだ。

最後に


ポスターやチラシからは、どこかほのぼのとした物語を予想しがちな本作。確かに主人公の誠実なキャラクターもあって、全編笑いと感動にあふれた内容なのは間違いない。しかし本作は同時に、インドにおける女性の地位向上と自立を描いた社会派の作品でもあるのだ。

例えば、困難に直面する度に主人公が助けられるのも、ミュージシャンや医学生など欧米式の教育を受けた進歩的な考えを持つ女性たちであり、そこにはインドの女性たちが男性優位の社会で長年抑圧されてきた事実が隠されている。

女性にとって非常にデリケートな問題であり、異性には決して知られたくない“女性の聖域”に対して、何とか力になろうとする主人公の好意と努力が空回りしてしまうのも、実はインド社会の根強い偏見や宗教上の理由が大きく関係しているからに他ならない。

実際映画の中にも、初潮を迎えた女の子が近所の女性たちから祝福されるという描写があるが、一旦社会に出るとそのために忌み嫌われて家の外で生活させられるという、女性にとって理不尽な現実も同時に描かれているのだ。




村の一般的な男たちの様に、女性を低い身分の存在として扱わなかった、ラクシュミ。

彼の行動が決して私利私欲のためではなく、あくまでも最愛の妻の健康と幸せを願っての行動であることは、映画冒頭でラクシュミが妻の負担を軽くするために制作する、様々な発明品が証明している。

それだけに、散々彼を迫害しておきながら、急に手の平を返した様に英雄扱いする村の人々の態度や、映画中盤からのガヤトリの冷たい態度を見て、ラクシュミの幸せと将来のためには、このまま都会にいた方が良いのでは? そんな気持ちを抱いた方も多かったのではないだろうか。

ただ、別居中もガヤトリが夫婦の証であるネックレスをちゃんと身につけているなど、きっとインドの習慣や国民性に照らして考えれば、これも充分に納得出来る展開なのだろう。

こうして、一人の女性の幸せを願うラクシュミの行動が、ついにはインド中の女性の社会的地位の向上と経済的自立に繋がるという、実話ならではの奇跡が描かれる本作こそ、実は全ての男性に観て頂きたい作品だと言える。

何故なら、妻に対する深い愛情のためにインド社会の伝統や偏見に挑戦した主人公が、とことんまで逆境に追い込まれてそこから大逆転する本作は、正にインド版「池井戸潤ドラマ」と呼べる内容だからだ。

男性が鑑賞した場合、きっと女性に対する考えや接し方が変わることは確実な本作。クリスマスのイベント前の必修映画として、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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