俳優・映画人コラム
生ける伝説クリント・イーストウッド、私的オススメ5選!
生ける伝説クリント・イーストウッド、私的オススメ5選!
クエンティン・タランティーノも人生ベストにあげるマカロニウエスタンの決定版的大傑作『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』。
世界的にカルト的人気を誇る本作のクライマックスの舞台となるロケ地、南北戦争の戦没者を埋葬する墓地としてスペインの渓谷に作られたセットのサッドヒル墓地は当時のフランコ政権下のスペイン軍兵士が1000人も動員されて作られたものでした。
監督セルジオ・レオーネのこだわりが詰まったセットでしたが、撮影が終わってしまえば用済みのその場所は50年にわたって荒れ放題で放置されていたのです。
しかし、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』が好きすぎる研究者や、ファンの人々が制作50周年に向けてサッドヒル墓地を掘り返して、映画撮影当時の姿に戻していくプロジェクトを始めました。
その活動を追ったドキュメンタリーが現在公開中のドキュメンタリー映画『サッドヒルを掘り返せ』です。
(C)Zapruder Pictures 2017
サッドヒル墓地の復旧と交互して『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』の関係者である映画音楽家エンニオ・モリコーネ、編集者のセルジオ・サルバーティや、同作が好きすぎる映画監督ジョー・ダンテや大人気バンド・メタリカのボーカルジェームス・ヘッドフィールドなどバラエティ豊かな面々がこの映画の魅力や裏話を喜々として語るさまも見所です。
実は本作が劇場でかかっているのは日本とイタリアだけ。ほかの国は配信でしか見れません。
かつてマカロニウエスタンというジャンルは日本で大ヒットをし、今まで長く愛されてきました。
日本でしかソフト化されていないマカロニウエスタンも多々あり、タランティーノは『イングロリアス・バスターズ』のプロモーションで来日している際に日本で大量のマカロニウエスタンのDVDを買い込んで後に『ジャンゴ 繋がれざる者』を撮ったと言われています。
そんなマカロニ愛が強い日本だからこそ劇場で見られるチャンスを得たのかもしれません。おまけに公開日は3月9日で、『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』の主演俳優クリント・イーストウッドの10年ぶりの監督・主演作『運び屋』の公開日と一日違いというこれ以上ないベストタイミング。
『サッド・ヒルを掘り返せ!』のなかでも『続・夕陽のガンマン 地獄の決斗』の映像が使われ30代半ばのイーストウッドのかっこよすぎる姿を拝むことができます。
88歳でスクリーンに復帰した『運び屋』のイーストウッドの枯れた魅力と見比べてみても面白いのではないでしょうか。
クリント・イーストウッドはそれまで『ローハイド』などTVシリーズで知られる俳優でしたが、セルジオ・レオーネ監督に『荒野の用心棒』で見出されてから、マカロニウエスタンのスターとなりました。そして71年に『恐怖のメロディ』で監督デビューして以来、スター俳優兼監督として40年以上に渡り映画界を牽引。
そんな生ける伝説イーストウッドのおすすめ出演作OR監督作5本を紹介します。
続・夕陽のガンマン 地獄の決斗
『サッドヒルを掘り返せ』でも熱狂的支持を受けているのがわかる本作。
ハリウッドの西部劇とは違う、悪い奴らしか出てこないお宝争奪戦です。
正義対悪みたいな単純な話ではない上にコメディタッチな作品。耳について離れない奇妙なテーマ曲が本作のテイストを象徴しています。
しかし、物語の背景で起きている南北戦争を馬鹿馬鹿しく虚しく描いている反戦映画でもあり、一筋縄ではいかない一本。
イーストウッドは『The Good and The Bad and The Ugly 』という原題の通り、“The Good”にあたるガンマンを演じているのですが、本編を見れば全然“Good”ではないのはすぐわかります。
ダーティハリー
未だにイーストウッドといえばこの作品!という方も多いのではないでしょうか
犯人に容赦がないことで有名なサンフランシスコ市警の刑事“ダーティハリー”ことハリー・キャラハンを演じるイーストウッド。連続狙撃事件を起こした凶悪犯スコルピオとハリーの攻防戦を描きます。
サングラスにグレーのスーツ、普通だったら警官が持っているわけがない狩猟用の大型拳銃44マグナムをぶっ放す型破りなハリーのカッコよさに世界中の人が憧れ真似しました。
しかし、作品自体はポップなものではなく、かなり硬派。セリフや音楽も少なく、テーマも「司法で裁けない悪党にどう対処するか」という重いもの。
ラストの後味も決して良くはありませんが、それでもハリーは先ほどの問題提起に一つの答えを出します。
映画は大ヒットし続編が4本も作られました。
父親たちの星条旗
いきなり時代が飛んでしまいますが、日本でヒットしたイーストウッド監督作といえば『硫黄島』二部作ですよね。
太平洋戦争での硫黄島を巡る戦いを日米両方の視点から描くという画期的な企画でしたが、日本視点の『硫黄島からの手紙』は国内で51億円の興収という大ヒットをあげたのに対し、アメリカ視点のこの『父親たちの星条旗』は17億円止まり。
つまり単純計算でいうと『硫黄島からの手紙』を見た日本人の数に対し『父親たちの星条旗』を見た日本人は3分の1程度しかいないということです。
これは非常にもったいないことです。イーストウッドが描きたかったことは、記録上勝っているアメリカ軍も奮闘しながらも負けた日本軍もどちらも戦争で深い傷を負っているという事実です。そして戦争には一方的な正義や悪なんてものはないというメッセージをぶつけてきます。
『硫黄島からの手紙』で「捕虜になってはいけない」と最後まで戦い無残に死んでいく日本兵たち。日本人からしてみればかなり辛い映画です。
しかし『父親たちの星条旗』を見れば日本兵を殺していた米兵たちも個人個人は国家に利用された使い捨ての駒に過ぎなかったことがわかります。
主人公は硫黄島の摺鉢山に星条旗を立てている有名な写真に写った英雄たち。しかし彼らは帰国してから国威高揚に利用され人生が狂っていきます。
イーストウッドらしい淡々としたタッチで戦争の恐ろしさをむき出しに伝えてくる傑作です。
もう13年前の映画ということにびっくりですが、今見ても全く色褪せません。
アメリカン・スナイパー
イーストウッドによる反戦映画の極致ともいえる作品。イラク戦争で米軍史上最多の161人を射殺した実在のスナイパー、クリス・カイルの生涯を描いた映画です。
このキャラクターは今まで映画で数々の人間を撃ち殺してきたイーストウッド自身の投影でもあります。
今まで悪党を殺すイーストウッドを見て喜んでいた観客に対し「人を殺すという行為が本当はどんなものか教えてやる」と突きつけてくるような映画です。
公開直後は「一兵士を英雄視する戦争賛美の映画だ」と批判されていましたが、本編を見れば普通の男が人を殺すたびに人格が壊れていき苦しんでいくさまが描かれ、ラストには虚しさが残る王道の反戦映画だと分かります。
運び屋
©2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
3月8日より公開中。
『グラントリノ』以来10年ぶりに監督&主演を務めた最新作。
イーストウッドは映画の中で硬派にたくさん人を殺してきたというイメージを作ると同時に、私生活では2回の結婚に対し、腹違いの子供を7人作るという奔放すぎる性生活を送ってきました。俳優、映画監督、政治家として活躍した華々しい経歴と裏腹に家庭人としてはかなりマズい生活をしていたようです。
そして彼は88歳にしてスクリーンに復帰。
2011年に90歳の麻薬の運び屋が逮捕された事件を基に、今まで仕事ばかり家族を蔑ろにしてきた老人がその埋め合わせをするために危険な運び屋の仕事を始めるというかなり自分自身に寄せた話を作りました。
今作のイーストウッドは今まで暴力で対抗してきたマフィアなどの相手を老獪な話術や知恵で煙に巻くキャラクター。またユーモアの精神もあり、コールガールを2人呼んで楽しむなど精力も旺盛なおじいちゃんでもあり88歳にして新境地を切り開いています。
家族を蔑ろにしてきた自分の人生への批判精神と、若い世代に向けたメッセージをぶつけてくる傑作です。
これ以外にも『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』『チェンジリング』『グラン・トリノ』などイーストウッドの傑作を挙げればばきりがありません。
齢を増すごとに作品に円熟味出ると同時に、『15時17分、パリ行き』では本人たちに実際の事件を演じさせるなど実験精神も旺盛なイーストウッド。これからも傑作を作り出してくれることを期待します。
(文:シライシ)
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