『シャザム!』がDC映画の希望となった「5つ」の理由!ビリーの服装とトラに隠された秘密とは?



©2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.



DCコミックスが新たに送り出した、期待のニューヒーロー映画『シャザム!』が、ついに4月19日から全国公開された。

実は今回の実写映画化よりも以前、1941年には早くも白黒の連続活劇映画『キャプテン・マーベルの冒険』が製作され、1970年代には土曜日朝の子供向け番組内で実写ドラマが放送されるなど、既に様々な形で映像化されていた、この『シャザム!』。

あの福田雄一監督が日本語吹替版の演出と監修を担当したことでも話題の本作だけに、ポスターや予告編の印象からもコメディ映画のイメージを強く受けるのだが、果たしてその出来と内容はどんなものだったのか?



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ストーリー


身寄りの無い思春期ど真ん中の子供、ビリー。ある日突然、彼は魔術師からスーパーパワーをゲット!
「シャザム!」それは、最強でサイコーな魔法の言葉。これを唱えれば、筋肉ムッキムキ、稲妻バッッキバキのスーパーヒーローに変身できるのだ。
ヒーローオタクのフレディといっしょに、悪ノリ全開!
そんなスーパーパワー絶賛ムダづかい中のビリーの前に、科学者Dr.シヴァナが現れる。
手に入れたスーパーパワーのために、フレディがさらわれてしまう…。
ビリーはついにヒーローとして目覚める――。


予告編


理由1:実は彼こそが、元祖“キャプテン・マーベル”だった!



現在ではコミックスのタイトルとヒーローの名前が「シャザム!」に統一されているが、先日公開されたマーベル映画『キャプテン・マーベル』よりも遥かに昔、1940年にフォーセット・コミックスから創刊された、この「シャザム!」の主人公こそ、実はオリジナルのキャプテン・マーベルだった、と言ったら驚かれるだろうか?

そもそも、今回の映画や原作コミックスのタイトルになっている"SHAZAM!"とは、主人公のビリー少年がキャプテン・マーベルに変身する際の魔法の言葉であり、同時に神のパワーを主人公に与えた老魔術師の名前でもあるのだ。



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1940年の創刊当時、既にあのスーパーマンを凌ぐ人気を誇っていた、オリジナルのキャプテン・マーベルだが、残念ながら主人公の能力があまりにスーパーマンに似ていたため、何とDCコミックス側から著作権侵害で訴えられてしまうことに!

それが影響してか、その後の売り上げは低迷。フォーセット・コミックスから出ていた原作コミックスは、遂に1953年に廃刊となってしまった。

その後、版元のフォーセット・コミックスと「スーパーマン」誌を発行していたDCコミックスが、1972年にライセンス契約を結んだため、翌年の1973年、改めてキャプテン・マーベルを主人公としたコミックスが創刊されることになった。

ところが既にその頃には、マーベル・コミックスが"マーベル"の名称を商標登録し、既に独自の「キャプテン・マーベル」のコミックスを出版していたため、キャプテン・マーベルの名称が使えなかった。

そこで苦肉の策として、コミックスのタイトルを「シャザム!」に変更したというわけだ(但し、この時はまだヒーローの名前は"キャプテン・マーベル"のままだった。「NEW52」以降は、ヒーロー名も"シャザム"に統一されることになる)。





この様に1940年の誕生以来、スーパーマンに匹敵する長い歴史と、権利を巡る複雑な経緯を持つ「シャザム!」の原作コミックスだが、今回の映画版では、2012年の「NEW52」以降の新たな原作コミックスでの設定が基になっている。

日本でも出版されているこの翻訳版を読むと、基本的な部分でかなり原作コミックスに忠実に映画化されていることが分かるのだが、今回は同時に原作コミックスからの大きな改変が行われており、実はその部分こそが逆に映画版のクオリティを高める要因となっているのだ。

今回原作コミックス以上に、明るい子供も楽しめるキャラクターとして映画化された「シャザム!」だが、これは今までDCコミックスが持っていた"暗く重い内容"のイメージを覆し、これから先の展開への期待とシリーズ成功への希望を与えてくれるものとなっている。

では次に、本作を成功に導いた主な理由を挙げていくことにしよう。

理由2:原作コミックスからの変更点が素晴らし過ぎる!



前述した通り、基本的な点でかなり原作コミックスに忠実な本作だが、同時に今回は大きな変更も施されている。

今回の具体的な改変点は、まずメインの悪役キャラがブラック・アダムという宿敵から、Dr.シヴァナに変更されている点。これは原作通りの展開だとかなり上映時間が長くなってしまうためであり、映画では怪物の姿で登場する“7つの大罪”たちも、実は原作コミックスでは石像に封印されているのではなく、記憶を消された状態で普通の人間として暮らしている設定になっている。

更に大きな変更が加えられたのが、主人公ビリー・バットソンのキャラ設定だ。原作コミックスでは、映画版よりも遥かに大人びてひねくれたキャラクターとなっており、これを観客が共感できる様な「根は優しく、心に正義感を秘めた少年」として設定し直した点は、映画終盤の怒涛の展開を更に盛り上げる効果を上げている。



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実際、原作コミックスでは、ビリーが後継者に選ばれた理由がいまいち弱いのだが、映画版では実の母親との対面シーンを善悪の選択の試練として用意するという、正に天才的なアイディアにより、彼が本来ヒーローとして選ばれるべき存在であったと観客に納得させる展開が素晴らし過ぎる!

この他にも、ビリーが共に生活することになるグループホームの子供たちの年齢設定が、原作コミックスよりも3~4歳低く設定されていることで、まだ自身の力で自活できない子供たちの閉塞感と無力さが強調され、そのおかげで終盤に用意された"ある展開"からの解放感と多幸感が更に盛り上がる点も、実に見事なのだ。

理由3:主人公ビリー少年の服装に隠された切ない想いとは?



本作で主人公として登場するビリー少年は、シャザムに変身する前の普段着として、常にニットキャップとパーカー、そしてグリーンのリュックを身に着けている。

そう、実はこの彼の現在の服装こそ、母親と別れた時に着ていた服装そのままなのだ。

一瞬スルーしてしまいそうだが、実はこの部分にこそ、ビリーが母親に対して抱いている強い想いと、過去に縛られて新しい家族関係に踏み出せない現状が描かれている。

例えば、グリーンのリュックが子供の頃に持っていたものであることは、リュックにマジックで書かれた「ビリー・B」の文字と、トラのプリントからもすぐ分かる。

幼い頃に母と別れたビリーにとって、母親が買ってくれて自分の名前が書かれたリュックこそ、母親と彼を繋ぐ重要なアイテムに他ならない。それだけに、ビリーが10年経っても未だに当時のリュックを大事に使っている描写は、彼がいかに母親を恋しく想っているかの証明と言えるのだ。

更に重要なアイテムとして登場するのが、遊園地で母親に貰ったコンパスだ。

ビリーと母親との別れの原因ともなった因縁のアイテムだが、同時にビリーにとっての心の支えであり、彼と母親を結びつける希望のアイテムでもある。

このコンパスの存在を通して、ビリーと母親との間に流れた歳月の違いと残酷な現実、そして新たな未来へ向かう決心をしたビリーの成長を描く、母親との再会のシーンは、この映画中屈指の"泣ける名場面"なので、是非お見逃しなく!

理由4:何故、ビリーはトラのぬいぐるみを欲しがったのか?



本作の序盤で、幼いビリーは母親に射的ゲームの景品の"トラのぬいぐるみ"が欲しいと訴えるのだが、この時ビリーが背負っているリュックにも、トラの顔のワッペンが貼られているのが分かる。

では、何故ビリーは、これほどトラにこだわるのか?

実は、今回原作となった「NEW52」のコミックスでは、孤独なビリーの心の支えとして動物園のオリの中にいるトーニーというトラが登場する。

ちなみに1940年代のコミックスに登場した際は、人の言葉を話すトラ! という設定だった、このトーニー。更に「NEW52」以前のコミックスでは、トラのぬいぐるみが魔法の力によって命を得た存在として登場するなど、原作コミックスにおいて非常に重要なキャラクターが、このトラだったのだ。

これらを踏まえて映画を観ると、何故ビリーがトラのぬいぐるみを欲しがったのか? その答えがお分かり頂けると思う。

理由5:実は親に拒絶された子供たちが、家族と居場所を得るまでの物語だった!



映画の冒頭で描かれる、今回の悪役、Dr.シヴァナの悲しい過去は、意外にも原作では一切描かれていない。

原作コミックスでは、家族のために魔法の神殿とパワーの源を探していることが説明されるのだが、それが親兄弟なのか、それとも自身の妻子のためなのかは明かされていない。それだけに、映画の冒頭に登場する衝撃的な出来事が、Dr.シヴァナを単純な悪役ではなく、より複雑な内面を持った人物として観客に印象付けることになる。

幼くして家族関係に絶望してしまったDr.シヴァナと、幼い日のアクシデントにより母親とはぐれてしまったビリー。

同じ様に幼い頃から家族関係に恵まれなかった2人だが、彼らが成長して親に対して取った行動の差こそが、ヒーローと悪役(ヴィラン)を分けたのだと観客に納得させる展開は、原作コミックスでいまいち納得できなかった、何故、ビリーが正義のヒーローとして選ばれたのか? を、見事に補ってくれるもの。



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特に映画の終盤で明らかになる、ビリーと母親との残酷な真実に対して彼が取った誠実な行動こそ、やはりビリーこそヒーローに相応しい"選ばれた存在"であったと証明するものであり、しかもそれに続いて、ビリーがシャザムに変身する瞬間を、初めてカットを割らずに一気に見せるという"鳥肌もの"の名シーンに繋がるのは、「正に映画を観る喜びとはこれ!」、そう観客に思わせるだけの魅力に満ちているのだ。

ビリーとフレディ、そしてグループホームで暮らす他の子供たちが、最後に本当の家族としての絆を得る展開は、血縁関係だけが家族や親子を繋ぐものではない、という強いメッセージに溢れているので、必見です!

最後に



スーパーマンとほぼ同等の力を持ちながらも、DCコミックスに移行された当初は他のDCヒーローたちとは別次元の物語として描かれていたため、ジャスティス・リーグにも属さず単体で活躍することが多かった、シャザム。

だが、1985年のDCコミックスの大イベント「クライシス・オン・インフィニット・アース」において、全ての世界が一つに統合されたため、他の有名ヒーローやジャスティス・リーグとの共演が実現することになったのだが、この辺りの事情や歴史を覚えておくと、きっと本作のラストがより楽しめるはずだ。

その明るいキャラクターや家族で楽しめる内容が、今後のDCコミックスの映画化作品に重要な影響を及ぼすと思われる、この『シャザム!』。もちろん原作コミックスを未読でも、大人から子供まで誰でも楽しめる作品に仕上がっているので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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