『アメリカン・アニマルズ』が絶賛される「3つ」の理由!斬新過ぎる演出は必見



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



4人の大学生による大胆な強盗計画を描いた映画『アメリカン・アニマルズ』が、いよいよ5月17日から日本でも公開された。

ラジオやテレビなどでも次々と紹介され、既に観た人からも多くの絶賛評が寄せられている本作。

嘘のような実話の映画化という点に加え、これが長編ドラマ初監督となるバート・レイトンの斬新な演出も大きな話題なのだが、果たしてその内容と出来は、どのようなものだったのか?

ストーリー


「I’m Alive!!」とジョニー・サンダーを歌いながら車で飛ばしていく青年、ウォーレン(エヴァン・ピーターズ)とスペンサー(バリー・コーガン)。廃棄された食べ物を盗むことで最小限のリスクを楽しむ、そんなどうしようもない毎日だ。
特別な人間になりたいと焦がれる二人は、大学図書館に貯蔵される貴重な本を盗み出す計画を思いつく。手に入れれば1200万ドル。仲間集めを始めた二人が目をつけたのは、FBIを目指す秀才エリック(ジャレッド・アブラハムソン)と、当時既に実業家として成功を収めていたチャズ(ブレイク・ジェナー)。彼らは互いを『レザボア・ドッグス』に習い「ミスター・ピンク」「ミスター・ブラック」などと呼び合うのだった。強盗作戦決行日、特殊メイクをして老人の姿に扮した4人は遂に図書館へと足を踏み入れる――。 そこで彼らを待ち受ける運命とは?


予告編


理由1:ウソの様な実話の映画化が凄い!



本作で描かれるのは、2004年にケンタッキー州のトランシルヴァニア大学で起きた、時価1200万ドルを超える貴重な画集の強盗事件。アメリカ犯罪史上最も大胆不敵とされるこの事件の犯人は、平凡な日常に退屈していたり現在の自分と理想の自分とのギャップに不満を抱えていた、4人の普通の大学生たちだった。

それぞれ違う動機で仲間に加わった彼らが、どうやって白昼堂々、大学の図書館から本を盗み出すのか? と聞けば、『オーシャンズ11』や『ミッション:インポッシブル』のように、不可能を可能にする綿密な計画や、それぞれの特技を生かしたチームワークを期待される方も多いのではないだろうか。

ところが計画の首謀者であるウォーレンとスペンサーの二人ときたら、廃棄された食品を盗み出すことで世の中に反抗している気分やスリルを感じている、普通の大学生の若者だったりするのだ。



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



計画を進める内に二人では無理と気付いた彼らは、FBIを目指す秀才のエリックと、体育会系のチャズを仲間に引き入れて、遂にこの大胆不敵な犯罪計画が実行に移されることになる。

当然犯罪に関しては全くの素人なだけに、ネットで完全犯罪計画について検索したり、過去の名作犯罪映画を観てお手本にするなど、観客の方が不安になる程のお手軽感覚で計画は順調に進められていくのだが、『レザボア・ドッグス』のように仲間を色の名前で呼び合う描写や、老人への変装に気合を入れ過ぎて、逆に目立ち過ぎて怪しい格好になってしまう展開には、確かに実話だけが持つ妙なリアルさを感じたのも事実。

こうして彼らなりに練り上げた計画が実行に移されるのだが、ここから展開する悪夢のような計画破綻は必見!

とにかく全ての計画が裏目に出るという、予想を覆す展開は是非映画館でご鑑賞頂きたいのだが、犯罪のプロと素人の違いは、やはり予定外のアクシデントに対して、いかに柔軟で冷静な対応が取れるかにある、そんなことを教えられた気がした。



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



逆に言えば彼らが素人だったからこそ、こうして服役後も映画に出演して過去の過ちを振り返ることが出来たとも言える。

罪を償って立派に人生をやり直している現在の彼らを見て、やはり人生は思い通りにいかないからこそ面白い、そう思わずにはいられなかった本作。

人生の選択に迷ったり仕事や学校が嫌になった時にこそ、反面教師として是非観ていただきたい作品なので、全力でオススメします!

理由2:映画と現実の垣根を越えた、斬新な構成と演出が凄い!



既に宣伝でも公表されているように、本作の魅力は何といってもその独創的な構成と演出!

単に実際の事件を忠実に再現するだけでなく、4人の犯人たちが登場して自ら当時の状況を回想・証言するという、現実と虚構の境界線が曖昧になる趣向が用意されているのだ。

実際本人たちが登場するシーンでの違和感の無さを見て、「これはひょっとしてフェイクドキュメンタリーなのか?」、そう思わずにはいられなかった本作。

幸い犯人たちの計画ミスが重なったことで早期解決を見た、この一種の"犯罪ゲーム"の顛末は、犯人たちそれぞれの証言が微妙に食い違っていることからも、既に彼らにとっては若き日の思い出として忘れ去られているようにも見える。



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



彼らが刑期を終えて社会復帰している中での映画化だけに、単なる青春時代の過ちとして美化することなく、事件の真相やその後の彼らの人生を直接本人に語らせることで、彼らを犯罪へと走らせたものが果たして何だったのか? その部分を明らかにしようとした、この『アメリカン・アニマルズ』。

果たして彼らはタイトルの通り"動物"のような存在だったのか? その真相は、是非劇場で!

理由3:盗みのターゲットがデカ過ぎる!



本作で主人公たちが盗み出すのは、その大きさが98cm×67cmと畳半畳ほどもある、野鳥画家ジョン・ジェームス・オーデュボンの画集「アメリカの鳥類」。

時価1200万ドル相当の貴重な本だけに、普段は図書館の特別室でガラスケースの中に展示されている、この巨大な画集を果たしてどう盗み出すのか?



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



何しろ二人がかりでやっと持ち上げられる巨大な本だけに、盗み出してからの余りに乱暴な運搬方法には、もはや観客も苦笑するしかない。

しかも只でさえ困難な状況の中、予期せぬアクシデントが次々と彼らに降りかかる展開には、犯罪行為と分かっていながら思わず彼らを応援したくなってしまうはず!

貴重な本に対して興味や思い入れが無い人間が、緊急時に本をどう扱うかは映画を観て頂ければ一目瞭然だが、この部分のドタバタ描写も犯人側の計画性の無さを表現していて、実に見事なのだ。

価値ある本や大金のためだけではなく、自分たちが人よりも優れている、あるいは何か特別なことが出来ると証明するために、この前代未聞の大胆な犯罪計画を実行に移した主人公たち。

理想の自分に近付くための努力が人間的成長に繋がると考えれば、彼ら4人が選択した方法とその結末は、その努力を間違った方向に向けてしまった結果に他ならない。



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



確かに自分の容姿・学力・経済状態などを他者と比べて悲観したり、理想の自分と現実の違いに愕然とすることは、彼らの年代にとって非常に重要な問題なのだが、「頭で考えた通りにことが運ぶほど、現実は甘くない」という人生の真理を改めて学ぶには、彼らが払った代償は余りに大き過ぎたと言えるだろう。

今から15年前の事件とはいえ、実はその本質は、他人よりも目立ったり注目を集めようとした結果、過激な動画投稿が犯罪にエスカレートしてしまう、現代のネット社会にも共通するものだと気付かされる本作。

4人の若者たちの失敗から得られる様々な教訓は、是非劇場でご確認頂ければと思う。

最後に



自分が他人とは違う特別な存在だと信じるあまり、それを証明するために何か大きなことをやろうとした、ウォーレンとスペンサー。

本作で描かれるのは、自身の可能性や存在価値を求めて前代未聞の犯罪計画に手を染めた、4人の普通の大学生の姿だ。

自分たちが通う大学の図書館に展示されている貴重な画集。自分が他人とは違うと世間に証明して、現在の退屈な日常を打破するために、彼らはこの画集の強盗計画を立てることになる。

こうしてネットや映画を参考に華麗な完全犯罪の実現を夢見た彼らだったが、現実はそんなに甘くはなかった。

様々な準備や図書館の下見を経て、遂に迎えた決行当日。ここから彼らに降りかかるアクシデントの連続は、是非ご自分の目でご確認頂きたいのだが、よく考えればこうした様々なアクシデントこそ、「今ならまだ引き返せる」という最後のチャンスだったのでは? 鑑賞後にそう思わずにはいられなかった。



© AI Film LLC/Channel Four Television Corporation/American Animal Pictures Limited 2018



自分が特別な存在ではない、そう気付かされた主人公たちは最終的に高い代償を払わされることになるが、本編中に登場する現在の本人たちの姿を見る限りでは、皆社会復帰してそれぞれの分野で才能を発揮していることが分かる。

実は映画を観て驚いたのが、犯人側の4人だけでなく図書館の係員だった女性も本人が登場する点だった。

事件に対する各人の証言が微妙に食い違ったり、結局最後まで真相が分からない部分があるなど、観客側が色々と想像力を働かせられる余地が残されているので、最後まで観客の興味が途切れることがない本作。

加えてバート・レイトン監督の斬新な手法により、主人公たちの人生とその結末を観客が追体験出来るようになっているのは見事!


思えば過去にもエンドロールで事件の関係者本人が登場する作品があったし、最近ではクリント・イーストウッド監督の『15時17分、パリ行き』が、プロの俳優ではなく事件の当事者を主役に迎えることで映画に独特のリアリティを与えていたのも、記憶に新しいところだ。

15時17分、パリ行き(字幕版)



事件を忠実に再現したドラマ部分と、犯人自身による証言との対比の中で、果たして彼ら4人が何を失い、最終的に何を得たのか? その重要な部分を観客に伝えようとした本作。

自分たちの人生を狂わせてしまった最大の過ちを、役者による再現だけでなく犯人たち自身に証言させるという手法は、観客の想像力を刺激する実に斬新なアプローチだと言える。

今後もこうした手法を用いた映画が登場すると思うが、まずはこの『アメリカン・アニマルズ』を観て頂いて、その素晴らしい発想に是非触れて頂ければと思う。

(文:滝口アキラ)

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