『空母いぶき』は西島秀俊の魅力と"男の世界"を堪能できる映画!
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ
現在放送中の人気ドラマ『きのう何食べた?』でも大人気の西島秀俊と、佐々木蔵之介を主演に迎え、かわぐちかいじの同名人気コミックを実写映画化した『空母いぶき』が、いよいよ5月24日から劇場公開された。
実写化にあたり原作コミックの根幹を成す部分を大幅に設定変更した点や、出演キャストの発言がメディアで大きく取り上げられるなど、公開前から色々な意味で話題を呼んだ本作だが、果たして肝心の内容と出来はどの様なものだったのか?
ストーリー
20XX年、12月23日未明。沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、島は占領された。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第5護衛隊群に出動を命じた。その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》だった。艦長は、航空自衛隊出身の秋津竜太一佐(西島秀俊)。そしてそれを補佐するのは海上自衛隊生え抜きの副長・新波歳也二佐(佐々木蔵之介)。現場海域へと向かう彼らを待ち受けていたのは、敵潜水艦からの突然のミサイル攻撃だった。さらに針路上には敵の空母艦隊までもが姿を現す。想定を越えた戦闘状態に突入していく第5護衛隊群。政府はついに「防衛出動」を発令する。迫り来る敵戦闘機に向け、ついに迎撃ミサイルは放たれた……。
予告編
原作からの改変は、果たして成功だったのか?
原作コミックでは実在の国だった敵側を、今回の映画版では「東亜連邦」という架空の国家共同体に変更したり、出演キャストのある発言が政治的に問題視されて伝えられるなど、公開前から大いにネットを騒がせた本作。
確かに扱う題材が非常にデリケートなため、ちょっとした描写やセリフの表現だけでも、意味の取り方次第で大きな問題に発展する危険性を含んでいることは間違いない。
それだけに、今回敵側を架空の国家共同体に変更した点が、原作ファンだけでなく多くの観客の拒否反応を呼んでしまったことは、製作側と観客の双方にとっても非常に残念だったと言えるだろう。
確かに終盤の展開を見れば分かる通り、敵との戦闘で極力敵側の犠牲者が出ない攻撃方法を選択する自衛隊の描写や、国家でなく個人レベルでは敵同士でも分かり合える余地があることが描かれるなど、原作通りのリアルな軍事シミュレーション的展開を期待すると、若干の違和感や物足りなさを感じるのは充分理解できる。
とは言え、日本を守り国民に一人も犠牲者を出さないために、最前線で過酷な戦闘を続ける第5護衛隊の乗組員の平和への想いや、戦力で大幅に上回る敵の攻撃にどう立ち向かうか? の戦略的な面白さには、134分の上映時間を少しも長いと感じることが無かったのも事実。
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ
ただ、"いぶき"に民間人を乗せたまま戦闘行動を続ける艦長の行動など、多少理解に苦しむ描写があるだけに、やはり映画と原作は全くの別物と思って鑑賞する方が、本作をより楽しめるのでは? そう思わずにはいられなかった。
「国民を守るために犠牲になるのは、自衛官として本望だ」と語る、西島秀俊演じる秋津一佐の自衛官としての覚悟や、敵兵士に対する態度の高潔さ、更に髙嶋政宏や山内圭哉などのハマりっぷりなど、第5護衛隊乗組員の"男の世界"が存分に堪能できる作品なので、女性の方にも全力でオススメします!
最後に
※以下は若干のネタバレを含みますので、未見の方は十分注意の上でお読みになることをオススメします。
今回の重大な改変を腰の引けた改悪と見るか、それとも実写映画化するために必要な苦渋の決断と取るかで、その評価が大きく変わってくる本作。
©かわぐちかいじ・惠谷治・小学館/『空母いぶき』フィルムパートナーズ
実際、日本と東亜連邦の戦闘激化により、より多くの犠牲者を出す最悪の事態に進むかと思われた瞬間、世界単位での抑止力、あるいは自浄作用が働くという展開や、世界中の人々の想いがネットの力で繋がって世界を正しい方向に動かす描写には、単なる軍事シミュレーションやエンタメ作品に終わらせないという、製作陣の想いを強く感じることができた。
加えて、映画のOPに映し出される通学中の子供たちの姿や、一見ストーリーとは無関係に思えた中井貴一扮するコンビニ店長のクリスマスカードのエピソードなど、子供たちに託した未来へのメッセージも実に印象的だった本作。
何故なら、この店長が子供たちに向けて心を込めて書いたメッセージが、最終的に世界規模の危機を止めるきっかけとなる展開こそ、正に現代のSNS社会を反映した見事なアイデアだったからだ。
ただ、終盤まで一切敵側の人間が登場しないので、きっと実在の国を仮想敵国に変更しただけでなく、このまま人種を特定させないままで物語を展開させるつもりなのか? そう思ってしまったのも事実。
ところが、終盤の重要なシーンで登場した敵側のパイロットと、"いぶき"艦長の秋津一佐との感動的な展開を見て、やはり特定の敵国を登場させなかった選択は、本作のメッセージを伝える上で正解だったのでは? そう思えてならなかった。
もちろん現実の戦闘や戦争が本作の様に綺麗ごとでは済まないことは、観客の誰もがよく分かっているはず。
だからこそ、せめて映画の中だけでも人間の良心や思いやりが勝利する瞬間を見たいと思うのも、我々観客の偽らざる気持ちに他ならない。
一つだけ確かなことは、ネットの評価やレビューだけで判断するのではなく、とにかくご自分の目で観て判断して頂きたいということ。
もちろん、西島秀俊ファンやアクション映画ファンにも充分楽しめる作品となっているので、是非劇場に足を運んで頂ければと思う。
(文:滝口アキラ)
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