傑作『劇場版 FFXIV 光のお父さん』に観客が感動・涙する「3つ」の理由とは?



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



大きな話題を呼んだブログの投稿からテレビドラマ化を経て、遂に劇場版として製作された『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』が、6月21日から劇場公開された。

累計アクセス数1000万アクセスを超える大人気ブログに連載された感動の実話だけに、普段ゲームに馴染みが無い自分にも非常に興味深かった本作。

果たしてその内容と出来は、どの様なものだったのか?

ストーリー


仕事一筋の父(吉田鋼太郎)が、昇進直前に突然会社を辞めた。一日中ボーっとテレビを見ている父を、母(財前直見)と妹(山本舞香)は遠巻きに眺めている。父の本音を知りたい、そんな願いに突き動かされたアキオ(坂口健太郎)は、ある計画を思いつく。子供の頃、父と一緒に遊んだ思い出のあるゲーム「ファイナルファンタジー」のオンライン版の世界に父を誘い、自分は正体を隠して共に冒険の旅に出るのだ。
アキオは顔も本名も知らないゲーム仲間たちの協力のもと、計画を進めていく。
だが、この時のアキオは思いもしなかった。父親が持つ、誰にも告げていない秘密のことを…。


予告編


理由1:映画版オリジナルの設定が素晴らしい!



好評のうちに放送を終えたテレビドラマ版全7話を経て、ファンの熱い要望に応えて製作された『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』。

今回の劇場版では、ゲーム内に登場するアバターに父親が付ける名前など、基本的にドラマ版の設定を踏襲しているが、実は細かな部分で多くの変更・アレンジが施されている。

例えば劇場版では、アキオのゲーム内での仲間の正体が明らかにされないし、父親の会社での人間関係や友人関係も描かれることは無い。そのため家庭内での父親の孤独さが実によく伝わる上に、演じる吉田鋼太郎のイメージもプラスに働いて、何故この父親が突然会社を辞めたのか? その謎に対する興味が最後まで持続することになるのだ。



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



加えて、今回ドラマ版に比べて人間関係が整理された代わりに、映画版オリジナルの登場人物として、主人公のアキオに好意を寄せる会社の同僚の里美や、アキオの妹の美樹を登場させることで女性からの視点が加わり、父と息子だけでなく家族全体のドラマとして物語に広がりを与えているのは、正に劇場版ならではの魅力と言える。

特に、お互いへの気まずさからコミュニケーションが取れないアキオと父親との伝達役として、美樹が通訳の様に行ったり来たりする様子は、この家族の仲の良さを観客に伝えてくれていて見事!

実は映画の冒頭でアキオの家のリビングが映った瞬間、「やけに空間が広いな?」と感じたのだが、観ているうちに、それは単身赴任による父親の不在感と、家族団らんの中で何かが足りない感じを観客に伝えるための演出だと分かった。

何故なら、父親が会社を辞めて家にいるようになってからは、その空間がちゃんと埋まって違和感を覚えなくなったからだ。



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



この様に細かい部分で観客に伝えようとする努力も、ネットに広がる絶賛評の理由の一つと言えるだろう。

今回ドラマ版を未見ということで、劇場での鑑賞を迷っている方も多いとは思うが、その点は全く心配しなくて大丈夫!

既にドラマ版を観た方にも、父と息子、更に家族の愛情の物語として新たな感動が味わえる作品なので、是非劇場で!

理由2:吹原幸太の脚本の凄さが存分に味わえる!



ドラマ版に続き、今回の劇場版でも脚本を担当したのは、実写ドラマ版『天才バカボン~家族の絆』や映画『日々ロック』など、これまで数多くの作品を執筆してきた、脚本家の吹原幸太。

実は、今回映画化された『光のお父さん』を観て一番に感じたのが、「これでやっと彼が脚本・演出を務める舞台の感動が、多くの人々にもスクリーンで味わってもらえる!」という想いだった。

確かに吹原幸太の脚本はこれまで数多く映像化されてきたのだが、彼の主宰する劇団"ポップンマッシュルームチキン野郎"の舞台の素晴らしさや、その感動を一度でも味わったファンにとっては、過去の映像作品に対して「吹原幸太の力は、まだこんなものじゃない!」と、かなりの物足りなさや違和感を覚えずにはいられなかったからだ。

家族=特に父親との関係性や、緻密に交差する時間軸。そして、人間ではない異質なものへの興味や、更には過去に果たせなかった想い・約束を果たしに行く! という、吹原幸太脚本による舞台劇の特徴を満載にした今回の劇場版が、過去の作品群に比べて遙かにその魅力を伝えることに成功した理由とは何か?

それはテレビドラマに続いて演出を担当し、彼の脚本の魅力を最大限に引き出した野口照夫監督の存在と、出演キャスト陣の素晴らしい演技による化学反応の勝利、としか言いようが無い。



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



コメディと思って笑いながら観ているうちに、徐々に姿を現す現実や死といったリアルな部分に意表を突かれ、最終的に涙と感動で終わるという、吹原幸太脚本・演出による舞台の内容と感動が、遂に映画館でも楽しめるようになったことは、今後の日本映画界にとっての大きな希望に他ならない。

特に「シズル感」や「官能小説!」という、絶妙にハズした言葉の繰り返しによる笑いや、ゲーム内のアバターに付ける名前のチョイスなど、彼が得意とする"言葉感覚による笑い"が見事にハマる本作こそ、正に彼にとっての代表作と言えるだろう。

ちなみに吹原幸太作品の中には、必ず"正田"という名字の人物が登場するのが定番となっており、ドラマ版にも馬場ふみか演じる"正田陽子"というキャラクターが登場しているほど。

果たして今回の劇場版では登場しているのか? これから鑑賞される方は、是非劇場で探してみては?

理由3:キャスティングの変更が大成功!



ドラマ版で見事な父親役を演じた大杉漣の惜しまれる急逝により、重要なカギとなる父親役の変更を余儀なくされた今回の劇場版。

それに伴い、その他のキャスティングも大幅に変更されたのだが、実はこの変更こそが本作成功の大きな要因と言えるのだ。

特に、本作で新たに父親役を演じた吉田鋼太郎の演技は素晴らしく、家族の生活のために一人頑張ってきた男の歴史と子供たちへの愛情、更に家族の前でその本心を表現できない不器用さと寂しさを、少ないセリフと険しい表情の中で表現する姿は、実に見事!



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



子供の頃のアキオと交わした「一緒にゲームをクリアする」という約束を果たせないまま、仕事一筋に生きてしまった父親と、その体験が元で父親と次第に疎遠になってしまい、いつしか自分も社会に出て働く年齢となったアキオ。

少年の頃の面影と純真さを持った坂口健太郎と、厳しさの中にも息子への深い愛情を匂わせる吉田鋼太郎の演技は、この二人の対比や立場の逆転による悲哀を観客に十分伝えてくれるのだが、お互いに離れて暮らす中で、いつしか過去の立場が逆転していた現実が描かれるシーンは、息子が父親の立場を理解するまでに成長した喜びと、父親の老いを同時に表現した名シーンとなっていて必見!

脚本と演出、そして出演キャスト陣の演技が見事に融合することで、ラストに向かって観客の感動と涙を誘わずにはいられない本作。全力でオススメします!



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



最後に



子供たちが時間を忘れて夢中になってしまうため、ともすれば学力低下や視力低下の原因として、マイナス面の方が注目されがちだった、ビデオゲームという存在。

だが、最近はプロゲーマーの誕生や、"eスポーツ"の大会が世界規模で開催されるなど、以前と比べてポジティブなイメージへと変化してきている。

こうした大きな変化の中、オンラインゲームが人々の生活に潤いと幸せをもたらすという、正に"光の部分"が描かれることになる本作。

確かにオンライン上の匿名でのやり取りが、次第に過激で人を傷つけるものになる可能性は否定できない。

だが本作で描かれる通り、家族や友人の幸せや親孝行のために使われるのであれば、これほど人々の生活や人間関係において役に立つ物は無い! そう観客に思わせるのも事実なのだ。

その効果は普段オンラインゲームに馴染みの無い人間や年配の方にも、「こんなに楽しそうなら、自分もやってみようかな?」と思わせるほど。

実際、今回は郊外のシネコンの最終回で鑑賞したのだが、21時からの上映にも関わらず、客席が7割以上埋まっていたのは正直意外だった。しかも親子連れや女性お一人での来場など、明らかにこの映画の評判を聞きつけた人々が、"いい映画を探して観に来ている"印象が強かった本作。



©2019「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」製作委員会 ©マイディー/スクウェア・エニックス



この映画が"親子の対話不全"という現実的で誰にも経験のある題材を描きながら、どこか現実離れしたファンタジーの様に感じられる理由は、本編中で“経済的な問題”が殆ど描かれないからだろう。

例えば、いきなり父親にPS4を買ってこられるアキオの経済的な余裕や、昇進を前に突然会社を辞めて家にいる父親に対して、家族が経済的な不安を口に出さず邪魔に扱わないなど、観客が作品世界に没入する妨げになったり、現実を思い出させる"お金"という要素が、映画の中では見事に避けられている。

だがこうした観客への配慮があるからこそ、映画後半で娘の彼氏に対して父親が経済的な部分を理由に反対するという描写が、観客の心に大きな衝撃をもたらすことになるのだ。

加えて、見事なまでに悪人が一人も出ない上に、登場人物全員が大きな問題に直面・解決する中でお互いを理解し、希望に満ちたハッピーエンドを迎える展開が観客の心をガッチリ掴んだことは、鑑賞後に寄せられた数多くの絶賛評が証明している。


オンラインゲームが持つ無限の可能性を描きながら、世代や性別を超えて誰もが共感・感動できる人間ドラマの傑作となった、この『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』。

時間と余裕がある方は、是非劇場に足を運んで頂ければと思う。

(文:滝口アキラ)

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