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【映画ライター厳選】2024年下半期注目作「10選」


2024年も早くも半年が過ぎた。上半期は『オッペンハイマー』や『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』といったアカデミー賞の話題作やSNSで熱狂的に支持される『トラペジウム』など豊作だったのではないだろうか?

さて、下半期に目を向けるとこれまた興味深い作品がたくさんあることに気付かされる。今回は2024年下半期注目「10選」を紹介していくとしよう。

1.ブルーピリオド(8月9日公開)

©山口つばさ/講談社 ©2024映画「ブルーピリオド」製作委員会

2024年はクリエイターにまつわる話が熱い。上半期にはMV制作に情熱を傾ける高校生の苦い青春を描いた『数分間のエールを』や藤本タツキの問題作をアニメ映画化した『ルックバック』が話題となった。

下半期は『ブルーピリオド』に注目である。山口つばさの同名コミックを映画化した本作は、成績優秀ながら周りの空気を読み不良ぶっている高校生の矢口八虎が美術の奥深さに触れ、日本最難関美大である東京藝術大学受験を目指す内容だ。

予告編を観ると、原作1巻におけるモラトリアムに生きる者が人生の役に立つかどうかわからないものに全力投球し足掻くヒリついた質感が120%再現されており期待が高まる。2024年はクリエイター讃歌の年といえよう。

2.エイリアン:ロムルス(9月6日公開)

(c)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

不朽の名作『エイリアン』シリーズ最新作『エイリアン:ロムルス』が9月6日より公開となる。本作は1・2作目の間の57年間にフォーカスを当てた続編となっており、『ドント・ブリーズ』シリーズのフェデ・アルバレス監督がメガホンを取っている。

『エイリアン』シリーズは、SFモンスターホラーの側面だけではなく企業対個人の問題を扱った作品でもある。

1作目では、コールドスリープから目覚めた貨物船の乗組員がボーナスや仕事に対してボヤきながらもそれぞれの責務を果たそうとする中でエイリアンと対峙する。リプリーは最善策を提示するのだが、ひたすら棄却され、その理由として企業の思惑が忍び込む。下っ端社員は企業にとって使い捨てのコマとして利用され、大きなビジネスの中に取り込まれる様が辛辣に描かれているのである。

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最新作もこの流れを継承しており、フェデ・アルバレス監督はインタビューの中で、大企業ウェイランド・ユタニをローマ帝国主義の図式に重ね合わせているという。また、リドリー・スコットが執着する神話との関連性も意識している。本作では、ロムルスがレムスを殺した兄弟愛の物語と結びつけるとのこと。

予告編を観ると、1作目を彷彿とさせる暗部を意識した宇宙船内部の造形が魅力的である。また、フェイスハガーとのバトルシーンはゲーム「エイリアン アイソレーション」に近い緊迫感と絶望感を思わせるものがある。

関連記事:<解説>映画『エイリアン』女性が主人公である「3つ」の意義

3.ぼくのお日さま(9月13日公開)

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて、日本人監督として最年少で選出された奥山大史監督『ぼくのお日さま』

田舎町を舞台に、きつ音のホッケー少年タクヤがフィギュアスケートの練習をしている少女さくらに恋をするシンプルな物語である。

本作最大の特徴は、全てのショットがポスターになりえるぐらいに洗練されている点である。恍惚とした陽光に包まれる中、タクヤがフィギュアスケートの練習に励む。柔らかい光の中で池松壮亮演じる先生と滑っていく。これがとても美しい。また、学校ひとつ取っても画の構造にこだわっており、屋上にいるタクヤを映す場面では、半円状の屋上を三角形に見立て、屋上と地上の群れを同時に魅せる演出が施されている。

(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

そして、本作が良いところは撮影テクニックに溺れていないところにある。柔らかい質感で捉えられているショットに忍ばされる翳り、これが物語の中で重要な意味を持っているのである。

前作『僕はイエス様が嫌い』から大幅にパワーアップした奥山大史監督を前に、筆者としては『ルックバック』が実写化されるとしたら、彼が起用されてほしいと思う。もし実現したのならば、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出されることだろう。

4.インサイド・ヘッド2(8月1日公開)

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ディズニー・ピクサー映画はコロナ禍で技術革新を行い、ついに興行面で報われたようだ。『インサイド・ヘッド2』はアメリカで公開されると、『アナと雪の女王』を抜いて歴代国内アニメ興行収入ランキング9位に躍り出た。

『インサイド・ヘッド2』は前作から成長したライリー・アンダーソンに新たな感情が芽生える。この感情が秀逸であり「不安」「嫉妬」「羞恥心」「倦怠感」が加わるのである。思春期において重大な感情であるとともに、『私ときどきレッサーパンダ』や『マイ・エレメント』の延長線にある繊細な感情にフォーカスを当てた作品に仕上がってそうだ。

アメリカでの評判を踏まえると、来年のアカデミー賞長編アニメ映画賞最有力候補であろう。

5.メイ・ディセンバー ゆれる真実(7月12日公開)

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『キャロル』『エデンより彼方に』のトッド・ヘインズ監督が、実際にあったスキャンダルを映画化した。

23歳年下のジョーと恋に落ちるもスキャンダルとなり、服役することとなったグレイシー。獄中で出産し、出所後に結婚。それから20年以上が経ち、このスキャンダルが映画化されることとなる。

オリヴィエ・アサイヤス『アクトレス 女たちの舞台』を彷彿とさせる話であり、当事者がどこまで自分に向き合えるのかと非当事者がどこまで当事者に迫れるかのメビウスの輪的関係性がスリリングに描かれていると思われる。

ちなみに、タイトルの「メイ・ディセンバー(May December)」とは年の差関係にある人を示している。

6.ナミビアの砂漠(9月6日公開)

©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

第77回カンヌ国際映画祭にて国際批評家連盟賞を受賞した新気鋭・山中瑶子の新作である。山中瑶子は、『あみこ』や『魚座どうし』と日本映画ファンの間で密かに話題となっていた監督であるが、ついに国際映画祭の大舞台にて羽ばたいた。

河合優実演じるモラトリアムに生きる女性の恋愛を描いた作品なのだが、予告編からは本能が溢れ出すかのような躍動感、強烈な眼差しに、喧騒とする街に飛び込むような音が好奇心を掻き立てるものがある。

関連ニュース:<主演・河合優実>『ナミビアの砂漠』本予告解禁!

7.西湖畔に生きる(9月27日公開)

©Hangzhou Enlightenment Films

昨年の東京国際映画祭で上映された『西湖畔に生きる』が映画祭とは異なる中国公開版・新字幕での公開が決まった。

本作は『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の第二部にあたる作品なのだが、前作とは全くテイストの異なる映画に仕上がっている。

世界遺産でもある西湖を舞台に、違法ビジネスにのめり込んでしまう母親を救おうとする青年を『ウルフ・オブ・ウォールストリート』さながらのテンションで描いていく。

©Hangzhou Enlightenment Films

『春江水暖〜しゅんこうすいだん』と観比べると、グー・シャオガン監督は中国の情緒ある風景の中マーティン・スコセッシ作品に近い物語を紡ぐ作家といえ、前作では人情的なようでドライな抗争に彼の面影を感じた。

今回の新字幕では父親の存在感の印象が変わるとのことなので、東京国際映画祭で観た人も要チェックである。

8.ロイヤルホテル(7月26日公開)

(C)2022 Hanna and Liv Holdings Pty. Ltd., Screen Australia, and Create NSW

『アシスタント』で話題となったキティ・グリーン監督の新作『ロイヤルホテル』。今回も女性が受けるハラスメントに鋭い眼差しを向けている。

ハンナとリブがオーストラリア旅行中にお金に困り、パブで働くことになる。店長や客から粗暴な扱いを受けるが、辛抱すればお金が入ると我慢する。しかし、客からの女性差別的な扱いはエスカレートしていく。その中で、リブは店に溶け込み、ハンナは孤立していき友情に亀裂が生じていく。

(C)2022 Hanna and Liv Holdings Pty. Ltd., Screen Australia, and Create NSW

『アシスタント』にて、映画プロデューサーという夢を人質に取られ職場の違和感にひたすら耐えていく女性の辛酸をグロテスクに捉えていた。

今回は、ハラスメントに順応してしまう者とそうでない者を対比させていくドラマとなっている。ハラスメント問題に注目が集まるようになってきた今にとって重要な作品であろう。

9.ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー(9月20日公開)

(C)2023 KGB Films JG Ltd

2011年に「俺はヒットラーが大好きだ」「お前みたいな奴は死んだほうがマシだ。親も毒ガスで殺されればいい」と酔っぱらった状態で差別的な発言をし、クリスチャン・ディオールから解雇されたジョン・ガリアーノ

その後、メゾン マルタン マルジェラの新クリエイティブ・ディレクターに就き復活を遂げた。

10年以上経った今、ジョン・ガリアーノはどのように考えているのか?『[ブラック・セプテンバー]ミュンヘン・テロ事件の真実』で第72回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したケヴィン・マクドナルド監督が迫る。

(C)2023 KGB Films JG Ltd

本作はスキャンダルを扱ったドキュメンタリーとして特殊なことをしている。最初の1時間で観客を強制的にジョン・ガリアーノの「推し」にさせていくのである。ジョン・ガリアーノがいかに素晴らしいかを華々しい過去映像を基に語っていく。そして、アベル・ガンス『ナポレオン』などの映画フッテージをスパイスとし加え、彼のことが知らない人でも魅了されていくように構成していく。



また、ファッション業界の構造的な問題も浮かび上がり、思わずジョン・ガリアーノに同情したくなる構成となっている。その上で、2011年の差別発言について迫るのだが、彼の認識と監督の認識で相違があることが暴かれていくのである。

まさしく、宇佐見りん「推し、燃ゆ」に近い心ざわめくものがそこにあり、映画を観終わった後が本編といえる作品であろう。

10.至福のレストラン/三つ星トロワグロ(8月23日公開)

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『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』『ボストン市庁舎』など長い時間かけて職業やそれを取り巻く社会に眼差しを向けてきたフレデリック・ワイズマン。今回は、ミシュラン三つ星を55年間保持し続けるフレンチレストラン「トロワグロ」の裏側に迫る。

食材を開拓し新しいメニューが創造される瞬間に始まり、厨房の様子など我々が普段知ることのできない世界を目の当たりにできるだろう。また、フレデリック・ワイズマンはビジネスに対する関心が強い監督でもあるので、三つ星レストランとしての経営戦略の話へのフォーカスにも期待が高まる。

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また、9月21日(土)からはシアター・イメージフォーラムにて特集「フレデリック・ワイズマン傑作選<変容するアメリカ>」が開催される。長編ドキュメンタリーデビュー作『チチカット・フォーリーズ』や『大学ーAt Berkeley』『インディアナ州モンロヴィア』など滅多に観ることのできない作品を鑑賞できるので注目である。

(文:CHE BUNBUN)

参考資料

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