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2019年07月05日

乃木坂46の軌跡|『いつのまにか、ここにいる』を見て思うこと

乃木坂46の軌跡|『いつのまにか、ここにいる』を見て思うこと



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会



前作『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』の続編となる乃木坂46ドキュメンタリー映画第二弾『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』が公開された。公開前から元乃木坂46の西野七瀬と白石麻衣がお互い抱き合う場面がポスタービジュアルに採用され、乃木坂ファンの間では前作を超える期待感に溢れていた。

前作で描かれたのは「一般人」からアイドルへと成長していく少女達の成長譚であった、一方本日公開された『いつのまにか、ここにいる』は国民的アイドルとして成熟しつつあるグループの一端を切り取った作品になっている。今回乃木坂46岩下力監督が成熟しきった彼女達をどうスクリーンで表現するのか楽しみに鑑賞してきた。そこには岩下力監督ならではこだわりがふんだんに詰め込まれていた。

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※一部キュレーションサイト経由での閲覧ではリンクに飛べないこともございます。
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乃木坂46はいかにしてアイドルになったか?


1:乃木坂46とは?


もはや説明不要なアイドルグループであることは十分承知しているが、本作で乃木坂46に興味を持った方や最近好きになったという方のために簡単に説明しておきたい。

乃木坂46の結成は2011年にまで遡る。当初は「AKB48の公式ライバル」という位置付けで始まり、AKB48とは趣向を変え専用の劇場を持たないことや総選挙を実施しないという「構造的な」ものからフレンチ・ポップスを基調とした音楽いわゆる内的なものまであらゆる面で差別化がはかられた。

2012年2月に1stシングル「ぐるぐるカーテン」でデビュー。


6thシングル「ガールズルール」でデビュー曲から5作目までセンターを務めてきた生駒里奈から白石麻衣へと乃木坂46初となるセンターが交代。


その後も2期生として加入したばかりの堀未央奈やデビューから選抜として名を連ね力をつけてきた西野七瀬が務めるなどセンターを固定することなくグループの新陳代謝を促しつつ確実に力をつけていった。


2017年には17thシングルの「インフルエンサー」で女性グループとしては5年ぶり(当時)となるミリオンを記録にとどまらず、第59回日本レコード大賞で大賞を受賞。


この年は乃木坂46として過渡期に位置付けられ、前年にグループの支柱で「聖母」として愛されていた深川麻衣、フロントメンバーとしてセンターを支え続けてきた橋本奈々未の卒業発表などグループの中核を担ってきたメンバーの卒業が相次いだ。

ここが正念場と言わんばかりにソロ写真集6作がオリコン年間写真集ランキングにてトップ10入りを果たすなど乃木坂46のメンバーの個々人の力が強まっていることを予感させた。

翌年には乃木坂の顔でもある生駒里奈の卒業に始まり、西野七瀬、若月佑美らが相次いで卒業。しかし、グループは「日本レコード大賞」連覇、4年連続となる紅白歌合戦に出場するなど勢いは止まらない。


その背景にあるのが1期生、2期生という乃木坂46の基礎を作り上げてきたメンバーの活躍はもちろんのこと、3期生、4期生ら新メンバーがグループに新たな風を吹かしていることも重要な要素のひとつ。









3期生は特に与田祐希、大園桃子は「逃げ水」でWセンターに抜擢し、乃木坂46の新たな一面を見せてくれたし、山下美月や久保史緒里など個人レベルでの活躍が目立つメンバーの存在は大きい。



乃木坂46は現在『真夏の全国ツアー2019』で名古屋、福岡、大阪、東京の4都市を回るツアーを敢行中。近年は海外でのライブも増加しており、国内外での活躍にも注目が集まっている。


2:ドキュメンタリー第一弾『悲しみの忘れ方』で描かれた普通の少女がアイドルへと駆け上がる成長記録


乃木坂46ドキュメンタリー第一弾となった『悲しみの忘れ方』で描かれたのは、一般人であった乃木坂メンバーがアイドルとして人気を獲得していく中で訪れる葛藤や苦難を乗り越えていく乃木坂46の成長だった。第一弾の監督は丸山健志。「夏のFree&Easy」や「インフルエンサー」など乃木坂46のMVに携わってきた乃木坂46の歴史を共に歩んできた人物だ。



本作は生駒里奈、西野七瀬、白石麻衣、橋本奈々未、生田絵梨花ら特定のメンバーにスポットライトが当てられ、乃木坂46のグループ全体の成長を映像を通して解き明かしていく。乃木坂46になる前、つまり一般人である少女達が何を思い、どのような経緯でアイドルを志したのかが彼女達の言葉によって詳細に紡がれ、絡まった糸が解けるようなそんな感覚に陥る。メンバーが地元を訪れるカットでは一般人であった過去の自分自身を映し出し、アイドルとのギャップが強調され、より作品に感情移入することができた。

また、本作のドキュメンタリーの手法として印象的なのは、「母親の視点」が介在しているということだ。先に述べた特定メンバーによるインタビューカットを始め、プライベート映像と共に母親視点のナレーションによって、第三者的な視点が登場する。当の本人ではない第三者の視点。この視点によって一気に「一般人」としての彼女という存在に引き戻され、アイドルへと上り詰める彼女達の葛藤や苦労が印象的に描かれている。



(C)2015「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会



アイドルのドキュメンタリーで期待されるのは少女達の紆余曲折を経た成長物語であり、本作でも例に漏れずアイドルの「苦」の部分が所狭しと描かれている。例えば、若月佑美の元彼とのプリクラ流出、生駒里奈のAKB48との兼任発表、松村沙友理のスキャンダル事件。世間的にはクリーンなイメージを持たれている乃木坂46にあって、ネガティブ要素をところどころに挟むことで乃木坂46というアイドルグループが苦難をどのように乗り越えてきたのか、それに対するメンバーの反応や空気感も生々しく描き出されている点はドキュメンタリーならではの魅力である。

前編見てもらえば実感してもらえると思うが、徐々に乃木坂46がアイドルとしての自覚に芽生え、自身がみなぎっていくメンバー達の変化が感じられ、「一般人」から「アイドル」への成長を実感できる演出はとても良い。第二弾の公開が発表されてからもう一度見直してみたが、アイドルの頂点へと駆け上がった現在の乃木坂46の原点として残しておきたい名作だ。



(C)2015「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会



3:『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』公開 乃木坂46 に与えたエース西野七瀬卒業という衝撃


そんな『悲しみの忘れ方』から4年ぶりとなる新作ドキュメンタリー『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』が7月5より公開された。当初の推測通り本作の核となっているのは、グループの中心的存在でエースの西野七瀬の卒業だ。



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会




ドキュメンタリーの製作は西野七瀬が卒業を発表した2018年9月から撮影が行われ、2019年2月に地元大阪の京セラドーム大阪開催された西野七瀬卒業コンサート『乃木坂46 7th YEAR BIRTHDAY LIVE』に至るまでのメンバーの複雑な心境を密着を通して描きながら、西野卒業後の乃木坂46の決意を明らかにしていくドキュメンタリーになっている。

監督には「 BEHIND THE STAGE IN 4TH YEAR BIRTHDAY LIVE 」の特典映像を始めとした数々の乃木坂46のドキュメンタリーに携わってきた岩下力。これまでも特典映像を中心に乃木坂46の裏側を撮影してきたものの、彼女達のことを知らない岩下監督だからこそちょっと一歩踏み込んだ視点でかつ先入観の入り込む余地のない映像となっている。

前作との比較でいえば、少女達の成長物語であった『悲しみの忘れ方』に対して、『いつのまにか、ここにいる』はすでにトップアイドルとして成功を収めたアイドルの何を映し出すのかということが強調される。

冒頭で「アイドルの醍醐味は少女たちの成長譚。では、すでにスターである彼女たちのいったい何を映せばいいのだろうか?」という岩下監督の思いと共に本作のスタンスが明らかにされた。アイドルとして成長していく過程は前作で実証済み、本作においてはトップアイドルならではの葛藤や成長を実際の密着を通じて解き明かしていく実践的なドキュメンタリーになっている。このような岩下監督のスタンスを受けて、メンバーへの密着の最中監督自身がドキュメンタリーを通じて生まれたリアルな心情が映画の所々に字幕として挿入され、乃木坂46というグループのいまを検証していく過程がリアルに伝わってくる。



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会




やはり見所は西野七瀬の卒業コンサートでの舞台裏のシーンだろう。白石麻衣と西野七瀬がデュエット曲「心のモノローグ」歌唱前に交わした言葉の重みはエース同士だからこそ感じるものがあった。ぜひ劇場で実際に見てほしいところだ。生田絵梨花が舞台とアイドル両立するシーンにも触れられ仕事の両立の過酷さも映しながらも、生田絵梨花を気遣うメンバー間の絆も描かれていた。

また、本作では西野七瀬を中心に乃木坂46がどう変化し順応していくかが描かれているため、西野と関係が深いメンバーへのインタビューが多くなっていた。西野七瀬を憧れの存在であり、お姉ちゃんの存在だと語る3期生の与田祐希。絶大な信頼関係が生まれている高山一実。2人が西野七瀬の卒業について語るシーンには思わず胸が熱くなった。メンバーひとりひとりが卒業という出来事を受け入れ何とか消化していく。それはドキュメンタリーの後編で描かれる乃木坂46の次期エースとも言われる齋藤飛鳥への密着を通じて内面の変化として描かれていたのが印象として残った。



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会




4:与田祐希、大園桃子ら3期生が目覚めた乃木坂46としての自覚


『いつのまにか、ここにいる』で印象的だったのは3期生の与田祐希と大園桃子だ。本作では1期生の一部メンバーに焦点があてられているため、1期生以外のメンバーには中々カメラは向けられておらず、その中でも「逃げ水」でWセンターを務めた2人には岩下監督も素顔を引き出そうという必死さを感じた。

与田祐希は3期生として乃木坂46に加入してからの活躍は目覚ましく3期生による初公演との舞台「3人のプリンシパル」では3役を制覇、3期生初の単独ライブでもセンターを務めるなど期待されていたメンバーである。一方の大園桃子も3期の暫定センターに選ばれ、お見立て会ではセンターポジションも担当、与田同様注目されていた。


本作で与田祐希が西野七瀬の卒業発表を知らされ涙ぐむシーンに始まり、西野七瀬への思いを赤裸々に語る。「逃げ水」ではセンター与田の隣だった西野七瀬に支えられていたという。また福岡県志賀島という小さな島で育った与田祐希は、「乃木坂工事中」でイノシシと出会った話をするなどかなり自然の中で育ったことが伺えたが、映像には実際にヤギのごんぞう、愛犬のたろうと散歩するシーンは微笑ましい。与田祐希とお婆ちゃんとのやりとりには地元を出てアイドルとして活動する娘とそれを支えるお婆ちゃんの優しさを感じるシーンとなっていた。



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会





大園桃子は、劇中で自分のことをアイドルに向かない性格であると自ら語っていた。大園桃子といえば、自己紹介で極度の緊張からか涙を流す場面が見られるなど、泣いてしまうことも多かったメンバー。インタビューでもとにかく自分への肯定感が低く、なぜアイドルになったのか自分でも分かっていないような雰囲気だった。そのような彼女が「日本レコード大賞」や「紅白歌合戦」など数々のイベントを通じて成長していく過程が描かれ、レコード大賞の舞台裏で齋藤飛鳥と交わすシーンに繋がっていく。



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会




映画を通じて描かれる与田祐希、大園桃子ら3期生の成長は乃木坂46の未来をも明るく照らしてくれる、そのように感じた。映像を占める割合としては少ないが、一部4期生のライブの舞台裏も描かれており、思うように表現できず涙する4期生のシーンにも注目である。

5:前作では描かれなかった齋藤飛鳥の過去と現在


『いつのまにか、ここにいる』は齋藤飛鳥のパーソナルな部分にかなり接近している。



©2019「DOCUMENTARY of 乃木坂46」製作委員会




前作ではあまり齋藤飛鳥にフォーカスが当たっていなかったが、今作では深掘り下げられており、例えば成人式や中学の同窓会にまで密着したり、齋藤飛鳥のプライベートな旅行へ同行したりとセンターを任されている齋藤飛鳥への密着を通じて齋藤飛鳥の過去と未来が紐解かれていた。

齋藤飛鳥といえば最新作「Sing Out!」でもセンターを務めるなどグループの中心として欠かせない存在。グループのメンバーにさえ心を開かないと語る齋藤飛鳥に山下監督が様々な質問を投げかけていきながら、徐々に齋藤飛鳥の真の思いを引き出していく。終盤に齋藤飛鳥が語ったある一言に一皮むけてセンターとしての自覚が芽生えた齋藤飛鳥の成長を実感すると共にそれを引き出した山下監督のインタビュアーとしての手腕にはさすがの一言と言わざるを得ない。

具体的なシーンとなって現れていたのが、先にも少し触れた「日本レコード大賞」の舞台裏での出来事だ。「乃木坂46で良かった」と話した大園桃子に対して、何を語るでもなくただ抱きしめる齋藤飛鳥という関係性が微笑ましくもあり、感動的な一幕だった。

6:乃木坂46ドキュメンタリーを見て


乃木坂46のドキュメンタリーを見て、乃木坂46というグループは先輩後輩関係なく信頼関係が育まれたグループなのだと改めて実感した。

3期、4期と後輩たちの活躍も期待されるところだが、乃木坂46には活躍するだけの土台が揃っており、それを支えるのが齋藤飛鳥しかり乃木坂46を初期から支えてきたメンバーの存在である。

西野七瀬の卒業は乃木坂46にとって転換期であったことは間違いないが、乃木坂らしさは脈々と受け継がれているのだ。これからも乃木坂46は坂道を登り続けるだろう。

(文:川崎龍也)

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