映画コラム

REGULAR

2019年07月24日

『天気の子』は、この夏どのような道を辿るのか。

『天気の子』は、この夏どのような道を辿るのか。



(C)2019「天気の子」製作委員会


新海誠監督の待望の最新作『天気の子』が7月19日金曜日についに公開されました。

映画『天気の子』は、一般向けはもちろんマスコミ・映画関係者向けの内覧試写会も一切行われないという異例の状況の下で公開されました。確かに、『アベンジャーズ』シリーズや『スター・ウォーズ』シリーズなどのように秘密保持のために関係者試写が行われなかったことはありました。

ただし、『天気の子』のようにギリギリまで作り続けるために試写を行わないという例はちょっと聞いたことのない話です。敢えて近しい態勢だった作品を探すと『シン・ゴジラ』くらいになりましょうか。

『仮面ライダー平成ジェネレーションforever』はギリギリまで作っているという話でしたが、実際には佐藤健(=仮面ライダー電王)のサプライズ出演の話を伏せるためのことでした。

しかも、『天気の子』は全国の映画館の7月19日金曜日の第1回上映を朝9時の一斉スタートに統一するという公開形態まで限定しての公開となりました。

1:前作『君の名は。』について


冗談交じりに“同じことをもう一度やれと言われても無理”“なぜヒットしたか正確に把握している人はいない”と関係者が語る新海誠監督の前作『君の名は。』の記録的な大ヒット。

君の名は。 ブルーレイ メイン


(C)2016「君の名は。」製作委員会


興行収入は250億円を突破、邦画としては『千と千尋の神隠し』に次ぐ歴代2位、洋画も含めた総合ランキングでも4位という文字通りの国民的な大ヒット映画となりました。

これまで、興行収入で100億円を超えたアニメーターは宮崎駿監督だけでした。

前々作の2013年に公開された新海誠監督作『言の葉の庭』は全国で23スクリーン、推定興行収入1億5000万円と言われています。これに対して、『君の名は。』全国301スクリーン、興行収入250億円を記録したので、スクリーン数は13倍、興行収入160倍、100年以上の日本映画興行史でも、過去に前例のないと言っていいジャンプアップです。

この実績を担保になって前例のない『天気の子』の前代未聞の公開形態にGOサインが出ました。

ちなみに『天気の子』は359の映画館、448のスクリーンで公開されましたので、公開規模で見ると『君の名は。』からさらにスケールアップした公開体制となりました。

期せずして、生まれた国民的映画
元々を辿れば、スタジオジブリが2014年に活動縮小・停止宣言を発したところから話が始まります。(その後ジブリは宮崎駿監督の引退撤回、2020年~21年公開予定『君たちはどう生きるか』の制作を発表。)

これに伴って東宝が毎年夏に公開していたアニメーション大作の体制を新たに作り、その作り手として『バケモノの子』の細田守監督と『借りぐらしのアリエッティ』をジブリで監督し、その後独立してスタジオポノックを設立した米林宏昌監督、そして小規模公開ながらも密度の濃いヒットを記録していた新海誠監督の三人に白羽の矢が立ちました。

元々熱心でコアなファンがいた新海誠監督ですが、多くの人にとっては『君の名は。』が新海誠監督の世界とのファーストコンタクトとなりました。

そこで、名刺代わりとなる『君の名は。』は今までにない“より分かり易く・伝わり易く”“新海誠のベスト盤”になるように作られました。

まるでテレビアニメのようなオープニングシーンなどの“分かり易さ・伝わり易さ”を念頭に置き、商業的な意味で一歩前に歩み寄った作られ方をしました。

このような意図的な作られ方(体制)をした『君の名は。』の歩み寄りが新海世界と初遭遇の観客、特に若者を中心にした観客の中にある“青春”の気持ちと非常に高い次元でシンクロしました。

やがて、かつて“青春”を心に宿していた世代にも『君の名は。』は波及していくことになります。

君の名は。 サブ1


(C)2016「君の名は。」製作委員会


こういう伝わり易さ(新海監督曰く“ジブリ的”な作り)については、新海監督は2011年の『星を追う子供たち』でも挑戦していましたが、この時は普遍性と世界観の合流に関しては大きな賛否(反発)を呼びました。

新海監督と制作陣は、この時の体験を経て『君の名は。』の記録的な大ヒット(社会との適合)を実現させました。

また、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがっているんだ。』の田中将賀。スタジブリ作品や『メアリと魔女』などに参加した安藤雅司がキャラクターデザインに参加したことで絵の面で圧倒的な親しみやすさ(今風さ)を生んだことも大きいでしょう。

田中将賀は『天気の子』にも続投しています。

公開時期にも恵まれました。『シン・ゴジラ』の2週間後に公開された『君の名は。』は、他のイベントムービーが『シン・ゴジラ』を避けて公開時期を夏以降に設定したことの恩恵を受け、競合作品もなく公開規模を確保し続けられました。

一方『天気の子』は2週間後の8月2日に『ワイルド・スピード/スーパー・コンボ』、3週後『ライオン・キング』というイベントムービーが待機しています。

さらに言えば『天気の子』の1週間前に公開されている『トイ・ストーリー4』が日本における洋画アニメーション歴代ナンバーワンのオープニング記録(4日間で24億円超)を打ち立てる大ヒットスタートを記録しています。

あの『アナと雪の女王』をも上回る数字を叩き出した『トイ・ストーリー4』が上映中の中、そして、直後に『ワイルド・スピード』、『ライオン・キング』が控える中での『天気の子』の上映となります。

特に『ライオン・キング』は同じディズニーアニメの実写化作品『アラジン』が令和初の興行収入100億円を突破する大ヒット中という追い風もあるので、『天気の子』に対して“大きな向かい風”が公開3週目に吹くことになるかもしれません。

2:映画『天気の子』公開前夜


新海監督自身が今作『天気の子』を待っている観客の規模感・スケール感が今までとは観客のそれとはまったく違うと感じていると語っています。

また、東宝の夏のアニメーション作品というモノには様々なものを巻き込む時事性の強さがあることも感じたとも語っています。



(C)2019「天気の子」製作委員会



国民的映画の次の一手とは?


前々作までの新海誠というブランドを信じてやってくる観客=新海ワールドファンと、『君の名は。』のブランド力を信じてやってくる観客と両方に向けた準備が必要が必要になります。

単純に人数で分ければ後者が圧倒的な多数派になりますが、新海誠を支えてきたのは前者で、どちらの層も大切にしなくてはいけない存在です。熱心なファンの気持ちをくみ取りつつ、より広く伝わることも意識するという二つの相反する準備が必要になったわけです。

『君の名は。』でも試みられたことですが1に書いた通り、『君の名は。』が当初ここまでの“国民的映画”になろうとは誰も思っていなかったので、一般層への売り込みについてはそこまで意識する必要はなかったのですが、『天気の子』については企画立案のところからそのことを頭に入れないわけにはいかなくなりました。

それこそ、宮崎駿監督のように作家性を保ちながらも、この時代にエンターテイメントを通じてどんなメッセージを込めるのかということを考えるということをしなくてはいけなくなりました。

そんな中で公開された予告編・特別映像からは熱心なファン層、『君の名は。』からの層、両方への巧みなバランスがとられたメッセージを見てとることができます。


熱心なファンには今回も当然のようにオリジナル脚本で、歌・空・すれ違う少女と少年といった新海誠の世界の変わらぬキャラクター・アイテムが健在なことが分かります。
また実は『君の名は。』にでは少なかった新海ワールドトレードマークとも言うべき“雨と雨雲”が『天気の子』では大々的に復活していることも伝わります。
実は、流星・隕石が重要なキーアイテムと言うこともあるために総じて『君の名は。』は天気に恵まれた青い空が大半で、劇中での本格的な雨のシーンは隕石落下跡を瀧が訪ねる短いシーンだけです。

そして、『君の名は。』以降の層へのアピールを見るとまずタイトルからして『天気の子』は“天気”という人が一日に1回は口にするであろう普遍的なテーマを主題になっていることが分かります。

映画を見た後ではそのことがより一層分かりますが、新海誠のある種の青臭い世界観を保ち続けながら、一般層にも敷居を高く感じさせないようにするために“天気”というテーマは他には代えがたい最適なテーマだったと言えます。

『君の名は。』からの観客に向けてのことで見れば、音楽を担当したRADWIMPS・野田洋次郎が続投しています。

ボイスキャストでは小栗旬・本田翼・倍賞千恵子といった他のアニメ作品などでも馴染みの面々を起用して少なからず感じられている、ある種のアニメーション作品への敷居(マニア性)を下げています。

その一方で主演カップルの声優にはオーディションで醍醐虎汰朗と森七菜というまだまだ一般層にとっては無名な二人抜擢(『君の名は。』神木隆之介と上白石萌音の認知度と比べてみてください)。音楽でもRADWIMPSが女優の三浦透子をフィーチャリングRADWIMPSという形で起用したりと、国民的映画の次の映画でありながら、チャレンジするところはチャレンジしているということも見てとれます。


何より新海監督自身が“雨が降り続ける世界で、若者たちが生きる混とんとした時代に希望を与える”というど真ん中のテーマを設定して、 “『君の名は。』よりもっと面白い映画だったと思ってほしくて、純粋に楽しめる映画をとひたすら考えていた“と語っています。

外堀の埋め方も的確です、Amazonプライムビデオなどの動画配信サービスで過去の新海誠監督作品の配信を始めたほか、地上波で『君の名は。』を初放映。新聞に仕掛けのある一面広告を出したことも話題なりました。

『天気の子』というタイトルに“天気”と言う普遍性の高い言葉があることから、サントリー食品、ソフトバンク、日清、ロッテ、バイトル、ミサワホーム、などナショナルクライアントと呼ばれるような大企業やJR東日本、都営バスなどと多数のタイアップを結びました。


©2019「天気の子」製作委員会


週刊少年マガジンでは連載作品でないにもかかわらず表紙を飾りました。これは、宮崎駿監督『もののけ姫』以来22年ぶりの出来事です。

こういった形で映画本体のCM以外でも『天気の子』の映像やキャラクタービジュアル、シーンビジュアルを、多くの人の日常への刷り込ませました。

そして、時間(朝9時)までそろえた全国一斉公開という大型イベントがまだ誰も見たことがない映画『天気の子』の公開を大々的に締めくくりました。

3:7月19日金曜日『天気の子』公開(詳細ネタバレなし)


そして、7月19日朝9時、全国の劇場で一斉に『天気の子』が公開されました。

まるで合わせたかのように梅雨時の空模様、前日にはアニメーション製作に関して悲しい出来事が起こってしまい、新海監督もコメントを寄せると言ったこともありました。


©2019「天気の子」製作委員会



新海美学のバッドエンドの復活


新海誠監督作品の元々のファンの中で『君の名は。』を見た時、最も“これは、ちがう?”という感覚を持ったのがそのエンディングでしょう。

分かり易くはっきり言ってしまえばハッピーエンドが“過ぎる”というエンディングでした。
もちろんもっとはっきりとしたハッピーエンドな映画はたくさんありますが、新海作品の中ではここまでハッピーエンドだけに終わった作品はありませんでした。

新海誠監督の物語はハッピーエンドとバッドエンドは表裏一体であることを常に明示してきました。

そして、新海監督は青春とは常にほろ苦い終わり方をするもの”という新海美学・新海文学の文脈によって、バッドエンドの側の描写を強調することでそのことをはっきりと伝え続けてきました。

『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』の終わり方がまさにそれです。





そんな中、今回の『天気の子』はどちらに振ってくるのかとあれやこれやと想像を張り巡らした中で本編を見た結果は“新海バッドエンドの復活”でした。

『君の名は。』を見て怒った人たちをもっと怒らせたい(=議論を起こしたい)と語った新海監督の狙いは見事にはまったと言っていいでしょう。

キャラクターの設定にも感じる復活の兆し


思えば『君の名は。』のヒロイン(新海作品の肝はヒロインの大きさですが)宮水三葉は突飛な設定ではあったものの、彼女の個人には特殊な能力はなく、彼女を取り巻いた環境による部分が大きいキャラクターでした(口噛み酒という部分に多少残りがあります)。

対して、『天気の子』の天野陽菜は文字通り“天気の子”であり、100%の晴れ女という存在です。そして、彼女の能力こそが物語の主軸になっていきます。



©2019「天気の子」製作委員会


『天気の子』を見てすぐに思いだしたのが新海監督のメジャーデビュー長編『雲のむこう、約束の場所』です。

少年が少女と出会い、そして自分たちのセカイ(少女・青春)と周りの世界(大人・社会)と巡って『雲のむこう…』の少年は大きな選択・決断をします。
ネタバレはするべきではないので、具体的なことは避けますが『天気の子』は『雲のむこう、約束の場所』の姉妹編という映画といっていいかもしれませんね。





そして、新海監督は『天気の子』を通して“狂った世界で選択する”ということ自体にも言及してきます。

今回のオリンピック直前の東京は大人(社会)が選択し続けてきたことで、気象などあらゆる面で狂わされた世界そのものです。

そんな世界で“選択の余地が最初から極端に狭まっている若者” (貧しさという要素を抱えているところその表現の一つでしょう)を新海監督は主人公に据えました。
そして、それが主人公の森嶋帆高というキャラクターに昇華させた上で、狂った世界でそのままでいてもいいことをそっと提示しています。

そうは言っても映画『天気の子』はもちろんエンターテイメントなので、ちゃんと楽しく笑わしてくれる描写もたくさんあります。

陽菜の弟の凪のキャラクターはなかなか秀逸です。

キャラクター絡みで言えば、とても嬉しいサプライズが仕込んであります。

実は『言の葉の庭』→『君の名は。』にもあったことなのですが、ある意味スターシステムとも言える嬉しい遊び心です。これはコアな新海ファンへの心配りといっていいでしょう。



©2019「天気の子」製作委員会



映画の外側にも少し視線を向けていきましょう


『天気の子』ということで、今回は新海監督の“雨と雨雲”をたっぷり見ることができます。

『言の葉の庭』で雨天の都心を見事に美しい絵にした美術監督の滝口比呂志が今作でも参加していて、見事なまでの“天気”が劇中で描かれています。

空模様というアニメーションでは欠かせないものでありながら、主題になりにくいものを敢えてど真ん中に据えた『天気の子』という作品の中での“天気”はやはり別格の美しさがありました。

注目の映画主題歌・映画音楽は『君の名は。』に続いてのRADWIMPSです。

前作からのイメージが強かったこともあって、監督たちはRADWIMPS以外の選択肢も考えていたという話もあります。

そんな中で、映画音楽を託すかどうかを決める以前に、新海監督は、ただ単純に出来上がった脚本をRADWIMPS・野田洋次郎に読んで欲しいと思い脚本を送りました。

それから2カ月後、感想の代わりに監督のもとに届いたのが「大丈夫」と「愛にできることはまだあるかい」のデモテープだったそうです。


そして、RADWIMPSの続投が決定、歌も含めた曲数は『君の名は。』の27曲から33曲に大きくボリュームアップしました。

予告編でも使用された「愛にできることはまだあるかい」がまず、耳を引きますが、それに加えて、監督に“映画『天気の子』の結末を決定づけさせた”と言わせしめた優しい説得力に満ちた「大丈夫」と、RADWIMPSが女優・歌手の三浦透子をフィーチャーし、ラストにダイナミックな合唱が待っている「グランドエスケープ」の二曲も忘れられない曲になりました。

また歌以外の映画音楽の部分が、『君の名は。』のそれに比べて、明らかに映画へのより寄り添いかたが違っていて、音色の深みやふり幅の広さが増して、『天気の子』のサウンドトラックは一つの音楽作品として聞き応え十分のものになっています。

音と絵の完成度・シンクロ度の高さに関しては“流石の新海誠”と感じる“でき”です。

そのことを体感するためにもやはりファーストコンタクトは音響・画質に優れた映画館をお勧めします。

ちなみに聖地巡礼も兼ねてのお薦めの映画館はTOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ六本木ヒルズ、池袋HUMAXシネマ、そしてオープンしたての池袋グランドシネマサンシャインでなどなど。一味違う楽しみ方ができると思います。

4:そして、映画『天気の子』のこれから


『天気の子』公開後の最初の週末が明け、興行についての数字に関する第一報が伝わってきました。



©2019「天気の子」製作委員会


エンターテイメントの話に数字の話を組み込むのは野暮ではありますが、日本映画史において歴代第4位の大ヒット作『君の名は。』の監督の次回作です。
(1位『千と千尋の神隠し』308億円、2位『タイタニック』262億円、3位『アナと雪の女王』255億円)
やはりそのことについての話をしないわけにはいきません。

※『君の名は。』から『天気の子』まではまだ3年しか経過していませんが、その間に映画の公開初日が土曜日から金曜日に移り、それが定着するという、実は結構大きな変動がありましたので、それぞれについて若干事情が変わってきますが、基本的な部分では大差がないと思っていただいて構いません。

興行通信社からの第一報によると『天気の子』は7月20日・21日の土日だけで11億8500万円の興行収入を記録。初日(7月19日金曜日)からの3日間の累計は16億円を突破しています。

一つ前の週に公開された『トイ・ストーリー4』の3日間の累計興行収入17億円には惜しくも届かなかったものの、堂々たる数字を叩き出しました。

週末興行収入ランキングでもまずは確実に初登場1位の座を獲得しています。

※ちなみに『君の名は。』のランキングアクションは公開週に初登場首位になるとそこから9週連続(2016年8月29日~10月24日の週)で首位をキープ。そして翌々週にはトップに返り咲くとまた3週連続(11月7日~11月21日の週)で1位の座を守り、さらに年が明けた2017年の1月、公開から22週経過した1月23日の週で9週間ぶりの1位に返り咲き、TOP10には27週間(およそ半年間)ランクインし続けました。

そして、『天気の子』のオープニングの数字は『君の名は。』対比で128%に数字になります。

まずは、興行収入100億円を超えることは、ほぼ間違いなく、早くも“あとはどこまで『君の名は。』の興行収入250億円という数字に迫れるのか?”という状況になっています。

※ちなみに興行収入100億円を突破した映画はつい先日、令和初の100億円映画となった『アラジン』を含めて計33作品あります。そう遠くない時期に『天気の子』が34番目の100億円映画になることになるでしょう。

★日本歴代興行収入ランキング
http://www.kogyotsushin.com/archives/alltime/

『君の名は。』のヒットと『天気の子』のヒット


1週目で『君の名は。』(2日間で9億3000万円)を超えているのであれば、全体の記録も超えるのではないか?という見方もあるかもしれません。

ただ、『君の名は。』は2週目に11億6000万円、3週目に11億3500万円、4週目10億7600万円と公開以降約1か月間、オープニングの数字を上回る数字を叩き出し続けるという“しり上がりに数字が上がる現象”が起きていました。

このように公開からの勢いをキープまたは、上回り続けるという現象は大ヒット作品・ロングヒット作品には欠かせない展開です。

最近の映画で言えば『ボヘミアン・ラプソディ』がまさに同じ道筋を辿った作品と言っていいでしょう。(最終興行収入130億円以上)





このようなことはまず公開早々に見た観客の作品への満足度が圧倒的に高く、それが個人レベル(いわゆるSNSなどの口コミなど)、またはメディアレベル(ヒット報道など)で様々な形で拡散されるところから始まります。

こういった様々な語られ方が相乗効果を生み、いわゆる“リピーター”を含む(公開当初よりも)多くの観客を劇場に導くという現象を生み出し、そして、そのことがまた語られてさらに相乗効果を生むという“プラスのスパイラル”を形成していくことになります。

このように観客の側の盛り上がりがどんどん増えていき、さらに公開体制がその盛り上がりに応えられるだけのもの=“見たい時に見られる状況”が確保された時に、社会現象や国民的ヒットと呼ばれる映画が誕生します。

そして、注目は映画の『天気の子』が同じような道筋を辿るかどうか?ということになります。

『天気の子』が『君の名は。』のような記録的に突き抜ける作品になるかどうかにはいくつかの条件があります。最も大事なことは、取り込める観客を確実に取り込めるかということです。

この観客をもう少し詳しく分けると“新海監督の元々のファン”“映画『天気の子』のファン”という2種類のリピーター、そして、“年に1回映画館で映画を見るか見ないかという人たち”がいます。

リピーターの前者と後者は同じように見えますが、後者には”『君の名は。』以降のファン=分かり易さ・伝わり易さに関して一歩踏み込んできた新海誠の世界に乗れた人たち”が多分に含まれています。

そして、いちばん大切なのが“年に1回映画館で映画を見るか見ないかという人たち”です。

スタジオジブリ、特に宮崎駿監督作品はこの人たちを確実に取り込み『もののけ姫』以降の作品を全てを100億円以上の興行収入を記録する映画にしてきました。今の日本で、人が1年に映画館に行く回数は平均すると年に1回強となっています。
※これは映画人口(=1年間に有料で映画を見た人)を見て計算することができ、この数字はここ数年大体1億6000万人ほどで推移しています。



こういう人たちを映画館に向かわせるにはどれだけ準備をせずに(=準備をしていると思わせせずに)映画館に足を運ばせるかです。

強いのはやはりディズニーです。ディズニーリゾートはもちろんミュージカルなどの映画以外のエンターテイメントで一つのタイトルを複合的に盛り上げ・創り上げていくディズニーの手法とブランド力は強力です。

ということで、現在すでに公開中の『アラジン』、『トイ・ストーリー4』の2作品、8月9日(金)から公開の『ライオン・キング』という『天気の子』を囲む作品の並びは実に強力です。

これはつまり『天気の子』の公開体制がその盛り上がりに応えられるだけのもの=“見たい時に見られる状況”の確保に大きなライバルがいることになります。

ただ、これも考えもので、映画館に滅多に来ない人を呼べるタイトルが複数並べば、そこにまた相乗効果を生むこともあって、結果として1本で終わらず、2本3本と見に来るということは大いにあります。

私が映画館で働いていた時にも大きなヒット作品が一つ・二つと出てくることで、映画館全体が盛り上がり、気が付けばどの映画のどの時間帯も埋まっているということがたびたびありました。

しかも!今は夏休み期間中ということで学生を中心にした若者にとって自由になる時間が増える時期でもあります。『君の名は。』は実は夏休みの後半の公開でした。

各作品がいい意味で刺激し合うことが起きれば『天気の子』だけでなく『アラジン』に続く形で35番目以降の令和の100億円映画の誕生の可能性も十分あり得ます。

後から振り返るとあの2019年(令和元年)の夏は映画館がずっと埋まり続けて、沢山の映画が大ヒットしたなと語られるようになるかもしれませんね。



©2019「天気の子」製作委員会



5:始まったばかりの『天気の子』について、一旦のまとめ


新海誠監督の最新作品『天気の子』は(前作『君の名は。』の存在も含めて)どんな映画なのか?どのような広がりを見せるのか?ということが公開前に誰も見ていない状態にもかかわらず、これほどの議論を呼んだ、前例のない存在となりました。

そして、見落としがちで(これが一番大事な事なのですが)事前の部分から(『君の名は。』のことから考えれば3年前から)『天気の子』は注目を浴び続けてきましたが、まだ上映自体は始まったばかりです。

この映画についての事柄は、公開されたこれからの日々の方が圧倒的に多くなるでしょう。

興行収入に加えて主題歌やサウンドトラックの売り上げなどの数字についても評価についても、今年の内には固まらないかもしれません。

内容についての議論・意見が出てくるのもまだまだこれからになり、後追いでどのような形で出るのか分かりません。

それを受けて『天気の子』のファンがどう動くのかもまだまだ分かりません。今後のジブリ以外の大作アニメーションの在り方を左右することになるかもしれません。来年6月公開と公開時期が解禁された『シン・ヴァンゲリオン劇場版』にも影響を与えるでしょう。

改めて言います。映画『天気の子』はまだ始まったばかりです。まずは劇場へ、『天気の子』とはどんなものなのか?その眼で見て確かめてください。全てはそこから始まります。

(文:村松健太郎)

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