映画コラム

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2019年08月23日

ダンボールでできた殺人迷路、『キラー・メイズ』を楽しもう!

ダンボールでできた殺人迷路、『キラー・メイズ』を楽しもう!



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ダンボールでできた殺人迷路、『キラー・メイズ』を楽しもう!

みなさんは子どもの頃、ダンボールで秘密基地などを作ったりして遊んだことはありませんか?(私はあります)

ダンボールの魅力とは一体何なのでしょう?

箱の中に入ってみたり、ソリ代わりにして坂を滑ってみたり、ヘンテコなものを作ってみたかと思うと、それをグシャグシャに壊すのにも快感を覚えてみたり……。

今回ご紹介する『キラー・メイズ』は、邦題こそ『メイズ・ランナー』をホラー風にパクったようなテイストではありますが、その実、スリリングな冒険の中から童心を呼び起こしてくれるB級ファンタジーの逸品です。

そう、この作品はダンボールでできた殺人迷路の中に入って出られなくなってしまった素っ頓狂な大人たちのトんだ冒険譚なのでした!

童心を誘うシュールな
ダンボール世界の妙



『キラー・メイズ』の主人公は、冴えない芸術家デイブ(ニック・スーン)です。

ある日、デイブの恋人で同棲相手のアニー(ミーラ・ロフィット)が旅行から戻ってくると彼の姿はなく、部屋のリビング中央には人ひとり入れるくらいのダンボール・ハウス風のオブジェがあり、その中からデイブの声が聞こえてきました。

どうやらデイブは己の才能やら人生やら何やらのストレスも手伝ってか、急にダンボールを組み立てて、「その中に迷路を作ってみたものの、迷子になってしまった」とのことで、外に出てこようとしません。

そんなアホなと困り果てたアニーは、興味本位で集まってきた友人らとともに、絶対に中に入るなというデイブの忠告を無視して、オブジェの中に入っていきます。

すると、中は本当にダンボールを基調とした異世界のように、壮大な迷路が広がっていた!

はじめはトランプやキーボードの鍵盤など、さまざまに飾られたユニークな部屋の数々を楽しんでいた面々。

しかし、いつしかアニーたちも迷路から出られなくなり、それとともにあちこちに仕掛けられたブービー・トラップによって、次々と犠牲者が!

やがてデイブと合流できた一同ですが、
ではこの迷路からどうやって帰還する?

と、ストーリーだけを記すと、いわゆるホラー風味のダーク・ファンタジーではあるのですが、不気味な風情こそあれ意外に不快ではありません。

それはやはりダンボールでできたシュールな迷路世界の童心を誘うユニークさが、作品全体を支配しているからに他ありません。

首が切れたり、くし刺しにされたりといった残酷シーンもあるのですが、これまた意外にポップに描出されていて、またこの世界の中で噴き出る血は液体ではなく赤い紙ふぶきであったり糸であったり、凶器から何まで全部紙でできているので、どことなくチープで微笑ましいのです。

さらには、部屋によっては一同が全員紙製の人形になってしまったり、かと思うと人間だけがモノクロ化したりと、遊び心も満載で、ふと大林宣彦監督の『HOUSE』などを連想させるものもあります。

アイデア次第で映画は
まだまだ面白くなる!



本作は2017年度シッチェス映画祭ニュービジョン・ワン/プラス部門最優秀作品賞を受賞。

何よりも秀逸なアイデアを讃えたいところです。

一時期(主に1990年代)「すべての映画のストーリーは、既に語られつくされてしまった」などと嘆く若手映画人の声が説得力を持って迎えられたことがありましたが、こういった作品に接しますと、まだまだどうして映画には限りない可能性が秘められていることを納得してもらえるのではないでしょうか。

確かにストーリーというか世界観として本作は『ふしぎの国のアリス』などをお手本にしているのは明らかですし、迷路そのものがデイブの心理状態と実はシンクロしているといった設定も決して新しいものではないでしょう。

しかし映画とはストーリーや設定のみならず、それをどう視覚的に描くかというのも大きな魅力ではあり、その意味でもやはりダンボールという安っぽくも親しみやすい素材でできた迷路空間は実に楽しく、正直このようなテーマパークがあったらぜひ家族で行ってみたいと思わせるものすらあります(殺されたくはありませんけど……)。

ビル・ワッターソン監督はじめスタッフ&キャストともに日本ではまだなじみのない面々ばかりではありますが、ホラーやファンタジーなどファンタスティック・ジャンルはこれまでも、そしてこれからもどんどん彼らのような才能を発掘、育成していくことでしょう。

アイデア次第で映画はいかようにも面白く意欲的になれる! そんなことを改めて痛感させてくれる快作です。

(文:増當竜也)

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