映画コラム

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2019年08月23日

『ロケットマン』の「5つ」の魅力!最高のエルトン・ジョン映画になった理由とは?

『ロケットマン』の「5つ」の魅力!最高のエルトン・ジョン映画になった理由とは?



©2018 Paramount Pictures. All rights reserved. 




本日8月23日より公開される『ロケットマン』は世界的シンガーのエルトン・ジョンの半生を描く伝記映画です。洋楽に詳しくなくてもその名前だけは知っている、その代表曲の1つである「僕の歌は君の歌(原題:Your Song)」であれば聞いたことがある、という方も多いでしょう。



結論から先に申し上げれば、この『ロケットマン』はエルトン・ジョンのファンはもちろん、エルトン・ジョンをあまり知らない人にこそ観て欲しいと心から願える、伝記映画としてのアプローチが面白く、かつ音楽映画としてのクオリティと楽しさを最大限に押し上げた素晴らしい作品でした! そして、実は近年で大ヒットした『ラ・ラ・ランド』と『ボヘミアン・ラプソディ』が好きな人にも大推薦できる内容であったのです。ネタバレに触れないように、その魅力を解説しましょう!

1:実はガッツリミュージカル!
『ボヘミアン・ラプソディ』と『ラ・ラ・ランド』ファン両方にオススメの理由とは?


本作『ロケットマン』には、クイーンのボーカリストであるフレディ・マーキュリーを主人公にした『ボヘミアン・ラプソディ』との共通点を多く見いだすことができるでしょう。

例えば、世界的シンガーの“人間味のある内面”を丹念に描いていることや、主人公がゲイ(フレディ・マーキュリーはバイセクシュアルでもある)であること、成功に従って孤独になっていく過程や、仲間との愛憎劇などの話運びなどが、『ロケットマン』と『ボヘミアン・ラプソディ』はかなり似ているのです。何よりも、両者とも(詳しくは後述しますが)演じている役者がまるで“生き写し”というほどに本人そっくりの見た目・歌唱・パフォーマンスを体現できているのですから。

しかしながら、『ロケットマン』の映像としてのアプローチは『ボヘミアン・ラプソディ』よりも、ハリウッドで夢を掴もうとしている男女を描いた『ラ・ラ・ランド』に近いものになっています。何しろ、劇中では主人公もモブキャラクターも音楽に合わせて歌って踊り、画面上でははっきりと現実ではあり得ない光景も広がるという、ガッツリとミュージカル作品でもあるのですから。

『ロケットマン』のミュージカル形式は、(詳しくは後述しますが)エルトン・ジョンの特異な人生を描く上で重要、というよりもミュージカルで描くことにこそに必然性があると思えるものでした。難しいことを何も考えなくても、それぞれがファンタジックかつゴージャスなので、とにかく「楽しい!」という気持ちで観られることでしょう。しかも、そのミュージカルの魅せ方は“手を替え品を替え”なバラエティにも富んでおり、時には「えっ!?」と驚くサプライズにもなっているのです。

乱暴な表現ではありますが、『ロケットマン』は『ボヘミアン・ラプソディ』と『ラ・ラ・ランド』の“いいとこ取り”、もしくは“両方を一気に堪能できる映画”と言ってもいいでしょう。とにかく、万人にオススメできる“お得感”があるということを訴えておきたいです。もちろん、『ボヘミアン・ラプソディ』と『ラ・ラ・ランド』を観ていないという方にもオススメしますよ。



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2:ドラッグに溺れまくりでちっとも“正しくない”!
狂瀾にまみれた切ない人生を描くことに意義があった!


万人にオススメできる……と前述しましたが、1つだけ注意点があります。それは、本作が日本ではPG12指定(12歳未満は保護者の助言・指導が必要)のレーティングがされているということ。本編を観ればそれも納得、何しろ劇中のエルトン・ジョンは麻薬中毒者であることが明確に描写されている……というよりドラッグに溺れまくってしまっているのですから。しかもドラッグだけでなくアルコールにも依存しており、性的な話題や描写も(直接的すぎない具合に)随所に挟み込まれています。ある意味ではインモラルにも思える内容なので、知らずに観てしまうと良くも悪くもギョッとしてしまうかもしれません。

もちろん、このドラッグやセックスを明け透けに描写しているのも作品に重要な要素です。当の(製作総指揮も務めている)エルトン・ジョンは「僕の人生はかなりクレイジーだ。落ちる時はとことん落ち、上がる時にはとことん上がった。残念だけど、ちょうどいいバランスが取れることはなかった」と語っており、その人生はまさに(本来の“前代未聞”と誤用である“大胆”の両方の意味に当てはまる)破天荒そのものだったのですから。

さらに、エルトン・ジョンはさらにこうも語っています。「この映画を通して理解してほしかったのは、名声と引き換えになった途方もない代償、子供時代が自分に与える大きな影響、中毒や自分の行動が引き起こす苦しみをうまく言葉にできないことの影響や孤独の大きさだ(でも全編を通してユーモアを入っている必要がある)」と。エルトン・ジョン自身が、過去に理性を欠いた行動を繰り返してしまい、大切なものを失って自己嫌悪をしていたこと、そうした“正しくなさ”までをも“正直”に映画で描きたいという意向があったのです。

劇中でエルトン・ジョンがドラッグやアルコールやセックスに溺れてしまう様はドン引きしてしまうほどの領域に達しています。しかし、その人としてダメで倫理的にもアウトなところを遠慮なく振り切って描いていることこそが『ロケットマン』の大きな魅力。スーパースターであり、ゴージャスな衣装でパフォーマンスをしているはずのエルトン・ジョンが、その普段の見た目に通ずるめちゃくちゃとも言える人生を(もしくは見た目とは対照的な“人生の暗部”を隠さずに)描くべきだと主張しているのは、ある種の迫力を感じさせます(エルトン・ジョンは自身を「正直すぎて時々損をしている」とも語っています)。

また、このように書くとエルトン・ジョンがめちゃくちゃすぎて感情移入の余地がないような人物に思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。彼が幼少時に両親に愛されなかったという事実が物語の根底にあり、大人になって音楽で世界的な名声を得たのに、今度は成功と反比例するように孤独になっていく……というこれ以上のないほどに浮き沈みのある人生を丹念に追うことで、彼の悩みが誰にでも親身に感じられるようになっているのですから。

その破天荒な人生のきっかけになったと言える、その“愛されたいのに愛されない”というその悩みは、誰もが持ちうる普遍的なものでもありました。心を揺さぶる切ないドラマが、そのドラッグやアルコールやセックスにまみれた“狂瀾”の中にあるというのが、この『ロケットマン』なのです。



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3:タロン・エジャトンの吹き替えなしの歌唱と熱演が神がかり!
『キングスマン』からの運命的な巡り合わせがあった!


本作で最も重要なのは、スパイアクション映画『キングスマン』の主役に抜擢され、一躍スターとなったタロン・エジャトンがエルトン・ジョンを演じているということでしょう(日本で彼は“タロン・エガートン”と表記されることも多かったのですが、本人は“エジャトン”の発音であることを訴えており、現在はそちらの表記が多くなっています)。

そのタロン・エジャトンは“吹き替えなし”で本作の歌唱を務めており、その歌声と役のなりきりぶりはもう神がかり! 彼はイギリスの王立演劇学校の入学に向けたオーディションで「僕の歌は君の歌(原題:Your Song)」を歌っていた過去もあったそうで、もちろん今回の役に挑む前には5ヶ月間ボーカルとピアノのレッスンを受けるなど念入りにトレーニング、数々の名曲の新バージョンのレコーディングも行いました。言うまでもなくタロン・エジャトンの演技そのものも素晴らしく、特に中盤の“絶望”の表情には筆舌に尽くし難いものがありました。



また、そのタロン・エジャトンが主演を務めた『キングスマン:ゴールデン・サークル』では、エルトン・ジョンが“本人役”で出演し大活躍をしていたこともありました。実は『ロケットマン』のプロデューサーの1人にはその『キングスマン』および『キングスマン:ゴールデン・サークル』の監督であるマシュー・ヴォーンが名前を連ねており、彼がこの『ロケットマン』の脚本を気に入ったこと、自身も音楽にこだわる映像を作り続けていたこと、タロン・エジャトンの能力を知っており、かつ若い頃のエルトン・ジョンが今のタロン・エジャトンの体型と良く似ていると知っていたことなどから、どのような映像になるかが”見えた”ということで企画が順調に進んでいったのだそうです。

さらに、本作で監督を務めたデクスター・フレッチャーは、タロン・エジャトン主演(ヒュー・ジャックマンとのW主演)の伝記映画『イーグル・ジャンプ』を手がけており、その前にはミュージカルを映画化した『サンシャイン/歌声が響く街』でもメガホンを取っていました。さらに、デクスター・フレッチャーはブライアン・シンガー監督が途中で降板した『ボヘミアン・ラプソディ』にて撮影最後の数週間とポストプロダクションを担当したこともあるのです。

つまり、『ロケットマン』はプロデューサーも監督も、「タロン・エジャトンのことを良く知っている」「音楽に造詣が深く、音楽が魅力になっている映画を手がけた経験もある」人物なのです。さらに、タロン・エジャトンはエルトン・ジョンと映画での“共演”の経験もあるというのですから……もうこの作り手とキャストの巡り合わせは、もう運命的と言っていいのではないでしょうか。

余談ですが、そのタロン・エジャトン主演の『キングスマン』は“低所得者向けの集合団地で母親と暮らす労働者階級の青年がスパイに大出世する”という内容でもあり、イギリスにおける階級社会を皮肉っているところがありました。実はエルトン・ジョンも労働者階級出身であり、『ロケットマン』の劇中で天賦の才を活かし努力もしてスーパースターへとなる様は、『キングスマン』の物語にも通じている、「今いる階級が一番快適だなあ」という意識がある(それ自体が悪いというわけではないですが)イギリスの階級社会に反旗をひるがえすものとも言えるかもしれませんね。



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4:実在の作詞家との切ないラブストーリーも……
ジェイミー・ベルの存在感にも注目!


本作でもう1つ重要なのは、バーニー・トーピンという実在の作詞家が登場することでしょう。実はエルトン・ジョンのヒット曲のほとんどがそのバーニー・トーピンとのコンビ作品であり、この2人は作曲と作詞の完全分業というスタイルを半世紀にわたって続けていたのだとか。『ロケットマン』ではその2人のパートナーシップ、または軋轢がかなりクローズアップされているのです。

2人は偶然の巡り合わせにより出会い、そしてお互いが大切な存在になっていくのですが……ということ以上のことはネタバレになるので書かないでおきますが、“切ないラブストーリー”としての側面が本作にあること、その関係性こそがエルトン・ジョンの人生の“浮き沈み”にも深く関わっていることはお伝えしておきましょう。

そのバーニー・トーピンを演じるのは実力派のジェイミー・ベル。エルトン・ジョンへの愛情を確かに感じさせるその佇まいは、もはやタロン・エジャトンとのW主演と言っても良いほどのものがありました。その役どころは、ジェイミー・ベルの主演デビュー作『リトル・ダンサー』を観ておくとまた味わい深いものがあるでしょう(その具体的な理由はあえて伏せておきます)。

その他の出演者も、エルトン・ジョンの母に『ジュラシック・ワールド』のブライス・ダラス・ハワード、マネージャー役に実写映画版『シンデレラ』のリチャード・マッデンと実に豪華です。それぞれが記号的でない、複雑な内面を持つキャラクターになっているのも、俳優たちの卓越した演技の賜物でしょう。



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5:普通じゃない人生を描くのにミュージカル以上のものはない!
楽曲の歌詞が物語と絶妙にリンクしていた!


前述した通り本作はガッツリとミュージカル映画です。単純に言って視覚的にも音楽的にも楽しいことはもちろん、その表現はエルトン・ジョンのドラッグやアルコールやドラッグにまみれた、しかし愛情を純粋に求めていた破天荒な人生を描くために“必然”と思えるものでした。

当のエルトン・ジョンも「僕が有名になり始めた頃は、普通じゃない現実離れしている時期だったから、この映画もそういう風に語って欲しかった」と言っていました。その人生は多くの人に夢と希望を与えた一方で、波乱に満ち、時には常軌を逸し、死んでもおかしくないほどの危険とも隣り合わせ……さらには音楽や名声やファッションの世界も入り混じっているのですから、その普通じゃない時期を描くには、ファンタジーと現実が入り乱れるミュージカル以上のものはないはずです(乱暴に解釈をしてしまえば、ミュージカルシーンそれぞれを“ドラッグで見ている幻覚”としてみることもできるでしょう)。

そのような様々な要素が映像および音楽の中に混在している一方で、物語は統制されており、巧みな脚本と演出でグイグイと観客の興味を引くというのも美点です。例えば、映画の始まりではエルトン・ジョンは、その場所にはふさわしくない出で立ちで登場する“信用できない語り手”なのですが、それもまたファンタジーと現実が入り乱れる作劇とリンクし、重要な意味を持つようにもなるという仕掛けにもなっているのです。『ボヘミアン・ラプソディ』と同様に実話とは異なる部分も多いようですが、それはエンターテイメント性を高める手段として十二分に肯定できるものでした。

さらに、劇中では言うまでもなくエルトン・ジョンの様々な名曲が歌われているのですが、それぞれが物語とも絶妙にリンクしています。例えば、序盤の「あばずれさんのお帰り(原題:The Bitch Is Back)」というとんでもない楽曲は(元々はエルトン・ジョン自身の癇癪を表しているも)劇中の母親の気性の激しさを示しており、「I Want Love」は(元々は3度目の離婚を経験したエルトン・ジョンの率直な気持ちを綴ったと解釈できるも)両親および祖母と少年時代のエルトン・ジョンそれぞれの“愛を求めながらもすれ違う”様を表していたりするのです。

その他、(これも言うまでもないことですが)衣装、ヘアスタイリングやメイク、各ミュージカルの振り付けに至るまで、最高のスタッフたちが、最高の仕事をしています。その期待に応えうるタロン・エジャトンの名演と、エルトン・ジョン本人そのものとしか思えない熱唱は、スクリーンで観てこそ真の感動があることでしょう。繰り返しになりますが、エルトン・ジョンを知らなくても問題ありません。その狂瀾の人生と、彼の人間味のある内面を、素晴らしいミュージカルに乗せて展開するエンターテインメントとして楽しみたいという方に、この『ロケットマン』をオススメします。

(文:ヒナタカ)

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