映画コラム
『僕のワンダフル・ジャーニー』は愛犬家以外も必見!実は社会問題も描かれる作品
『僕のワンダフル・ジャーニー』は愛犬家以外も必見!実は社会問題も描かれる作品
© 2019 Storyteller Distribution Co., LLC, Walden Media, LLC and Alibaba Pictures Media, LLC.
前作『僕のワンダフル・ライフ』で、何度も転生して飼い主のイーサンを幸せに導いた、愛犬のベイリー。
彼の新たな活躍を描く続編『僕のワンダフル・ジャーニー』が、いよいよ9月13日から日本でも劇場公開された。
飼い主と愛犬の長年にわたる絆を描いて、多くの観客の感動を呼んだ前作だけに、ベイリーとイーサンのその後の人生がどうなったのか、そして今度はどんな犬に生まれ変わるのか? 個人的にもかなり気になっていた本作。
果たしてその内容と出来は、どのようなものだったのか?
ストーリー
前作『僕のワンダフル・ライフ』で3回も生まれ変わり、ようやく再会できた飼い主イーサン(デニス・クエイド)の元へ、彼の初恋の人ハンナ(マージ・ヘルゲンバーガー)を連れて来た、愛犬のベイリー。
月日が流れ、ベイリーは田舎の農場で、イーサンやハンナと満ち足りた日々を送っていた。
孫娘のCJ(キャスリン・プレスコット)と、その母親のグロリア(ベティ・ギルピン)という新しい家族も加わったが、グロリアは突然CJを連れて家を出て行ってしまう。
夫を事故で亡くしたショックから立ち直れず、イーサンたちとも心が通わなくなってしまったのだ。
そんな中、"犬生"の終わりを迎えようとしていたベイリーは、イーサンから「CJを守るために戻って来てほしい」と頼まれる。
少女から大人へと成長する中で様々な困難に立ち向かうCJの幸せのため、再び何度も生まれ変わり奮闘するベイリー。
今、ベイリーの新たな、そして素晴らしい旅が始まる!
予告編
飼い主と愛犬の強い絆が泣ける!
大ヒットした前作の流れを受けて、序盤は転生を繰り返す犬側の視点から見た人間社会や、ベイリーの悪戦苦闘ぶりがコメディとして描かれる本作。
ただ、今回は主人公が女性に変更されたためか、現実の社会における女性の自立や、その困難さが重要な要素として描かれることになり、次第にコメディから感動の人間ドラマへと変化していくことになる。
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特に、イーサンから孫娘CJの保護を頼まれたベイリーが、転生の度に苦労してCJと再会しながらも、志半ばでこの世を後にしなければならない描写や、転生したベイリーが、家を顧みない母親のために常に孤独と不安を抱えているCJの心の支えとなる描写は、二人で共に過ごした日々の先に待つ"別れの時"の悲しみを、より深いものにしていて実に見事!
今回の続編では、果たしてベイリーはどんな犬に生まれ変わるのか?
その点も本作の見どころの一つだが、どんな犬に転生しても、その度にベイリーの生まれ変わりだと見抜くイーサンとベイリーの絆の強さは、愛犬家にとっては正に理想の関係性と言えるもの。
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愛犬家の方も、そして犬を飼っていない方も、人生を実り多いものにしてくれる"犬"の魅力について考えてしまうことは確実な、この『僕のワンダフル・ジャーニー』。
仕事や日々の生活でストレスを感じている方にこそ、オススメします!
実は現実の社会問題や、人間の複雑な内面を描く作品!
前述したように、序盤は犬の視点から見た人間生活を巡るコメディで観客を引きつけておいて、次第に人間側のドラマへとシフトしていく本作。
人間の言葉で考える犬が転生を繰り返すというファンタジー要素の裏に存在するのは、シングルマザー家庭の厳しい生活や女性の自立の困難さ、更には麻薬問題や保護された犬の殺処分など、実は厳しい現実の中で自分の生きる道を模索する女性の姿や、現代社会の様々な問題点に他ならない。
例えば、麻薬所持の疑いで警察に拘留されたCJが、自身に課せられた社会奉仕活動のために訪れた研究施設で、ガン患者特有の匂いを嗅ぎ分ける犬の訓練を手伝うのだが、この奉仕活動のエピソードが後に重要な伏線となったり、生まれ変わっても毎回本来の飼い主と暮らせる訳ではない点が描かれるなど、ベストセラー小説の映画化だけに、その根幹には現実を踏まえた大人も楽しめる内容がちゃんと存在しているのだ。
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特に今回は主人公が女性に変わったことで、現代社会における女性の自立や夢の実現の厳しさが重要な要素として描かれるのだが、その中でも観客に強い印象を残すのは、やはりCJの母親であるグロリアの存在だ。
一見、本作の悪役としての役割を一身に担ったように見えるグロリアだが、突然夫を事故で失い、自分一人で幼い娘を育てなければならなくなった彼女の不安や、夫の両親に対する対抗意識から次第に孤立していく彼女の弱さなど、複雑なその心境を微妙な表情の変化で表現するベティ・ギルピンの名演技により、彼女を単純な悪役に終わらせていないのは見事!
事実、夫を亡くしてその両親と同じ屋根の下で暮らすことは、彼女にとってかなりのプレッシャーであり、加えて人生経験豊富なハンナには母親として叶わないというコンプレックスや、自分に生活力が無いせいでCJを彼らに奪われてしまうのではないかとの不安から疑心暗鬼に陥り、次第に家族の中で孤立し攻撃的になっていく彼女の変化がきちんと描かれていることで、終盤の彼女の選択がより深い意味を持つことになるのだ。
確かに、まだ小さいCJを家に置いたままデートに出かけたり、CJの進学のための死亡保険金を当面の生活費や自分の浪費に使っていたことが発覚するなど、その行いは決して観客に好意を持って受け入れられるものでは無い。
だが同時に、イーサンたちが家を訪ねて来た時に見せる、懐かしさと罪悪感の入り混じった微妙な表情の変化など、彼女にも悩みや人間的な弱さがあることが描かれることで、彼女が内に抱える葛藤が観客にも伝わることになるのだ。
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その他にも、CJの長きにわたる親友として登場するトレントの無敵の善人ぶりなど、魅力的な登場人物が数多く登場する本作。
犬の名演に負けない彼らの素晴らしい演技は、是非劇場で!
最後に
人間よりも寿命の短い犬だけに、どうしても人間側が犬の最後を看取る場合が多くなり、その後は他の犬を飼わない場合もあるほど、大事な家族の一員を失った悲しみと喪失感は、非常に大きいものがある。
それだけに、死んだ愛犬が全く別の犬の姿に転生して飼い主と再び巡り会うために奮闘するという内容の本作は、正に世界中の犬好きな人々に希望を与える作品と言えるだろう。
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何故なら、新しく家族に迎えた犬が死んだ愛犬の生まれ変わりかもしれない、そう考えることで愛犬との思い出や幸せな記憶が受け継がれ、いつまでも家族の中で生き続けることになるからだ。
自分の"犬生"をかけて、飼い主の幸せのために奮闘してきたベイリーが、最後に得たものとは果たして何だったのか?
鑑賞後に思わずペットショップを覗きたくなる感動のラストが待っているので、全力でオススメします!
(文:滝口アキラ)
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