映画コラム

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2019年12月13日

無声映画の楽しさを知るための「7つ」のポイント

無声映画の楽しさを知るための「7つ」のポイント


7:トーキー時代以後の
サウンド版無声映画


映画に音が入るのが当たり前になって久しい中、時折あえて台詞を配した無声映画スタイルの作品を作ろうと挑戦に乗り出す映画人も多数います(ただし音楽や音響を入れたサウンド版無声映画としてのスタイルが圧倒的多数ではあります)。

たとえばフランスのジャック・タチ監督による“ユロおじさん”シリーズ第1作『ぼくの伯父さんの休暇』(53)はほとんど台詞のないモノクロのパントマイム・スタイルでしたが、全体的にジャック・タチ監督作品は台詞少な目で、ポップな映像センスを駆使してほのぼのユーモアを提示していく傾向があります。調べるとやはり彼は無声映画の大ファンで、シリーズ第2作『ぼくのおじさん』(58)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞して来米した際も、マック・セネットやバスター・キートン、ハロルド・ロイド、スタン・ローレルといった無声映画時代からのスターとの歓談を望み、それを楽しく実現させたとのこと。

アニメーション映画『イリュージョニスト』(10)は、そんなジャック・タチが遺した脚本の映画化でしたが、やはり台詞は非常に少なかったです。

イリュージョニスト (字幕版)



全編台詞なしのアニメーション映画ということでは、スタジオジブリが製作に関与し、高畑勲がアーティスティック・プロデューサーとして参加したマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督の日仏ベルギー合作『レッドタートル ある島の物語』(16)があります。無人島に漂着した男と島からの脱出を阻む赤いウミガメが織り成す数奇な運命を描いたエコロジカル・サバイバル映画でした。

日本映画では現在1000本以上の無声映画フィルム・アーカイヴを所有するマツダ映画社が1979年に新東宝映画の俊才・山田達雄監督を招き、1938年に作られた稲垣浩監督による同名時代劇トーキー映画をカラーのサウンド版無声映画スタイルでリメイクした時代劇『地獄の蟲』があります。主演はオリジナル版で主演を務めた阪東妻三郎の実子・田村高廣でした。

1986年に林海象監督が自費製作で発表したデビュー作『夢みるように眠りたい』はモノクロのサウンド版無声映画で、昭和初期を舞台に誘拐された娘の消息を追うよう依頼された私立探偵(佐野史郎)が、やがてラストシーンを撮れないまま未完となった幻の無声映画の存在にぶちあたるという、ノスタルジック幻想譚です。

邦洋合わせて個人的に最も愛してやまないサウンド版無声映画は、パロディ喜劇の名手メル・ブルックス監督の『メル・ブルックスのサイレント・ムービー』(76)です。

舞台は現代の映画撮影所で、オールスター・キャストの無声映画を作ろうとする往年の名監督(メル・ブルックス)及びその仲間たちが織り成す映画業界内幕ドタバタ奮闘コメディ。

企画のユニークさに賛同したバート・レイノルズやライザ・ミネリ、ポール・ニューマンなど時の大スターが実名でゲスト出演していますが、もちろん彼らにも台詞は一言もありません。

ただしこの映画、フランスのパントマイム・アーテイスト、マルセル・マルソーにだけ一瞬の台詞らしき発声をさせています。“沈黙の詩人”とも謳われた彼にたった一言とはいえ声を出させるとは、さすがはメル・ブルックス監督ならではの遊び心でした。

最近ではアカデミー賞作品賞および主演男優賞(ジャン・デュジャルダン)、衣装デザイン賞の3部門を受賞したフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督作品『アーティスト』(11)が有名なところでしょう。

アーティスト (字幕版)



こちらも『雨に唄えば』同様、サイレントからトーキーへ移行する1927年のハリウッドを舞台に、時代に取り残されていくスター男優と、時代の波に乗っていく新進女優の恋と確執が、台詞を排したモノクロ映画としてロマンティックに綴られていきます。

この作品が話題になったことで、一躍サイレント映画そのものも脚光を浴び再評価されるようになり、日本でも現在各地で弁士による無声映画の上映イベントが定例化されてきています。

その気運を今度の新作映画『カツベン!』がさらに高める結果となり、無声映画の数々の更なる発掘や再発見、ソフト化などが促進される未来が訪れるよう、いち映画ファンとしては祈らずにはいられません。

(文:増當竜也)

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