映画コラム

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2020年02月14日

『1917 命をかけた伝令』レビュー:驚異の全編1カット映像で描かれる戦場の地獄!

『1917 命をかけた伝令』レビュー:驚異の全編1カット映像で描かれる戦場の地獄!



戦場の臨場感を体感させる
究極の戦争映画!


かつて映画が35ミリ・フィルムで撮影されていた20世紀の時代は、一度に10分前後しかフィルムを回すことができなかったため、長編ものを全編1カットで撮ることは事実上不可能でした。
(もっとも撮影フィルムのお尻と次のフィルム頭で黒い背広を撮るなどして、巧みに双方を繋ぎ合わせながら80分1カット映像を実現させた、アルフレッド・ヒッチコック監督の1948年度作品『ロープ』みたいな作品も存在しています)



それがデジタル技術の発展で2時間以上の撮影も可能となり、これによって『エルミタージュ幻想』(02)や『ヴィクトリア』(15)、『ウトヤ島、7月22日』(18)などの全編1カット撮影の意欲作が生まれることになりました。

日本でも『カメラを止めるな!』(18)のゾンビ映画シーンおよそ37分を1カットで撮影したことが大きな話題になりましたね。

もっとも、これらは本編の上映時間がほぼ劇中の時間の流れとリンクして描出されているわけですが、『1917 命がけの伝令』はおよそ24時間の時の流れを2時間弱の上映時間の中で描いています。

これは1か月の時の流れを75分1カット撮影で描いてみせた日本映画『アイスと雨音』(18)とも同等の実験的試みともいえるでしょう。

もっとも『1917』は全編を1カットで撮影するのではなく、実は『ロープ』のような巧みな撮影技術と特殊効果、編集テクニックで複数回撮られた長回し映像を繋ぎ合わせ、あたかも全編1カットで撮影したかのような印象をもたらす手法が採られています。

これは『バードマンあるいは(無知がもたらす良きせぬ奇跡)』(14)の手法とも共通するものがありますが(この作品もアカデミー賞作品賞や撮影賞など4部門を受賞)、『1917』の場合はさらに戦闘や爆破シーンなど危険で大掛かりな撮影も多い分、一度NGを出すと予算や時間のロスも多大なものになるという過酷なリスクを覚悟で制作されています。

単に実験精神旺盛というだけでは済まされない規模の超大作に、『アメリカン・ビューティー』(99)や『ジャーヘッド』(05)『007スカイフォール』(12)などで知られる名匠サム・メンデス監督があえて挑戦したのは、戦場の最前線を主人公らと一緒に駆け抜けているような臨場感をもたらしたかったからとのこと。
(ちなみに本作のストーリーは、メンデス監督が祖父から聞いた実話を基に構築されています)

またこういった実験的作品の場合、どうしても技法そのものが先に目について映画そのものに没頭できなくなることもままありますが、本作の場合いつのまにかこれが1カット映像であることを忘れさせるほど、見る側と主人公らの目線がシンクロしていきます。

ここにこそ今回の撮影監督ロジャー・ディーキンス(これまで13回以上もアカデミー賞撮影賞の候補に上り、2017年の『ブレードランナー2049』で見事オスカーを獲得)が数多くの撮影賞を受賞するに至る最大の理由とも断言できるでしょう。

実は私自身、どのシーンで映像が繋ぎ合わされているかをチェックしようと思いながら鑑賞に臨み始めたものの、すぐさまそんなことなどどうでもいいかのように映画そのものにのめりこんでいました。
(その意味では『ダンケルク』でアカデミー賞を受賞したリー・スミスの編集も、もっと評価されてしかるべきでしょう)

それは即ち、死と隣り合わせの生に執着してもがき苦しむ戦場の兵士たちの地獄そのものです。

映画は作る側の思想と、それを具現化させる技術が融合することによって初めて成し得るものであり、『1917 命をかけた伝令』こそはそれを見事に証明した傑作であると強く訴えたいところです。

今、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞作品賞など4部門を制覇したことが世界的な話題になっていますが、2月14日(金)に日本上陸する本作のこともくれぐれもお忘れなく!

(文:増當竜也)

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