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さまざまな『火の鳥』映像化作品から手塚治虫ワールドを仰ぎみたい!

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デジタル配信に加入して、そのラインナップはいかがなものかとカチカチ調べていると、DVDなどソフト化されてない意外なものも入っていたりして、思わず「WAOH!」と叫んでしまうときがあります。

現在U-NEXTで鑑賞可能な『火の鳥』(78)もその1本で、未だにソフト化されない幻ともいえる作品だっただけに(ただしBSやCSでは幾度かTV放送されています)、久々の再会に心躍りました……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街469》

そんな個人的喜びを胸に、今回は今までどのような『火の鳥』の映像化が成されていったかをざっと検証していきたいと思います。

デジタル配信されていた
市川崑監督版『火の鳥』


『火の鳥』は漫画界の巨匠といった域をも優に超えた偉大なるクリエイター手塚治虫のライフワークとも呼ばれる名作シリーズです。

不老不死で、過去から未来まで地球や宇宙を飛び回りながら、人間の残酷で哀しいまでの業を冷徹に見据え続ける“火の鳥”。

その血を飲めば永遠の命を得られるということから、火の鳥を手に入れようとする者も多く、それゆえの醜い争いももたらされていきます。

漫画シリーズの詳細を語りだすとそれだけで文字数がとられてしまうので割愛しますが(あれこれググっていただければ、すぐにわかります)、そんな『火の鳥』の最初の映像化は1978年。

《黎明編》を原作に、実写とアニメを融合して描いたものでした。

舞台は古代ヤマタイ国の時代、女王ヒミコ(高峰三枝子)が永遠の命を得るべく火の鳥の捕獲を命じたことから、さまざまな立場の者たちが運命に翻弄されていくさまが赤裸々に描かれていきます。

監督は巨匠・市川崑で、もともとアニメーションの仕事から映画界入りしていた彼は『火の鳥』映画化を宿願のひとつとしており、実写&アニメを融合させて壮大な世界を描くことに腐心。

当時、市川監督は金田一耕助シリーズが人気を博しており、高峰三枝子(『犬神家の一族』76)、若山富三郎(『悪魔の手毬唄』77)、大原麗子、ピーター(『獄門島』77)、仲代達矢、伴淳三郎、沖雅也(『女王蜂』78)などシリーズで印象深い名演を見せたキャストや、大滝秀治、草笛光子、加藤武などシリーズに欠かせない常連俳優も大挙出演しています。

また本作で初めて市川映画に出演した草刈正雄は、続いて金田一シリーズ第5作『病院坂の首縊りの家』(79)にも出演することになりました。

さらには子役時代の尾美としのり(当時は尾美トシノリ)がナギ少年という重要な役柄で登場し、明るく大らかな存在感を画面からはちきれんほどに放ち得ています。

脚本は詩人の谷川俊太郎で(市川映画『股旅』73脚本も担当しています。また実子の谷川賢作は、80年代半ば以降の市川映画音楽の担い手として活躍)、スタッフは撮影・長谷川清をはじめ金田一シリーズでおなじみの面々が多数参加。

音楽は『シェルブールの雨傘』(63)などの名匠ミシェル・ルグランにテーマ曲を依頼し、彼が構築した《交響組曲火の鳥》をベースに深町純が劇中曲を作曲。本編未使用ではありますが、ルグラン作曲、谷川作詞の主題歌を松崎しげるが熱唱しています(万民には出せないほど高音域の声質を必要とする、松崎しげるでないと歌い上げるのは困難な難しい歌です)。

特技監督は円谷英二の技術を継承する『日本沈没』(73)などの中野昭慶、アニメーション演出は戦後の国産アニメ黎明期を大きく担った鈴木伸一(藤子不二雄の漫画作品によく登場するラーメン大好き「小池さん」のモデルとなった人物でもあります)。

そして原作者の手塚治虫自身がアニメーション総指揮を担当。

これだけの布陣を構えた超大作ながら、78年8月の夏休み映画として公開された本作は、当時批評的にも興行的にも今一つ弾けませんでした。

理由はさまざまで、市川監督は本来『獄門島』を撮り終えて『火の鳥』に邁進する予定だったのが、東宝からもう1本金田一シリーズの新作を請われて、結果として『女王蜂』と掛け持ちで制作にあたってしまったこと。
(『女王蜂』も松林宗恵を協力監督に迎えて撮影され、78年2月に公開されましたが、シリーズ前3作ほどの評価は得られませんでした)

実写とアニメーションの融合のバランスが今一つで、またアニメの狼が突然ピンクレディーの《UFO》を踊りだすなどのおふざけに観客が白けてしまったこと。
(これは手塚漫画の中ではよく見られる、緊迫したドラマの中の箸休め的な表現ではあるのですが、それをそのまま映像に転化させようとしたところに無理が出た。何せ、鉄腕アトムまで唐突に登場しますので……)

火の鳥は全編アニメで表現されるかと思いきや、ところどころぬいぐるみになる箇所があり、そこで見る側の緊張が一気に醒めてしまう……。

公開された1978年の夏は『スター・ウォーズ』(77)が日本公開されて一大SFブームが巻き起こり、一方では『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の大ヒットで国産アニメーション映画ブームが盛り上がりを示していた時期であったにも関わらず、本作はSFブームにもアニメ・ブームにも引っかかり切れないまま、中途半端な印象をもたらすことになってしまった。

何よりも市川監督自身が、後に本作を失敗だったとメディアで語ってしまった……!
(ちなみに本作には、金田一シリーズの主演・石坂浩二が出演していません。彼は大の手塚ファンで、『火の鳥』実写化はどんな名匠が撮っても絶対に失敗すると予見し、オファーを断っていたのでした)

とまれこうまれ、総じて手塚ワールドの映像的変換が上手くいかなかった作品として、本作は長らく市川映画の黒歴史的扱いを受けがちでした。

昔から日本映画界は「古代を舞台にした作品は失敗する」といったジンクスがありますが、本作もその呪縛から解き放たれなかった印象があります。

しかし、漫画原作の実写映画化がブームになって久しい現在の目線で本作を見直すと、今の日本映画には欠けがちな壮大なスケールと豪華キャストによる大作感、金田一シリーズでもおなじみ明朝体文字の挿入も含めた劇中の遊び心など、それはそれで楽しく見られる部分も多々あるのでした。

四角や三角などの分割画面は、現在の若い映画ファンには昨今流行りのリモート映画の先駆けみたいにとられるかもしれません。

『火の鳥』シリーズの中で常に象徴的役割を果たす猿田彦の巨大な華を漫画チックに再現した特殊メイクも微笑ましく、又そんな人物を喜々と演じているかのような名優・若山富三郎と尾美トシノリの疑似親子のような関係性も印象的です。

わざと醜女の化粧を施して生き抜く美女(由美かおる)、男装してヒミコを暗殺しようとする少女(風吹ジュン)など、男尊女卑的世界観の中で必死に立ち回る女性たちの生きざまも、手塚ワールドならではでしょう。

実はこの作品が成功したら、続いて映画版第2部(《未来編》《宇宙編》《復活編》《望郷編》を総括した内容)を長編アニメーション仕様で映画化する構想もありましたが、本作の興行的不振によって中止となりました。

しかし、それからおよそ2年後の1980年春、『火の鳥』は新しい形で長編アニメーション映画化され、お披露目されるのです。

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