あなたに役立つ映画・ドラマのプラスαがあるメディア「シネマズプラス」

©cinemas PLUS Committee. All Right Reserved.

2020-08-10

コラム

『鬼手』囲碁こそ最強格闘技!100人同時対局だけじゃない「3つ」の見どころ!



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



第19回:『鬼手』

今回ご紹介するのは、8月7日から劇場公開中の新作韓国映画『鬼手』(キシュ)です。

2015年に日本公開された囲碁アクション映画『神の一手』のスピンオフとなる内容ですが、前作でその姿を見せなかった伝説の棋士グィスを主人公に、主演のクォン・サンウ以下、出演キャストを一新して新たな物語が展開する本作。

『神の一手』の評価が高かっただけに本作への期待も高まるのですが、囲碁のルールや知識がないと楽しめないのでは? そんな印象が強かったのも事実。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか。

ストーリー


父が自ら命を絶ち、母にも捨てられた貧しい少年グィス(クォン・サンウ)は、最愛の姉まで失って天涯孤独の身になってしまう。 そんなグィスが地獄のような現実を生き抜く唯一の術は、生前の父から伝授された囲碁だった。片手のない一匹狼の棋士ホ・イルド(キム・ソンギュン)に、その才能を見込まれたグィスは、山寺での猛特訓によって類いまれな潜在力を開花させ、 心身共にたくましい大人へと成長。 やがて下山し裏社会のスゴ腕棋士たちと次々と死闘を繰り広げ撃破していく。 そしてついに、姉を死に追いやった冷酷な最強棋士ファン・ドギョンへの復讐を果たすため、人生のすべてをかけた最後の闘いに身を投じるのだった…。


予告編




見どころ1:『神の一手』を超える強烈なライバルたち!



囲碁の世界を舞台にした作品と聞いて連想するような、碁盤を挟んで二人の男が対局する地味な展開ではなく、鉄橋の上で繰り広げられる早指し対決のサスペンスや、負けた側に加えられるトンでもないペナルティなど、常識を超えた対決シーンの連続で最後まで目が離せない、この『鬼手』。

実際こうした演出のおかげで、動きの少ない対局シーンでも緊張感が途切れることなく楽しめるのですが、加えて主人公グィスの行く手を阻む個性的なライバルたちの存在も、本作を大いに盛り上げてくれるのです。



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



実は『神の一手』にも、視覚障がい者でありながら囲碁の達人であるジュニムや、賭け試合に負けて片手を失ったモクスといった、個性的なキャラクターが登場するのですが、本作の登場人物はそれらをはるかに超える強烈な個性と顔面圧力の持ち主ばかり!

中でも観客の印象に残るのは、やはり霊能力を持つ凄腕の棋士"長城の占い師"との対決でしょう。

オカルト戦法で敵の心を乱し、負けた相手の片手を切り落とすこの男は、グィスの師匠イルドの手首を切り落とした張本人なのですが、師匠の復讐を賭けた二人の対決シーンには、まさに映画だからこそ成立する仕掛けや演出が盛り込まれていて必見!

ホラー演出としてもよく出来ているこの対決シーンは、ぜひご自分の目でご確認頂きたいのですが、ひょっとしてモクスが片手を失ったのは"長城の占い師"と対戦して負けたからでは? そんな想像ができる点も、スピンオフ作品ならではの楽しみ方と言えるでしょう。



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



"長城の占い師"を演じるウォン・ヒョンジュンの強烈な存在感と演技も見ものですが、彼が連続殺人鬼を演じて注目されるきっかけとなった韓国ドラマ『憑依~殺人鬼を追え~』がNetflixで配信中なので、興味を持たれた方はそちらもぜひチェックして頂ければと思います。

この他にも、短時間で決着をつける高速囲碁を得意とする"釜山の雑草"(ホ・ソンテ)や、グィスとの過去の因縁によって"殺人棋士"へと変貌を遂げたウェトリ(ウ・ドファン)など、個性的なライバルたちが次々と登場することでグィスの実力が際立つことになる、この『鬼手』。

少年時代のグィスと強い因縁で結ばれたウェトリが仕掛ける、囲碁デスマッチに登場する奇妙なギミックなど、まさに囲碁版『カイジ』とも呼べる熱く濃いゲームが展開する作品なので、ぜひ劇場で!



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



見どころ2:圧巻の1対100の同時対局!



賭け碁の世界に生きる男たちの物語だけに、やはり本作の見どころは主人公グィスが繰り広げる数々の対局シーン!

前述した個性的なライバルとの対戦を経て、ついに姉を自殺に追いやった宿敵ファンとの対決に臨むグィスですが、ファンと対局するために、まず空手の百人組手ならぬ囲碁棋士100人との同時対局に勝利しなければならないという、あまりに不利な状況が用意されているのは見事!



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



この圧倒的に不利な状況から、果たしてファンに勝つことが出来るのか? その勝敗の行方に加えて、更にグィスを窮地に追い込む状況が用意されていることで、圧倒的な実力を見せてきたグィスの勝利が揺らぐことになる点も、実に上手いのです。

こう書くと、碁盤を挟んで座ったままの対局が延々続いたり、囲碁のルールや知識がないと楽しめないのでは? そう思われるかもしれませんが、前作『神の一手』と同様、囲碁の知識に関わらず最高に楽しめるエンタメ作品なので、ご安心を!




例えば『神の一手』では、主人公テソクが囲碁対局で勝つための修行よりも、むしろ復讐のために刑務所内でケンカのやり方を教わったり、最終的に囲碁でなく普通に格闘で相手を倒すなど、アクション映画としての側面が強かったのですが、本作でもグィスが厳しい修行を重ねて強くなっていく様子が、まるでカンフー映画の修行シーンを思わせるなど、もはや囲碁は格闘技! 観客がそう思わずにはいられない展開が待っているのです。

後述する独創的なアクションシーンに負けない、観客の予想を超えた囲碁バトルの内容や、因縁の敵ファンとの決着は、ぜひご自分の目でご確認頂ければと思います。

見どころ3:長編映画デビュー作とは思えない監督の演出力!



今回が初の長編映画デビュー作となるリ・ゴン監督の演出力と奇抜なアイディアによって、誰もが楽しめる最高のエンタメ作品に仕上がった、この『鬼手』。

『神の一手』でも、冷凍室の中でお互い上半身裸になっての囲碁バトルという奇抜なアイディアが登場するのですが、本作でもイルドの命を奪った"釜山の雑草"との対決や、前述した"長城の占い師"との死闘など、本来は座ったまま展開する囲碁対決に観客が釘付けになる、素晴らしい演出が用意されています。

更に囲碁対局だけでなく、アクションシーンでも前作に負けない新しい試みが次々に登場する本作。

中でも、グィスと敵がトイレの中で繰り広げるアクションでの"明かり"の使い方は見事!



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



更にウェトリが使う碁盤のギミックや、グィスとファンの実力の差を観客にビジュアルで納得させる"ある仕掛け"など、今まで観たことのないアイディアや演出の連続に、最後までワクワクしながら鑑賞できる作品に仕上がっているのです。

実際、映画だから成立する描写やアイディアを恐れることなく盛り込んだそのケレン味たっぷりの演出は、とてもこれが長編監督デビュー作とは思えないもの。

加えて、賭け試合のマッチングを担当するトンのコメディリリーフ的存在が、壮絶な復讐劇のアクセントとなっている点も、実に上手いのです。

"長城の占い師"との対局で見せたホラー演出に、この監督のホラー映画が観たい! そう思わずにはいられなかったリ・ゴン監督の次回作を、期待しながら待ちたいと思います。

最後に


注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

賭け試合の八百長がバレて身近な人間が殺され、そこから壮絶な復讐劇が始まったり、強烈な個性の敵役が加える生理的にイヤな拷問・残酷シーン、更には才能のある子供を囲碁の達人に育て上げるなど、『神の一手』の要素をちゃんと残しながら、前作をはるかに超える大エンタメ作品に仕上げられた、この『鬼手』。



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



主人公が敵の組織への復讐のためにチームを編成したり、刑務所で知り合った裏社会のボスに資金援助を頼むなど、『コンフィデンスマンJP』のような集団詐欺師映画の側面が強かった『神の一手』に対し、本作ではグィスの厳しい修行や、次々に立ちはだかる強敵との囲碁対決がメインで描かれることで、囲碁によって人生を狂わされた人々の悲しみが見事に表現されています。

加えて、姉の復讐に燃えるグィスもまた他人から恨まれ復讐される存在であるなど、"終わらない復讐の連鎖"も本作の重要なテーマとして描かれているのは見事!

実は前作『神の一手』では、本作の主人公グィスは姿を見せてはいません。『神の一手』の主人公であるテソクが刑務所の独房に入れられた際、隣の監房から壁を挟んで、テソクと囲碁の勝負を続ける謎の人物として登場するのですが、直接この二人が対面することはないため、その容姿や外見は謎のままなのです。

それだけに、今回グィスのキャラクターを見事に確立したクォン・サンウの存在は、本作を成功に導いた大きな要因と言えるでしょう。



© 2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED



ただ、父親の仇であるグィスへの復讐に燃えるウェトリが、どうやって囲碁の腕を磨いたのか? この部分がほとんど描かれないため、単にファンとの対決にハンデを負わせるための登場に見えてしまったのは残念!

せっかくの"殺人棋士"という魅力的なキャラクターだけに、二人の決着が実力によるものか、それとも偶然によるものだったのか? この点をもっと明確に描いてくれればよかったのに、そう思えたのも事実なのです。

とはいえ、『神の一手』での独房の壁を挟んだ囲碁対決を再現しながら、同時にグィスがなぜ頭の中だけで対局することが出来たのか? その理由を同時に描くなど、前作にリスペクトを捧げながらも、全く新しい囲碁アクションの世界を確立させた、この『鬼手』。

もしも第3作目が実現するとしたら、プロの棋士でありながら兄の復讐のために賭け碁の世界に足を踏み入れたテソクと、賭け碁の世界で腕を磨き最強のプロ棋士を破ったグィスの対決を観たい! 鑑賞後にそう思われた方も多かったのではないでしょうか。

なぜ『神の一手』でグィスが刑務所に入っていたのか? など、今後の展開が楽しみな超エンタメ作品なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)