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2020-09-07

コラム

『26年』実在の元大統領を暗殺せよ!光州事件のその後を描く「3つ」の見どころ!




第24回:『26年

今回ご紹介するのは、Netflixで配信中の2012年製作の韓国映画『26年』です。

非常にシンプルなそのタイトルからは、内容やストーリーが想像しにくいのですが、実は韓国映画ファンなら何度も映画で目にしたはずの、ある重大事件の26年後を描いた問題作なのです。

韓国での公開時には、公開1週間で観客動員数100万人を突破する大ヒットを記録しながら、なぜか日本では劇場未公開、ソフトも未発売に終わってしまった本作。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


ヤクザのクァク・ジンベ(チン・グ)、女子射撃競技の韓国代表選手シム・ミジン(ハン・ヘジン)、警察官のクォン・ジョンヒョク(イム・スロン)の3人は、警備会社社長のキム・ガプセ(イ・ギョンヨン)と秘書のキム・ジュアン(ペ・スビン)の呼びかけによって集められる。一見何の関係もないように見えた3人だが、実は光州事件の犠牲者遺族という共通点があった。
彼らと同様、光州事件によって人生を狂わされたキム親子の目的はただひとつ。虐殺の元凶である“元大統領”(チャン・グァン)を暗殺し、事件の犠牲者と遺族の恨みを晴らすこと。厳重な警備によって保護されている“元大統領”を暗殺するため、緻密な計画が進められていくのだが、果たして彼らの復讐の結末は?


見どころ1:今も消えない光州事件の傷跡が描かれる!



映画『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』で、日本の観客に強烈な印象を残した光州事件(1980年5月に韓国の光州市を中心に起きた、民主化を求める民衆の反政府デモに対して軍が行った武力弾圧)。




この事件で家族を奪われた遺族たちの、26年後の復讐を描いた人気WEBコミックを原作に、光州事件が今も人々の人生に深い傷跡を残している現実が描かれる本作。

1996年に軍事クーデターや光州事件への関与で逮捕・起訴され、一度は死刑判決を受けたにも関わらず特赦を受け、厳重な警備の中で生活を保障されている元大統領・全斗煥(チョン・ドゥファン)が暗殺のターゲットとなるのですが、現在も存命中の重要人物という理由からか、映画の中で全斗煥という実名が一切登場しないのは残念!

でも大丈夫、実際本編中でも"あのお方"とか"元大統領"としか呼ばれないのですが、その外見があまりにソックリなので、この人物が全斗煥その人であることは、誰の目にも明らかなのです。

ちなみに、全ての悲劇の元凶とも言えるこの人物を見事に演じたチャン・グァンは、『トガニ 幼き瞳の告発』で校長を演じた名優。それだけに、ついに犠牲者遺族たちと対峙した際の存在感や憎らしさが、より際立つことになるのは見事!

中でも強烈な印象を残すのは、元大統領の外出時に専用車がスムーズに通過できるように、担当の警察官が手動ボタンで信号を青に切り替えるという描写でしょう。このシーンだけで、いまだに権力を握っている元大統領の巨大さが観客に伝わり、犠牲になった人々の無念が晴らされて欲しい! そう考えずにはいられなくなるからです。

この1980年の光州事件が、大統領直接選挙制を求める大規模な民主化運動となった、後の六月抗争(1987年)へと繋がることになるのですが、本作で光州事件に興味を持たれた方は、その後の韓国の民主化運動の行方を描いた『1987、ある闘いの真実』も、ぜひご鑑賞頂ければと思います。




見どころ2:過去の因縁で結ばれた、魅力的な登場人物たち!



光州事件に巻き込まれて家族を失った子供たちが成長し、事件の首謀者である元大統領への復讐に立ち上がる、この『26年』。

それだけに、辛い過去に苦しみながら正義の行動を起こそうとする登場人物たちの存在は、本作の大きな見どころとなっています。

例えば、銃撃戦の流れ弾で母親を失い、26年後に父親までも失ってしまった射撃競技の韓国代表選手であるミジンや、自分を逃がすために犠牲となった姉の幻影に、今も苦しめられている警察官のジョンヒョク、そして父親が軍に惨殺されたことで精神を病んでしまった母親を抱えながら、裏社会でのし上がっていくジンベなど、事件の犠牲者たちの次の世代にまで影響が及んでいる現実には、驚きを感じずにはいられませんでした。

更に、ジンベの恩人でもあるヤクザの組長の男気にあふれた行動や、危険を顧みずジンベに協力を申し出る子分たちの存在が、あまりに無責任な元大統領と見事な対比を見せることで、人間の真の価値が職業や社会的地位では判断できないことが描かれる点も、上手いのです。

加えて、暗殺計画の立案者であるキム会長親子の関係性は、光州事件という悲劇の中でも人間の良心が失われなかったという事実を表現していて、実に見事!

こうした実行犯側の人々と並んで観客に強烈な印象を残すのは、何といっても元大統領の警備責任者であるマ室長の存在でしょう。まるで実写版ゴルゴ13のような外見の彼の過去や、キム会長との意外な因縁はぜひ本編でご確認頂きたいのですが、同じ鎮圧軍として光州事件に関わりながら、自身の良心に従って犠牲者の無念を晴らそうとするキム会長と、過去の行いが軍人として正しかったと自分に納得させるため、事件の首謀者である元大統領を警護するマ室長の姿は、光州事件が加害者側の人生をも狂わせてしまった事実を観客に伝えるもの。

それだけに、単に被害者が加害者に復讐するという構図ではなく、多くの人々の声なき声を元大統領に伝えることを第一の目的としたキム会長の計画には、生き残った者が成すべき使命が見事に描かれている、そう感じずにはいられませんでした。

犠牲者遺族が総力を挙げて決行した暗殺計画は、果たして成功するのか? 観る人によってさまざまな受け取り方ができるその結末は、ぜひご自分の目で目撃して頂ければと思います。

見どころ3:果たして、暗殺計画の結果は?



注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

1980年に発生した光州事件。その犠牲者遺族の壮絶な復讐を描いて大きな話題を呼んだWEBコミック「26年」は、2008年頃から過去4回ほど映画化の計画が持ち上がったものの、実在の元大統領の暗殺計画という過激な内容から全て実現することはなく、いつしか幻の映画作品となっていました。

やっと映画の製作がスタートしても、度重なる監督の降板やスポンサーの撤退による資金難などで製作は難航。最終的に一般からのクラウドファンディングによって完成するという、まさに映画で描かれた暗殺計画並みの困難を経て生み出されたのが、この映画『26年』なのです。

こうして一般からの資金によって製作されたことで、さまざまな制約から解放されて完成した本作ですが、さすがに元大統領の実名は出せず、本編中でも"あのお方"や"元大統領"と呼ばれるに留まっているのは残念!

その他にも、映画の冒頭に登場する光州事件での虐殺シーンをアニメで表現することで、残酷なシーンに観客が拒否反応を起こさないような配慮が加えられているなど、この作品を多くの人々に届けようとする制作側の想いが伝わってくる内容となっているのです。

キム会長親子のバックアップにより、元大統領の暗殺計画は次第に進められていくのですが、あるメンバーの独断的な行動により、せっかく準備した計画は破綻してしまうことに…。

この失敗によって更に結束を固めた遺族たちは、ジンベの子分たちの協力を得て再び元大統領への暗殺に挑むのですが、犠牲者遺族の個人的な恨みや復讐だけではなく、当時弾圧する側に回った人々の複雑な想いが絡んで、ラストの暗殺実行へとなだれ込む展開は見事!

多くの人々の想いをのせて決行した暗殺計画は、果たして成功するのか? その結末はぜひご自分の目で目撃して頂きたいのですが、実際の元大統領が現在も存命中な事実を踏まえれば、本作での微妙な結末も仕方がないところかもしれません。

ただキム会長の当初の目的が、光州事件での軍による鎮圧を命令した張本人にも関わらず、罪を認めず償わないままの元大統領が自分たちに謝罪するかどうか? それを確かめることだった点を踏まえれば、単純に元大統領が暗殺されて観客の溜飲を下げさせる結末ではなく、現実に生き続けている元大統領と、彼の責任を追及する人々の闘いに終わりがないことを象徴した、名ラストシーンと言えるでしょう。

上映時間135分の長編ということで鑑賞を躊躇してしまいそうな本作ですが、実は後述する理由によりエンドクレジットが10分以上続くため、本編自体は2時間程度なのでご安心を!

最後に



タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』や『1987、ある闘いの真実』『ペパーミント・キャンディー』など、過去に多くの作品で描かれてきた光州事件が、直接の犠牲者だけでなく遺族たちの人生を狂わせてしまったことが描かれる、この『26年』。

犠牲者遺族による元大統領の暗殺計画を通して、その責任を徹底して追及する内容には、この重大事件を過去のものにしない! という人々の強い想いが込められている、そう感じずにはいられませんでした。

実際、クラウドファンディング参加者の膨大なリストが、10分以上にわたって登場する本作のエンドクレジットは、今もなお残る韓国の人々の事件に対する怒りと、映画製作実現への願いや応援の強さを見事に象徴しているのです。

ただ、やはり実在の人物への暗殺計画が描かれる内容ということもあり、肝心の暗殺計画が成功か失敗か? その決着が明確にされないままで終わる展開には、少なからず物足りなさを感じたとの感想やレビューが、ネット上で散見できたのも事実。

とはいえ、観客の想像に委ねるラストを選択したことで、直接の犠牲者やその遺族にとって事件がいまだに終わっていないことが強調され、鑑賞後の余韻が更に深まる点は評価すべきでしょう。

一人でも多くの方に観て頂きたい問題作に仕上がっているので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)