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『窮鼠はチーズの夢を見る』レビュー:大倉忠義&成田凌が体現する自然体の愛



タブーを超越した自然体の
ラブ・ストーリーの力強さ


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正直なところ、同性愛を題材にしたものは、個人的にちょっと不得手なところがありました(特に男性同士のものは……)。

しかし、ここ10年ほど、BL(ボーイズ・ラブ)的要素の強いアニメーション作品を仕事で多数見る機会が増えてきたこともあって、次第にそうした偏見は薄れ、今では性の別なく美しいものは美しい、麗しいものは麗しい、それで良いではないかといった意識を普通に抱けるようにもなってきています。

もっともそれはアニメなど二次元作品の場合が主で、これが三次元たる実写になると、どんなに優れた出来の海外作品でも、なかなか偏見の意識が抜けきれない憾みが自分自身の中にはあったことも告白しておきましょう。

ところが、そういった偏見はこの『窮鼠はチーズの夢を見る』で完全に払拭されたと、堂々と宣言できます。

つまりはこういった世界に苦手意識を持つ人をも虜にし、旧来の意識を払拭する魅力を備えた作品、それが『窮鼠はチーズの夢を見る』なのです。

ここでは異性同士とは「何か」が確実に違う同性同士の愛を、それゆえに苦しくも愛しいといったスタンスで一貫して描出されており、そこには興味本位とか嘲笑的な要素は微塵もありません。

そういえば今年の初め、吸血鬼に血を吸われた者が同性愛者になるという日本のパニック・ホラー・コメディ映画が大炎上して公開中止運動まで巻き起こりましたが、本作はそういった次元の映画作りなどとは真逆の、人が人を愛し、それゆえに悩み苦しむことに同性も異性も関係ないことにこそ着目しながら、ごくごく当たり前のように男と男のラブ・ストーリーを展開させていきます。

もはやLGBTを“問題”と称することすら違うのではないかと言わんばかりの、作り手による自然体の姿勢には溜飲が下がる想いでもあります。

一方で、同性愛と異性愛との相違をも言及すべく、この主人公カップルの前には幾人かの女性たちが現れては、時に赤裸々で、時にしたたか、そして時に哀しいバトルも繰り広げていきますが、そのことで不謹慎かもしれませんが「愛の世界とはかくも深くて面白く興味深いものであるのか!」といったことまで痛感させられてしまうのでした。

現実的に世の中には今なお、人それぞれのさまざまな愛のタブーが存在するのも事実です。

同性愛、SM、ロリコン、ショタコン、シスコン、ブラコン、マザコン、ファザコン、部分フェチ、年齢が離れていればいるほど燃えて萌える……その他いろいろありますね。

しかしながら、こういった要素のものが悪しきタブーの枠を打ち破り、ごくごく自然な愛の形の一つとして語られるようになっていけたとしたら、ラブ・ストーリーこそはこの世で最大的に力強くも美しく、面白くも深く、恐ろしいまでに魅惑的なものとして映えていくのではないかと、この映画を見ながら思えてなりませんでした。

大倉忠義は、受け身で成立してしまう異性間の恋愛をずっと享受してきたがゆえに、突然の後輩からの愛の告白によって何某かの愛の意識が変革していく恭一を、一方で成田凌扮する今ヶ瀬はあたかもメフィストテレスのように恭一を見知らぬ世界へ誘いつつ、時に女性的な、時に男性的な両面を巧みに醸し出しながら、嫉妬も含めた純粋な愛の道を突き進んでいきます。

たとえば今年の主演男優賞でどちらかを選べと言われても「それは無理!」と拒絶してしまうほどの双方の名演と存在感は、この手のジャンルのものは苦手という人の意識も大きく変えてくれること必至。

劇中、彼らによる激しいラブシーンも存在しますが、それも単に「美しい」の一言では済まされない、あくまでも映画的魅惑を湛えた濃密な愛の形として描出されていて(その対比として最初に大倉×小原徳子のラブシーンが設けられているのも、巧みな計算のように思えます)、そうこう考えていくうちに行定勲監督が本作を、彼が今まで手掛けてきた異性間のラブストーリーと何ら変わらない姿勢で取り組んでいることにも改めて唸らされます。

昭和の時代から成瀬巳喜男を筆頭に、愛を描くに長けた名匠&巨匠は幾人か存在しますが、少なくとも行定監督こそは令和の世でその筆頭として讃えたい、その証左となるにふさわしい秀作と言えるでしょう。

また20世紀までは表立ってのスキンシップがははばかられていたであろう同性同士の愛情表現が、ソーシャル・ディスタンスが叫ばれるコロナ禍の今、かくも大胆かつ堂々と、そして美しくも濃密なる最接近の「密」として奏でられていることも、偶然か必然かといった映画と時代のランデブーがもたらした奇跡のように思わずにはいられません。

(文:増當竜也)


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