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2020-11-14

コラム

『ホテルローヤル』レビュー:日本独自の環境“ラブホテル”に集う人々の凱歌

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 (C)桜木紫乃/集英社 (C)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会 



ラブホテル(ラブホ)を知ってますか? 

……などと、いきなり身も蓋もないようなことを書いてしまいましたが、ではラブホを経営している人やその家族、そして働いている人のことについて、どれだけ知っていますか?

また、そこを訪れるお客さんたちにも、実はそれぞれのドラマがあるということに、想いを馳せてみたことはありますか?

本作『ホテル・ローヤル』は、そんなラブホに関わる人々たちの人生を描いたものなのです。

そして、その語り部となっていくのは……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街520》

波瑠扮するラブホ経営者の娘なのでした!

若きヒロインの目で
見据えたラブホの内情


 (C)桜木紫乃/集英社 (C)2020映画「ホテルローヤル」製作委員会 



『ホテル・ローヤル』の原作は、2013年に第149回直木賞を受賞し、累計発行部数90万部を超えるベストセラーとなった桜木紫乃の同名小説です。

実際に北海道・釧路湿原を背にしたラブホテル経営者の娘として育った彼女の自伝的要素の強い七編の連作小説が、ヒューマニズムあふれる群像劇として映画化されたのです。

あるとき、釧路湿原近くの廃墟の中に若いカップルが侵入し、そこで投稿ヌード写真を撮り始めました。

その建物は、かつてラブホテルでした。

ではなぜ、今は廃墟と化しているのか……。

映画は過去へと遡っていきます。

高校3年生の雅代(波瑠)は、ラブホテル“ホテル・ローヤル”を経営する大吉(安田顕)とるり子(夏川結衣)の一人娘です。

美大受験に失敗した彼女は、もはや卒業後は家業を手伝うしか選択肢がないように追い込まれていました。

父はパチンコ三昧でなかなか家に帰らず、母親は若い酒屋の配達員・坂上(稲葉友)と密会を重ね、つまり夫婦仲は冷え切って久しいものがあります。

ずっと「ラブホの娘」として生きてきた雅代にとって、その日常は失望の連続でしかありません。

それでも従業員のミコ(余貴美子)と和歌子(原芙貴子)と一緒にボイラー室でおしゃべりする時間だけは救いのひとときではありました
(アノ声がよく響いてくる空間なのです……)。

また、彼女はアダルトグッズ販売営業員の宮川(松山ケンイチ)に片想いしていますが、なかなか告白する勇気がありません。

そんなある日、TVのニュースに映し出される暴力団員逮捕者の中に、ミコの息子がいました。

ショックを受けたミコはいつもと違う雪の残る帰り道を彷徨い出しますが、すんでのところで夫の正太郎(斎藤歩)に助けられます。

ふたりの愛の絆を目の当たりにしたるり子は、雅代にちゃんと自分を愛してくれるような男を探すように諭し、その翌日、坂上と一緒に姿を消しました……。

それから5年後、結局雅代は父の後を継いでホテル・ローヤルの女将になっていました。

そこにはいつものように「非日常」を求めてさまざまなカップルがやってきます。

子育てと親の介護に疲れる中年夫婦(正名僕蔵&内田慈)は、新婚旅行以来のバブルバスに浸かりながら、改めて夫婦の愛を確認し合っていきます……。

親に見放された教え子(伊藤沙莉)を心配するあまり、引っぱられるように部屋に入り込まされた高校教師(岡山天音)は、妻の裏切りに遭っていました……。

一方で、雅代は宮川が結婚したことを知らされます……。

そうしていくうちに、ホテル・ローヤルは思いもよらない危機に見舞われ……。

少女時代からの諦念を抱きつつ
大人になっていくヒロイン





概略でおわかりになるかとは思われますが、本作はいわゆるエロティックな情緒を扇情する作品ではありません。

あくまでもラブホテルという特殊な場所に集う人々の人間ドラマです。

日本の性環境のいびつさは海外からよく指摘されるところですが、その一員として住環境の狭さも挙げられます。

つまり子どもを持つ夫婦とか、壁の薄いアパートに住むカップルとか、のびのびと行為することができない。

そこでラブホテルという日本独自の特殊な空間が設けられ、人は人ときの安らぎであったり、憩いであったり、あるいはストレス発散、単に性欲の解消といったさまざまな事情でそこを訪れます。

このことをよく表しているのが中年夫婦のエピソードで、特に世代が近い人たちからするとかなりシンパシーをもって受け止められるエピソードではあることでしょう。

また女子高生と教師のエピソードは、女優・伊藤沙莉と岡山天音、今もっとも勢いづいている若手俳優ふたりの共演によって、さらなる現代的な情感あふれるものとなっています。

そして主人公の雅代の、人生のすべてをあきらめているかのような憂いある風情は、釧路湿原の美しくこそあれどこか寂しくも寒々しい閉塞的な空間とシンクロしているかのようでもあります。

特に多感な思春期の頃、実家がラブホテルということをクラスメイトなどに知られ、心なくからかわれたり後ろ指をさされたりするのは、忸怩たるものがあったことでしょう。

本作の波瑠は、そういった少女時代から培われてきた諦念みたいなものを引きずりつつ、少しずつ大人の女性として成長していくヒロインを真摯に演じてくれています。

監督は『百円の恋』(14)やネットフリックス『全裸監督』(19)で話題の武正晴ですが、本作を紹介する場合、こういった冠に加えて『イン・ザ・ヒーロー』(14)や『嘘八百』2部作(18・19)『きばいやんせ!私』(19)などにうかがえる快活なヒューマニズムと、『銃』2部作(18・20)のような哀しい青春ハードボイルドの要素を備える彼の資質が合わさったものと捉えたいところも大いにあります。

本作を見終えた後、ちょっとした地方の道を車で走ったりすると、素朴な風景には不似合いな派手派手しい建物もまた、日本ならではの情緒のひとつなのだと納得できることでしょう。

(文:増當竜也)