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2020-11-21

邦画実写

『おろかもの』レビュー:妹が兄の浮気相手とバディ!?おろかさ超一級の傑作!

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ついにリニューアルした「cinemas PLUS」!

こちらも《ニューシネマ・アナリティクス》と装いも気持ちも新たにしながら、今後とも新作を中心にした映画のレビューをし続けながら、特にこれから鑑賞される方々のための良きお手引きになればと願っております。

(だからネタバレ系は、ほぼほぼない……はず!?)

※ちなみに先週までアップさせていただいていた《キネマニア共和国》は音声配信アプリstand.fmのほうへお引越しさせていただきました。本稿と合わせてお聴きいただけると幸いです。

が、それにしても……。

第1回目から何というタイトルじゃ!?

そう思われた方もいらしゃるかもしれません。

しかし、これがもう“おろか”どころか、今の日本映画のインディーズ・パワーをさらに強くも面白く世に打ち出し得た青春映画の快作であり、10代と20代の女性同士の葛藤と共闘を見事に描いた(しかも出てくる女性たちがみんな輝いている!)バディ・ムービーの傑作でもあるのです!

兄の愛人が妹の共犯者に!?



映画『おろかもの』は、両親を亡くしてサラリーマンの兄に育てられている高校生・高城洋子(笠松七海)の思春期の微妙な心の揺れを、静と動のメリハリも巧みに躍動感あふれるタッチで描いていきます。

彼女の兄・健治(イワゴウサトシ)はまもなく結婚する予定になっていて、お相手の榊果歩(猫目はち)はもう当たり前のように高城家を訪れている間柄。

ただし、何でもそつなくこなせてしまう果歩に対し、洋子は心の奥底でどこかもやもやしたものを感じています。

そんなある日、洋子は兄に何と浮気相手がいて、まだ別れていないことを知ってしまいます。

思わずその浮気相手に会ってみた洋子でしたが、彼女は果歩とは真逆に、ちょっとだらしくなくも自分を隠そうとしない、常に本音で生きようとしていて、それゆえに傷ついたりもしている女性でした。

この浮気相手・深津美沙(村田唯)が、本作のもうひとりのヒロインとなります。

そもそもは兄のことをあきらめさせようとしていた洋子ですが(ならば兄にも怒るべきなのに、洋子にはそれが出来ません……)、不思議と美沙の魅力に引き込まれてしまい、いつのまにか微妙に仲良くなってしまっていくのでした。

絶対に兄のことをあきらめようとはしない美沙。

しかし結婚式は刻一刻と迫っていきます。

思わず洋子は口にしてしまいました。

「結婚式、止めてみます?」

この瞬間から、浮気相手の妹と浮気している本人との何とも不思議な関係性が始まってしまい、この後はもう怒涛のような展開に……なるのか? ならないのか?

そこは見てのお楽しみ!

(ただし、絶対に見る側をがっかりさせることはありません!)

映画館に行く?行かない?
映画ファンの本領が試されている傑作





本作は、今の日本映画界を牽引する若手監督を多く輩出してきた田辺・弁慶映画祭でグランプリを含む史上初の最多5冠(弁慶グランプリ、キネマイスター賞、観客賞、俳優賞=笠松七海、俳優賞=村田唯)を受賞した作品です。

田辺弁慶映画祭といえば、『愛がなんだ』の今泉力哉や『おらおらでひとりいぐも』の沖田修一など優れた才能をこれまで発掘してきた国内屈指の名映画祭として、映画ファンは要チェックの存在でもあります。

その映画祭で作品賞はもとより観客賞や、主演女優ふたりが合わせて俳優賞を受賞している事実にもご注目してください。

要するにこの作品、何よりも観客に愛され、主演ふたりが大いに愛される、そんな映画に仕上がっているのです!

洋子は何だかんだでブラコンが入っているようで、兄に結婚してほしいようなしてほしくないような、そんな微妙な気持ちを隠そうと努めているようにも見てとれます。

しかし、だらしなさと可愛らしさを併せ持つ愛人・美沙のかっこよさに魅せられてしまうという、自分でもわけのわからない不可思議な想いが発露してしまい、以後は思春期ゆえの微妙な心の動きともシンクロしまくり、それが両者の共闘関係および映画そのものの躍動感をも大いに高めまくってくれています。

一方で、婚約者の果歩ですが、これがごくごく普通の(要するにハタから見てると、ちょっとつまらない)女性のように見せておいて……といった、ちょっとしたサプライズも用意されていたりもします。

かと思うと、諸悪の根源でもある兄の優柔不断さよ!

もう同じ男性として、思わず3人の女性たちに「ごめんなさい!」と謝りたくなってしまうほど!?

ここでの女性たちは、それぞれ自分が愚かであることを認識しつつ、それでも前を向いて生きようともがいています。

一方で、男はただただ愚かです……(嗚呼!)。

しかしながら本作は、糾弾こそすれ誰のことも悪く描くことはなく、正負もしくは善悪の二分法だけでは割り切れない人間そのものの機微を優しく包み込んでくれています。

もうそろそろ2020年度の映画賞やベストテン行事などが開催されていきますが、少なくともそこに参加したいと思う人は、必ずこの作品を見ておくべきでしょう。

長引くコロナ禍のあおりを受けて、なかなかハリウッド大作が公開されにくくなって久しい現状ではありますが、本作は見かけのCGスペクタクルを優に凌駕する心の中の怒涛のようなスペクタクルを繊細に優しく、そして可愛らしくもダンディに醸し出していく、これぞエンタテインメントの誉れともいうべき快作です。

まずは東京のテアトル新宿にて11月20日&12月4日~10日までレイトショー。

続けて大阪、神奈川、沖縄、宮城、愛知、京都といった地域での公開が予定されています。
上映情報の詳細などは作品サイトをご参照ください。

正直まだまだ小さい扱いではありますが、こういうときこそ映画ファンの本領が問われるといってもいい。
最近、全国のシネコンが『鬼滅の刃』に占拠されている現状に憤っているマニアの声をチラホラ聞く機会ももありますが、ならば今こそ自分らが応援したい作品をちゃんと見に行き、その魅力を拡散していくことのほうがずっと得策でしょう。

(SNSこそは、そんな個人の応援活動を簡便に後押ししてくれる、またとないツールなのです)

映画とは見る人が増えれば増えるほど公開規模が拡大していくわけですから、その意味では本作『おろかもの』は見る側の目利きが問われているといっても過言ではない傑作であると断言しておきます。

(つまりは今、東京の映画ファンの責任も重大なのでした!)

(文:増當竜也)

(C)2019「おろかもの」制作チーム