『大コメ騒動』レビュー:現代とマッチする、女性たちの社会への怒りと家族への愛
増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」
意図的か結果的かはわかりませんが、映画がその時代とぴったりマッチすることが、時折起きたりするものです。
本木克英監督の最新作『大(だい)コメ騒動』も、そんな1本になっています。
今から102年前の日本で勃発した「米騒動」。それは当時の日本の女性たちの意地と家族への愛が起こした市民運動でもありました。
そしてそのきっかけとなったのは、まさに今の時代と同じ不況や貧富の差、戦争に対する危惧感などだったのです!
102年前の日本の女性たちが
起こした初の市民運動!
『大コメ騒動』は1918年(大正7年)に富山県の貧しい漁師町を舞台に描いていきます。
この町の男たちは魚が取れなくなると北海道や樺太などへ出稼ぎへ行き、残された女たちが家を守るのが常となっていました。
3人の子を持つ母親“おかか”であり、日頃は米俵を浜に運ぶ力仕事に従事している松浦いと(井上真央)もそんなひとりです。
さて、そんな中で米の価格が日に日に高騰していき、おかかたちは頭を悩ませています。
ついにおかかたちは、リーダー的存在である清んさのおばば(室井滋)の先導によって浜の米の積み出しを阻止しようとしますが、失敗に終わってしまいます。
しかし、その騒動は地元の新聞に採り上げられ、さらには大阪の新聞社が「女一揆」と大々的に書き立てたことから、騒動は全国に拡大していくのでした!
もっとも、体制側も手をこまねいているわけにいかず、あの手この手を使っておかかたちの士気をくじかせるための仕掛けを実行に移していきます。
おばばは捕まってしまい、そしていとにも美味しいエサが用意され、おかかたちの連帯はしぼんでいきます。
ところが、ある事故をきっかけに、おかかたちの我慢はついに限界を越えてしまい……!
社会の理不尽な仕打ちに対して
一矢報いたいと願う庶民の想い
本作は、1918年より全国で勃発していった米騒動、そのきっかけとなった富山県の米騒動が、地元の女性たちの社会に対する怒りと、家族に腹いっぱいのご飯を食べさせてやりたいという想いから起きたものであったことを訴えていく痛快エンタテインメント作品です。
コミカルなテイストを基調にした喜劇仕立ての雰囲気はありますが、底辺に敷かれているのはやはりヒューマニズム。
町に大人の男の数は少なく、その分女たちはたくましく残された家族を守り続けているのです。
その意味では、主人公のいとはまだまだおかかとしてはひよっこではあり、そういった未熟なおかかが次第に成長していく姿を井上真央が健気に演じています。
彼女を牽引するのは、奇抜な老けメイクに負けない存在感を醸し出している室井滋と、いとの姑を演じている夏木マリ。
二人のベテランの飄々とした個性もいかんなく発揮されています。
本木克英監督は青春ものからファンタジーまで多彩なジャンルを意欲的に手掛け続ける俊才ですが、最近は『超高速!参勤交代』2部昨や『居眠り磐音』などの時代劇にも才を発揮しています。
本作も大正時代を舞台にした時代劇ではありますが、彼が手掛ける作品は一貫して庶民感覚が貫かれていて、それは現代にも通じる普遍的な要素を多分に込めているのが大きな特徴ともいえるでしょう。
ささやかに日々を生きていたいだけなのに、それを妨げる理不尽な社会の仕打ちの数々。
それに対して一矢報いたいと願う庶民の気持ちが、彼の時代劇作品は常に込められているのです。
特に今回、本木監督は富山県出身ということもあり、一段と演出に熱がこもっている感も見受けられます。
コロナのようなウイルスこそ出てこないまでも、本作の中で描かれる理不尽な社会に振り回されっぱなしで疲弊しきった庶民の日常は、まさに私たちが今体感している鬱屈感と同じものが感じられること必至。
だからこそ本作の女性たちの逞しさもまた一段と魅力的に銀幕に映えわたるのでした!
(文:増當竜也)
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