映画コラム
『世界で一番しあわせな食堂』レビュー:北欧と中華料理が魅せる幸せランデブー!
『世界で一番しあわせな食堂』レビュー:北欧と中華料理が魅せる幸せランデブー!
料理が国境の隔たりをなくし
異文化の人々の架け橋となる
本作はフィンランド北部ののどかで保守的な村に、一組の中国人親子というストレンジャーが現れたことから始まる、ほのぼのとしたコミカル・ベースの中に人生の悲哀などを巧みに忍ばせたヒューマン・ストーリーです。国籍や文化の違いを「料理」というモチーフで表現しつつ、その違いを受け入れる村の人々。
特に中華料理は「医食同源」で食べると健康になるということで、地元の老人たちは大喜び!
また、その料理を食べたときの彼らの幸せそうな顔ときたら!
(見ているこちらもヨダレが垂れてきそうなほどに、美味しそうなものばかり!)
現在(といっても、コロナ禍の今はさすがに違うでしょうけど)ラップランド地方には中国人観光客が多数来訪していて、専用のホテルまでできるほどの賑わいとのこと。
そうした状況を知ったミカ・カウリスマキ監督は、国境の隔たりを払拭することのできる人間同士の希望の意思を「料理」にこめて、本作を企画していったのです。
実際、ラップランド地方の人々は基本的にオープンなキャラクターの人が多いとのことですが、食に関してはなかなか頑なで「箸を使った料理なんてとんでもない!」「サラダなんてウサギの餌だ!」みたいな頑固者も多いのだとか。
本作に登場するお客のおじいちゃんたちもまさにそのように描かれているのですが、みんなどこかしら身体に病気を抱えていて、それがチェンの作る料理を食べることで、どんどん健康になっていく!
もちろんそれは健康面に多少の効果こそあれども、さすがに病気を完治させることまではできないわけですが、むしろ村の人々は料理を通して心がどんどん健康になっていくのです。
もはや、そこには偏見も差別の心もありません(唯一、時折食堂を訪れるポリスが厭味ったらしい言葉を漏らすのが、また何とも皮肉が効いてます)。
一方で、チェン親子はなぜ中国からフィンランドを訪れたのか? も、ちょっとしたミステリとして描かれますが、その理由や帰結などもまた人生の哀歓を忍ばせたものになっています。
西洋人から見るとなかなか表情が読み取れないとも言われる東洋人ではありますが、本作のヒロイン、シルカのように誰かひとり理解者が現れてくれれば、そこから数珠つなぎで人間同士の心の交流はもたらされていくことを、本作は優しく示唆してくれているのです。
ここまで「タイトルに偽りなし」と断言できる作品も珍しいくらいにどんぴしゃりな、でもそのことを声高に叫ぼうとすると食堂のじいちゃんたちから「シッ」と小声で咎められそうな、そんな世界で一番幸せな国から運ばれてきた、見る人を幸せにしてくれる映画なのでした!
(文:増當竜也)
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