卒業シーズンに観たい「熱い気持ちになれる」青春映画3選
卒業式の前日、誰もいない教室で好きな人に告白し、答えははぐらかされた放課後。卒業式の後「これ、昨日の返事。これからもよろしく。」って第二ボタンを渡されて.....
なんていう甘酸っぱい思い出は勿論なくて、全て願望を含めたフィクションなんですけど、そんな学生時代を過ごしていなくても、熱い気持ちになれるそんな青春映画を3つ紹介します。
『セトウツミ』
瀬戸と内海という関西弁の男子高校生ふたりが放課後にまったりとしゃべるだけという斬新な内容の作品です。塾に通う一見真面目でクールな内海を池松壮亮、サッカー部で滲みるアホさが愛おしい瀬戸を菅田将暉が演じています。
菅田と池松のダブル主演というのが外せない魅力のひとつ。また、ヒロインの女子高生・樫村役を演じたのは中条あやみです。
此元和津也の人気漫画「セトウツミ」が原作の実写化されたこの作品。原作の面白さが秀逸ですが、主演のふたりがハマり役すぎて、何度も観てしまう中毒性のある作品になっています。会話のテンポ感、言葉選びのセンス、関西弁までが相乗効果でクスッと笑ってしまいます。
瀬戸と内海のふたりは正反対の性格をしているように見えますが、お互いの存在が心地良いと感じているのが伝わります。ハラハラするような急展開やスリルはないのですが、表情を変えずに笑わせようとしてくるシュールさに一度ハマると最後までつい目が離せなくなります。
また、ふたりにとって“いつもの場所”が河川敷というのもエモいです。恋愛や勉強、家族のことなど、高校生も大人も関係なく悩みは尽きないけれど、くだらない話をしているこの瞬間はふたりだけのもので、この作品を観ているとあたたかい気持ちになります。
巷で流行っているclubhouseという音声SNSがありますが、どこかそれに似た魅力があります。映画だけども音声だけでも楽しめてしまうのがこの作品の面白いところでもあるのです。
中身がありそうでない話をひたすらする放課後という、派手でキラキラした恋愛映画より共感できる人も多いのではないでしょうか。特にやることもないけれど、ただ隣にいてくれると落ち着く友達、どこにでもあるような時間もきっと青春と呼べるよな、と考えながら気軽に楽しめる作品です。
号泣したり、爆笑することもない、感情を大きく揺さぶられることもないけれど、こんな青春も悪くない。何気ない日常こそ、愛おしくなるはずです。家で、お菓子でもつまみながら、だらしない格好で観るのがおすすめです。
『四月は君の嘘』
母の死をきっかけにピアノが弾けなくなってしまった天才ピアニストの少年・有馬公生は、天真爛漫で明るいヴァイオリニストの宮園かをりに惹かれていきます。そんなかをりとの出会いと周りの支えによって、ピアノと母との思い出に懸命に向き合っていく公生ですが、かをりもまた、ある秘密を抱えていました。かをりが抱えている秘密とは...公生は辛い過去を乗り越えることができるのか...。
新川直司の人気漫画「四月は君の嘘」を広瀬すずと山崎賢人の共演で実写映画化されました。かをり役を広瀬すず、公生役を山崎賢人が演じ、ふたりを支える同級生役を石井杏奈と中川大志が演じています。演奏シーンは主人公の感情がそのまま音に現れているようで、心を激しく動かされます。
原作やアニメの人気が高い本作ですが、この実写版では実写ならではの映像の色彩感、俳優さんの魅力、音楽の素晴らしさが伝わる作品となっています。
主人公ふたりがピアニスト、ヴァイオリニストであるため、劇中流れる音楽、迫力ある演奏シーンが特に欠かせない見所です。音楽に生きるふたりと、それを取り巻く環境、評価される度にのしかかるプレッシャーがリアルに描かれています。
登場人物ひとりひとりにストーリーがあり全員欠かせない存在ですが、中でも公生の幼なじみ役を演じた石井杏奈の演技は学生ならではの葛藤や不安、大切な人を想う姿を表現していて個人的にハイライトです。悲しみや苦しみを乗り越えながらも、たくましく成長していく公生に強く胸を打たれます。
切なく苦しい展開と、情熱的な音楽、美しい春の描写が重なったときには鳥肌が経ちました。感動とは別で、悲しみでいっぱいになるシーンもありますが、いつかはくる別れに対して考えさせられる作品です。
卒業の季節は、様々な“別れ”を経験すると思いますが、そこにあるのは悲しみだけではなく、誰かを想う気持ちは自分を強くさせてくれます。
時間は有限ですが、その中で何かに一生懸命打ち込んだり、周りの人を大切にすることは一生の宝物になるはず。この作品を観て思いっきり泣いたら、一歩前に進み、躊躇していた何かがあるならば、ひたむきに挑戦してみるのも良いかもしれません。
『秒速5センチメートル』
小学校で出会い、互いに自然と惹かれあった貴樹と明里がこの物語の主人公です。淡くて美しい恋をしたふたりですが、小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまいます。そこからふたりの時間と距離の変化を全3話の短編で描いた作品です。
『君の名は。』『天気の子』の新海誠監督による2007年に公開された劇場作品です。
貴樹と明里が恋に落ちてお互いの気持ちを知る小学校時代から、離ればなれになるも明里からの手紙をきっかけに、貴樹が明里に会いに行くことを決意するところまでを第1話「桜花抄」。
中学生になった貴樹が東京から、鹿児島県の種子島に引越しをし離島での高校生活にスポットライトを当てられているのが第2話の「コスモナウト」。
社会人になり、貴樹は再び東京に戻りSEとして働き始めますが、明里との関係は...?二人の未来はまた交わるのか...?大人になった二人が描かれているのがラストの第3話「秒速5センチメートル」です。
主題歌が山崎まさよしの「One more time,One more chance」が起用されていることでも有名です。
第1話では可愛らしい両想いの恋のお話かと思いきや、話が進むにつれ貴樹と明里のリアルな距離感と時間の変化に胸を締め付けられます。お互いを想い合い、そこには二人だけの愛おしい時間が確実に存在したはずなのに、お互い親の転勤をきっかけにどうすることもできない環境の変化と離れていく距離。
どんなに大切な思い出があっても、二人の歩んでいる時間はそれぞれ動き続けていて、それは同じ歩幅とは限らないのです。第2話、第3話は特に貴樹目線で物語が進んでいきますが、明里への想いが鎖のように身体中に張り付いていて、どこにいても何をしていても、孤独や虚しさを感じているような貴樹に感情輸入してしまいます。観た後に語り合いたくなるのが、この作品の面白さでもあります。
またなんと言っても、映像の美しさがこの映画の最大の魅力ではないでしょうか。実在する場所を舞台に描いているのですが、その細やかさは本当に圧巻です。わたし自身、第2話の舞台である種子島に住んでいたことがあるため、この作品を観たとき、まずその忠実な再現度に驚きました。観た人は確実にテンションが上がり、一気に魅了されるポイントでもあります。胸が痛むシーンも、映像の美しさで心のバランスが取られているような感覚になります。
「卒業」には一人一人に背景があり、変化があるものです。時に、自分の力ではどうしようもできないこともありますが、変化を恐れないこと、受け入れることができたなら、少しは前向きに生きることができるのではないか、そう考えさせられる作品です。貴樹を見ていると辛くなってしまうのですが、どこか救われている自分もいます。
わたしがこの作品を初めて観たのは、大学生の頃で、すれ違い変化していくふたりの関係にどうしても納得ができませんでした。「好きなら会いに行けば良いのに!」「好きなもの同士なら、ずっと一緒に入れるはずでしょ!」と、とにかくモヤモヤしてしまったのです。
しかし、5年以上経ってからまたこの作品を観たときに感じたものは、あの頃と全く違う感情でした。これが良いことなのか、悲しいことなのかは分かりませんが、当時理解できなかった大人たちが言う「恋愛や結婚は“タイミング”」というのが今ならなんとなく分かります。それを表現しているような切なさや苦しさがこの作品には繊細に描かれています。
終わりに
3月は卒業シーズンですが、学生にとっては歯痒い思いもたくさんした1年だったでしょう。それを支えてきた家族もきっと同じ気持ちです。思い描いていた「青春」ではなかったかもしれませんが、何気ない日常こそ宝物なんだなといつか感じる日がくるでしょう。”いつも通りじゃない”からこそ、数年後特別な思い出に変わる日が来るかもしれません。卒業は別れであり、一つの区切りでもあります。
映画の主人公たちのように、もがき苦しみながら様々な困難を乗り越えるには相当な体力と気力が必要ですが、頑張りすぎず時には自分を甘やかすことも大事です。
今は寂しい別れでも、いつかの明るい出会いに繋がりますように。音楽や映画は、そのときの思い出と紐づいて心の中に残ることが多くあります。
今回紹介した作品をまた数年後、観てみてください。きっと誰かと語り合いたくなるはずです。
(文:nanagohan)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。