「スーホの白い馬」を読んだときから、なんとなくモンゴルという国に興味を持っていた。

当時小学2年生だった私は、兄の部屋にあった地球儀でモンゴルを探した。ロシアと中国に挟まれた海のない国、モンゴル。

大人になり、自分でお金を稼げるようになると海外旅行が趣味になった。そして、９か国目に選んだ国がモンゴルだった。ツアー参加者は、私と夫のみ。ガイドの女性とドライバーのおじさんとの計4人の10日間の旅は、後にも先にもどこの国よりも最高だった。

あれから15年の月日が過ぎ、映画『ターコイズの空の下で』を鑑賞した。タケシがモンゴルの地で初めて見た風景は、私が訪れたモンゴルがそのまま残っていてスクリーンを食い入るように見つめた。

日本、モンゴル、フランスの3カ国による合作映画

監督・脚本は、国際派俳優でアーティストのKENTARO。

主演は映画『誰も知らない』で14歳のときにカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞した柳楽優弥だ。作品の中では怠惰な生活を送る青年、タケシを熱演している。

現在、30歳の柳楽だが劇中はもっと若く見え、ピュアさも感じる。本作は脚本通りの進行ではなく、即興的な演出方法だったようで確かに柳楽の表情一つひとつが物語っている部分が大きく占めている。

ここからは私の想像だが、若干14歳にして大きな賞を手にした柳楽は、そこからの役者人生に迷いもあったと思う。

しかし、本作に出会い、モンゴルという国に触れ、これまで彼が抱えていた大きな荷物を下ろすことができたのではないだろうか。映画の後半で見せる彼の開放された表情がそんなことを感じさせた。

タケシとアムラの奇妙な旅のはじまり

あらすじはこうだ。

大企業の経営者である三郎（麿赤兒）に甘やかされて育った孫のタケシは、東京で何不自由のない生活を送っていた。将来的にはタケシに自分の跡を継いでほしいと思っている三郎。しかし、タケシの頼りなさに頭を抱えていた。そんなある日、三郎が所有する競争馬を盗もうとしたモンゴル人のアムラ（アムラ・バルジンヤム）が目の前に現れる。モンゴルと聞いた三郎の脳裏には、かつてモンゴルで捕虜となったときに遊牧民の娘ともうけた一人娘があった。
そこで、三郎はアムラにタケシと共にモンゴルでその娘を探してほしいとお願いをする。
ここからタケシとアムラの型破りな旅がはじまった―。

セリフはほとんどない、目の表情と空気感がすべての映画

ビルばかりが立ち並ぶ東京から舞台がモンゴルに変わると、これぞモンゴルといった風景がスクリーンに映し出された。どこまでも続く青い草原、広すぎる空。日本とのギャップに驚く柳楽の表情は、多くの日本人が抱く感情そのものを表現していた。

全体的にセリフの少ない本作品だが、モンゴルが舞台になってからはさらにセリフが少なくなる。それでも片言の英語とジェスチャー、目の表情で何とでもなることがわかる。

ドキュメンタリー要素も十分

タケシとアムラの旅は、ドキュメンタリーのようでもある。

想像以上に揺れるバン。果てしなく続く大地や空が一瞬、嘘のように思えてしまう。観ていると草や土の匂いまでこちらに届きそうだ。

ビニール袋いっぱいの松の実を器用に食べるモンゴル人は、売られた喧嘩はとことん買うし、客人には馬の乳で作った「馬乳酒」を何度もすすめる。

劇中、モンゴル人ならではといった描写がところどころにみられ、モンゴルを体験したことのある人にとっては随所にツボがある。

モンゴルの人気俳優、アムラ・バルジンヤム

アムラ役のアムラ・バルジンヤムも最高だった。ハリウッドに初めて進出したモンゴル人俳優として知られており、モンゴル国内の映画賞で多くの賞を受賞している人気俳優だ。

強面ではあるけれど、実はチャーミングで優しいアムラ。

これぞモンゴルの男といった強靭なモンゴル男性を演じている。広い大陸に不安を感じたとしても、隣でアムラが運転をしてくれていたら誰でも安心するのではないだろうか。

だからこそ中盤で突如してアムラがいなくなると途端に不安になるタケシ。アムラの存在意義をまざまざと感じた。そして、広い大地に取り残されたシーンから一気にタケシに感情移入ができたから不思議だ。

一つひとつのシーンを解説したいものの、ネタバレになるのでここでは止めておく。

ただ、見終わったあとにシーンごとに語りたくなる映画だった。そしてもう一度見たいと思わせてもくれる。

静かだけれど、とてつもないメッセージ性を感じた映画『ターコイズの空の下で』。
大きな画面でとことんモンゴルを感じて欲しい。

（文：駒子）

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